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西村義明P、スタジオポノックの未来は考えない「いい作品を作れば次へつながる」

6/19(月) 8:10配信

オリコン

 スタジオジブリで映画プロデューサーとして活躍。ジブリの制作部門の解散後、「アニメーション映画を作り続けたい」という米林宏昌監督に声をかけてスタジオポノックを立ち上げた西村義明氏。「いい作品を作れば必ず伝わる。それが次へとつながっていく。そう信じてやっていくだけ」と語る西村氏は、新たな船出となるポノック第1作『メアリと魔女の花』にすべてをかけている。

【画像】『メアリと魔女の花』に登場する魔法のほうき

◆スタジオジブリでは実現できなかった企画

――今夏話題の『メアリと魔女の花』は、スタジオポノック初の長編アニメーション映画であり、また『思い出のマーニー』(14年)でタッグを組んだ米林宏昌監督とのスタジオジブリ退社後第1作となる記念すべき作品です。
西村義明 1作目にして、東宝の夏の大作を担うとは幸運なことです。期待に応えなくてはいけないと思いながら、アニメーションを作る環境をゼロから作り、日本最高峰のクリエイターを集めるのは本当に至難でした。ジブリは偉大だったと何度も感じました。宣伝告知活動においても、ジブリでは各セクション計30人くらいが、それぞれの展開の窓口となって行う。いまは製作委員会各社の協力を得ながらですが、ポノック単体でいうと、僕を含めた2人で海外セールスまで手がけています。ヘロヘロになりながら、闘っていますよ。昨日もアニメーターに「『あしたのジョー』の(特等少年院を)出所した力石徹みたいになってます」って言われましたし(苦笑)。

――製作発表会見では、監督3作目となる本作は、米林監督の“勝負作”になると明言されました。西村さんにとっても、3本目のプロデュース作です。
西村義明 今回米林監督とは、企画立ち上げの段階から、子どもたちが本当に楽しめるアニメーションを作ろうという共通の思いがありました。監督にはいま9歳になる息子さんがいて、僕には11歳の娘と5歳の息子がいます。喜んでもらいたい相手が目の前にいる恵まれた環境で、作品を作ることの純粋さを感じています。実のところ、これは3本目にして、初めての体験なんです。今回、僕らが作りたいのは、手練手管を弄して巧妙な複線が張り巡らされたストーリーじゃない。アニメーションという表現を用いて、シンプルな物語のなかに大切なことをきちんと伝えていく。“アニメーション映画づくり”の意味では、原点に戻っています。一方で『メアリ』のようなファンタジー、大冒険モノは、ジブリでも実現できなかった企画だとも思っていますし、本作に参加してくれたジブリ出身のクリエイターたちにとっても、嬉しい挑戦だったようです。仕事を終えたクリエイターたちが「大変だったけど、楽しかった」と笑顔で去っていく。企画した人間にとって、とても光栄な言葉です。

――新たな境地に立ち、改めて米林作品の魅力をどのように捉えていますか?
西村義明 表現においては、まず『マーニー』で実現した、登場人物の心情を投影した背景美術の繊細さです。『マーニー』では、主人公の描く絵や水辺の背景に、彼女の気持ちが美しく描き出されていた。あの細密な背景表現は、米林監督の持ち味のひとつだと思います。アニメーションに関しては、宮崎駿監督に見出された才能で『崖の上のポニョ』(08年)の頃から、ダイナミックなアニメーションを得意としてきた。今回は、米林監督の得意技である、躍動感あふれる画で勝負してもらいたいと考えて、魔女をモチーフに選びました。

◆アニメヒットの背景に観客を取り巻く時代の変化

――魔法に頼らず、自分の力で前向きに生きようとする本作の主人公メアリは、米林監督が監督デビュー作『借りぐらしのアリエッティ』(10年)、第2作『マーニー』で描いてきたヒロイン像にも重なります。
西村義明 もしも米林監督の諸映画に通底するテーマがあるとすれば“勇気”だと僕は思います。勇気をもって、一歩踏み出す少女たちを描き、常に誰かの背中を押す映画を作ってきた。米林監督自身もまた、作家としてそれを体現してきた人です。ジブリでいきなり監督を務めるなんて(米林監督は当時ジブリ史上最年少の新人監督)怖くて仕方ないですよ。『マーニー』のときは、あんなに難しい原作を自分から「やります」って言いに行った。僕なんて鈴木敏夫プロデューサーに二度も、映画化が困難だしアニメーションには向かない、やめた方がいいと進言しましたから。でも彼は、素晴らしい作品を作り上げた。米林監督はそうやって勇気を持って新しい挑戦を続けてきました。
 いま、2020年より先の未来を、誰もイメージできない。先行きの見えない不安から、若い人は保守的になったりする。若い人に限らず、見通しの立たないときは誰しも、ひとまずそこに止まろうとするものです。でも、メアリは立ち止まりません。本当の絶望とは、未来がすべて決まってしまっていることだから。未来が決まっていないからこそ、人は希望を持てるんです。その希望に手を伸ばすためには、怖くても、その先に一歩を踏み出すしかない。たぶん米林監督は、そんな暗闇のなかの勇気を描こうとしているのだと僕は感じています。本作と監督の人生は符合している。だからこそ、メアリは人の心を打つだろうと思うんです。

――言葉では伝えられないこと、ひいては実写では届けにくい大事なメッセージをスムースに観客の感性に訴える、アニメーションならではの魅力は、昨今のアニメブームからもうかがえます。2016年の年間映画興行TOP10のうち7本がアニメ作品だったことを、西村さんはどのように分析しますか?
西村義明 僕は評論家でもないし、ヒットの動向を客観的に語るのもあまり好きではありません(苦笑)。それを前提にしたうえで言えば、アニメの需要が増えたというより、観客を取り巻く時代の変化だと思います。いま、世の中(実人生)が大変になり過ぎて、実写でリアルな、深刻なものを観たくないのかもしれない。リアル過ぎると重たく感じて、たまの休日に楽しもうとは思えない。でも、アニメーションだと自分たちの世界との間に“絵”というフィルターがすでにあるから、現実的なドラマを描いたとしても、一歩隔てて安心して鑑賞できるのではないかとも思います。

◆制作現場の現状と“クールジャパン”への違和感

――日本にアニメが誕生して、今年でちょうど100年。独自の文化を確立した日本アニメは、海外にもファンが多く、本作も公開前から世界の注目を集めています。アメリカなどの大手スタジオに比べて、低予算で製作されることによる製作体制&公開本数の多さや、それに伴う作家の多様性など、海外市場における日本アニメの魅力をどう捉えていますか?
西村義明 日本では少ない予算でいいアニメーションが作れるなんて、嘘ですよ。何かを犠牲にしているのだから。まず、この状況を変えないといけない。うちはなんとかクリエイターの賃金を保障しながら作れましたが、日本のアニメーション制作現場の現状は悲惨です。そんな状況下で「クールジャパン」というキャッチフレーズばかりを耳にすると、正直「ちょっと待って」と感じてしまう。ただ海外で売れればいいのなら、それは文化ではなく、単なるビジネスです。日本のアニメーションをグローバルに発信していくのなら、どのような文化として押し出していきたいのか、少し熟考した方がいいと思う。文化的な礎がないまま、商業主義のみに傾倒していくと、いずれどこかで間違いが起きる。ジブリは売れたから尊敬を勝ち得たのではなく、作品の根底にある考えが世界の支持を得たんだと思うのです。ある脚本家の方に「高畑(勲)さんと宮崎さんは、安心して信じていい大人。日本の良心だ」と言われたことがあります。ジブリ作品なら、内容を知らなくても安心して子どもも親も一緒に観に行こうと思える。それはジブリ作品に、良心や哲学があったから。自分たちが誇りに思える作品を丁寧に作って、それを世に出していく。それを地道に続ける。それが世界への発信の理想的な姿だと思います。

――西村さんの喜びは、作品のヒットではなさそうですね。
西村義明 米林監督とフィンランドの小さな映画祭に行ったとき、ノートを握りしめた少女が「サインください!」って、監督に駆け寄ってきたんです。監督がマーニーを描いているときの、その子のうれしそうな表情は忘れられません。この経験が、その子の次(=未来)を生み、米林監督の次を生んでいくのだと思いました。子どもの笑顔には、興収1億円分の価値があります(笑)。子どもたちが喜んでくれることが、何物にも代えられない幸せです。むしろヒットでは何の幸福感も得られませんから。

――愚問を承知でお聞きしますが、会社代表としての未来のポノック像については?
西村義明 誤解を恐れず言うと、まったく考えていないですね。映画を作るときに先を見越していたら、いい映画にはなりません。映画って、作り終える頃には自分の子どものような存在になっていく。『メアリ』と向き合っているいま、未来のポノックについて考えるなんて、その子をないがしろにして、一家の行く末ばかり案じている親みたいなもんです。いい作品を作ったら、必ず伝わる。そしてそれが次へと繋がっていく。そう信じてやっていくだけです。
(文:石村加奈)
(コンフィデンス6月19日号掲載)

最終更新:6/19(月) 8:10
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