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アカデミー賞作品100本レビュー8:コーエン兄弟ら気鋭監督が躍進

6/14(水) 12:32配信

Stereo Sound ONLINE

 1929年、第1回目の授賞式が行なわれたアカデミー賞。同賞の受賞/ノミネート作品は世相を反映することが多いため、その歴史を紐解けば、同時にアメリカがどのような変遷を辿ってきたかが浮かび上がるのではないでしょうか?

 そこで、Stereo Sound ONLINEで「映画の交叉点」を連載中の映画評論家・久保田明さんが、これまでアカデミー賞を受賞、もしくはノミネートされた映画の中から国内盤Blu-ray / DVDになっている作品を100本を選択。その時々の時代背景を踏まえつつ、アカデミー作品について語ります。

(Stereo Sound ONLINE 編集部)

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湾岸戦争勃発の下で、コーエン兄弟、タランティーノらが躍進する

 1990年8月2日、石油資源の占有を狙ってサダム・フセイン率いるイラク軍が隣国クウェートに侵攻した。その10年ほど前に起きたイラン・イラク戦争のときはイスラム原理主義を押さえ込むためフセインを支援していたアメリカは、一転、国連決議に基づき多国籍軍を編成。1991年1月17日に空爆を開始し、2月終わりにはクウェートを解放する。これが湾岸戦争だ。

 このときブッシュ大統領(パパのほう)はサウジアラビアに圧力をかけ米軍の駐留を認めさせるが、イスラムの聖地での軍事行動が大きな反発を呼び、サウジアラビア出身のオサマ・ビンラディンが指揮するアルカイダが起こした2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件の原因のひとつともなった。

 この時期、アメリカ映画界では現在も活躍する気鋭監督たちが上昇気流に乗った。生年順に並べると(カッコ内は長編デビュー作)、兄のジョエルは1954年、弟のイーサンが1957年生まれのコーエン兄弟(『ブラッド・シンプル』1984年)、58年生まれのティム・バートン(『ピーウィーの大冒険』1985年)、60年生まれのリチャード・リンクレイター(『バッド・チューニング』1993年。これ以前に日本未公開の長篇が2本ある)。そして62年生まれのデイヴィッド・フィンチャー(『エイリアン 3』1992年)、63年生まれのクエンティン・タランティーノ(『レザボア・ドッグス』1992年)とスティーヴン・ソダーバーグ(『セックスと嘘とビデオテープ』1989年)、69年生まれのウェス・アンダーソン(『アンソニーのハッピー・モーテル』1996年)、70年生まれのポール・トーマス・アンダーソン(『ハードエイト』1996年)らである。

 自主製作の短篇やミュージック・ビデオで腕を磨いた才人が多く、オフビートのコメディという共通の土壌を持っているように思われる。笑えるけれど、物悲しい。残酷だけれど、ファニー。こういう多面性は、善悪で割り切れぬ混迷の時代を歩く作り手と観客双方の知恵なのかもしれない。メジャーとインディーズの間に、アメリカ映画の新たな可能性が生れた!



【許されざる者】(1992)
第65回:1993年3月29日授賞式開催
■監督:クリント・イーストウッド
■出演:クリント・イーストウッド/ジーン・ハックマン/モーガン・フリーマン
■アカデミー賞:
<受賞>
作品賞/助演男優賞/監督賞/編集賞
<ノミネート>
主演男優賞/脚本賞/撮影賞/美術賞/音響賞
種類:Blu-ray
価格:¥2,381
販売元:ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント

妻を亡くし、農夫として幼い子どもたちと暮らしている男がいまいちど憤怒のなかで鬼神となる。男優部門を含めてアカデミー賞とは無縁だったクリント・イーストウッドが、自身を育ててくれた映画ジャンルである西部劇の終焉を描き、監督、作品、助演男優賞(悪徳保安官役のジーン・ハックマン)を獲得した傑作ドラマ。登場人物のほとんどが闇と穢(けが)れのなかで喘ぐ演出が圧巻である。許されざる者とは誰なのか? 2013年に舞台を開拓時代の北海道へ移し、渡辺謙主演で同題の邦画リメイクが作られた。


【クライング・ゲーム】(1992)
第65回:1993年3月29日授賞式開催
■監督:ニール・ジョーダン
■出演:スティーヴン・レイ/ミランダ・リチャードソン/フォレスト・ウィテカー
■アカデミー賞:
<受賞>
脚本賞
<ノミネート>
作品賞/主演男優賞/助演男優賞/監督賞/編集賞
種類:DVD
価格:¥3,800(税別)
販売元:東宝

『狼の血族』(1984年)、『モナリザ』(1986年)、『マイケル・コリンズ』(1996年)などで知られる才人ニール・ジョーダン監督の(長く記憶に留まる)ラヴサスペンス。IRA(アイルランド共和国軍)の隊員と、彼が死に至らしめた英国軍兵士の恋人だったクラブ歌手との禁断の恋。カルチャー・クラブのボーイ・ジョージが歌う名主題歌が、世界を甘く切ない色合いに染め上げてゆく。映画のキモは、助演男優賞にノミネートされたジェイ・デヴィッドソン!


【フィラデルフィア】(1993)
第66回:1994年3月21日授賞式開催
■監督:ジョナサン・デミ
■出演:トム・ハンクス/デンゼル・ワシントン
■アカデミー賞:
<受賞>
主演男優賞/主題歌賞
<ノミネート>
脚本賞/メイクアップ賞
種類:Blu-ray
価格:¥2,381(税別)
販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

自由と博愛の街フィラデルフィアを舞台に、エイズに罹患し法律事務所を解雇された弁護士アンドリューの嘆きと希望、偏見との戦いを描いたヒューマンドラマ。柔らかさと強靭さを併せ持つ作劇が、先日他界したジョナサン・デミ演出ならではだ。主題歌賞を獲得したブルース・スプリングスティーンのほか、ニール・ヤングも楽曲を提供している豪華版。

主演のトム・ハンクスは翌年の『フォレスト・ガンプ/一期一会』でも2年連続して主演男優賞に輝いた。同賞はダニエル・デイ=ルイスの3回受賞(『マイ・レフトフット』『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『リンカーン』)が最高記録。それを追う2回受賞者は、現役ではダスティン・ホフマン、ジャック・ニコルソン、ショーン・ペン、それにハンクスの4人がいる。


【ジュラシック・パーク】(1993)
第66回:1994年3月21日授賞式開催
■監督:スティーヴン・スピルバーグ
■出演:リチャード・アッテンボロー/サム・ニール/ローラ・ダーン/ジェフ・ゴールドブラム
■アカデミー賞:
<受賞>
視覚効果賞/音響賞/音響効果編集賞
種類:Blu-ray
価格:¥4,200(税別)
販売元:NBCユニバーサル

当初は従来のストップモーション・アニメを使用した恐竜襲来シーンが考えられていたが、特撮工房ILMが試作したCGIの出来映えが良く、それと実寸大のアニマトロニクス(ロボット)が併用されて驚愕のスリルが生み出された。視覚効果、音響、音響効果編集賞という“マニア3冠“受賞作。以降『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(1999年)など、映画界はデジタル・エフェクツの時代へ大きく舵を切ることになる。

この第66回(1994年授賞式開催)は、『シンドラーのリスト』(1993年)で、スティーヴン・スピルバーグが念願の監督賞に輝いた年でもある。同作の作品、監督、脚色、撮影、作曲、美術、編集賞と併せ、計10個のオスカー像に恵まれる年となった。


【恋人たちの食卓】(1994)
第67回:1995年3月27日授賞式開催
■監督:アン・リー
■出演:ロン・ション/ヤン・クイメイ
■アカデミー賞:
<ノミネート>
外国語映画賞
種類:Blu-ray
価格:¥5,184(税込)
販売元:マグサム

妻を亡くし、3人の年頃の娘たちと暮らす元・名料理人の父親が毎週開く家族晩餐会。食卓の上を赦しと安寧の時間が流れてゆく。調理場面が楽しく美しく、猛然とお腹が空く台湾映画! 『幸せのレシピ』(2007年)、『大統領の料理人』(2012年)などひとの人生そのものである食を扱った作品は数多いが、そのなかでも際立つ名品はこれだろう。

 以後ハリウッドに招かれたアン・リー監督は、ヒース・レジャーとジェイク・ギレンホール共演の『ブロークバック・マウンテン』(2005年)と、『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(2012年)でアカデミー監督賞に2度輝く。ほかにも『ウェディング・バンケット』(1993年)と『いつか晴れた日に』(1995年)でベルリン映画祭の金熊賞を2度、『ブロークバック・マウンテン』と『ラスト、コーション』(2007年)でヴェネツィア映画祭の金獅子賞を2回。世界有数の名匠となった。


【エド・ウッド】(1994)
第67回:1995年3月27日授賞式開催
■監督:ティム・バートン
■出演:ジョニー・デップ/マーティン・ランドー
■アカデミー賞:
<受賞>
助演男優賞/メイクアップ賞
種類:DVD
価格:¥1,429(税別)
販売元:ウォルト・ディズニー・ジャパン

映画に対する情熱は誰にも負けないけれど、出来た作品はガラクタばかり。『怪物の花嫁』(1955年)、『プラン9・フロム・アウター・スペース』(1959)などで(一部に)知られる超低予算監督エドワード・D・ウッドJr.の奮闘を描いた伝記作品。1930~50年代の怪奇俳優ベラ・ルゴシを演じたマーティン・ランドーが助演男優賞を受賞した。

1988年の『ビートルジュース』から2010年の『アリス・イン・ワンダーランド』まで演出作のノミネート&受賞は多いが、そのほとんどは美術や衣装デザイン、メイクアップ賞など映画の外装にかかわるもので、ティム・バートン自身の監督賞ノミネートはない。でもそれも彼らしいのでは? 終幕でオーソン・ウェルズ(ヴィンセント・ドノフリオ)がエド・ウッド(ジョニー・デップ)に語る“他人の夢を撮ってどうなる? 夢のために戦うんだ”という言葉に勇気をもらい、エドとバートンは前進する!


【パルプ・フィクション】(1994)
第67回:1995年3月27日授賞式開催
■監督:クエンティン・タランティーノ
■出演:ジョン・トラヴォルタ/サミュエル・L・ジャクソン/ユマ・サーマン
■アカデミー賞:
<受賞>
脚本賞
<ノミネート>
作品賞/主演男優賞/助演男優賞/助演女優賞/監督賞/編集賞
種類:Blu-ray ※リンク先はAmazonプライム
価格:―
販売元:ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント

『レザボア・ドックス』(1992年)でも試みた時間軸を交差させる語り口をさらに華麗に、大胆に。カンヌ映画祭ではパルムドール(最高賞)を獲得し、クエンティン・タランティーノ監督の人気をさらに高めた犯罪ドラマ。低迷していたジョン・トラヴォルタも主演男優賞にノミネートされる快演を披露。以後ジョン・ウー監督とコンビを組んだ『ブロークン・アロー』(1996年)と『フェイス/オフ』(1997年)で人気男優の座に復帰した。


【リービング・ラスベガス】(1995)
第68回:1996年3月25日授賞式開催
■監督:マイク・フィギス
■出演:ニコラス・ケイジ/エリザベス・シュー
■アカデミー賞:
<受賞>
主演男優賞
<ノミネート>
主演女優賞/監督賞/脚色賞
種類:Blu-ray
価格:¥1,886(税別)
販売元:NBCユニバーサル

近年は『ラスト・リベンジ』(2014年)や『ドッグ・イート・ドッグ』(2016年)など、ポール・シュレイダー監督と組んだB級アクションで怪しいところを見せているニコラス・ケイジの主演男優賞受賞作。アルコール依存症の男(ケイジ)と娼婦(『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2&3』のエリザベス・シュー)の破滅的な愛を描く。これをダメ人間の足掻きと取るか、降下する恋愛ロマンと感じるかで評価は分かれるところだろう。スティングが歌うジャズの名曲「マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ」ほか劇中歌が粒揃いだ。


【ファーゴ】(1996)
第69回:1997年3月24日授賞式開催
■監督:ジョエル・コーエン
■出演:フランシス・マクドーマンド/スティーヴ・ブシェミ/ウィリアム・H・メイシー
■アカデミー賞:
<受賞>

<ノミネート>

作品賞/主演女優賞/助演男優賞/監督賞/脚本賞(ジョエル&イーサン・コーエン)/撮影賞/編集賞
種類:Blu-ray
価格:¥4,700(税別)
販売元:20世紀フォックスホームエンターテイメント ジャパン

偽装誘拐から一面雪のなかでの殺人事件へ。コーエン兄弟の巧みな話術と常連俳優の持ち味(劇中“ヘンな顔”と言われつづけるスティーヴ・ブシェミや、ウィリアム・H・メイシー)を満喫できる傑作犯罪ドラマ。『バートン・フィンク』(1991年)以降のコーエン作品のほとんどに参加するロジャー・ディーキンスの撮影がここでも素晴らしい。『007 スカイフォール』(2012年)など、計13回アカデミー賞にノミネートされた名手だが、いまだ受賞に至らないのが不思議。大きなお腹を抱えて捜査に当たる妊娠中の保安官を演じたフランシス・マクドーマンドは、兄ジョエル・コーエンのお嫁さんだ。


【今回のこぼれ話】
アカデミー賞には4つの特別賞がある。ゴードン・E・ソーヤー賞は音響監督の名を冠して第54回(1982年開催)に作られた技術部門の名誉賞。『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年)などの音響エンジニア、フレッド・ハインズや、『シンバッド七回目の航海』(1958年)のストップモーション・アニメの大家レイ・ハリーハウゼン、『2001年宇宙の旅』(1968年)やヴァーチャルリアリティを予見した意欲作『ブレインストーム』(1983年)で知られるSFXマン、ダグラス・トランブルらが受賞している。

ジーン・ハーショルト友愛賞は、アカデミー協会創設者のひとりハーショルトの死後、1957年から始まった。映画人全般が対象で、オードリー・ヘプバーンや音楽家のクインシー・ジョーンズ、最近では第86回(2014年開催)に、人道支援活動が認められてアンジェリーナ・ジョリーが受賞している。

『グランド・ホテル』(1932年)などの製作者で、1937年に36歳の若さで他界したプロデューサーの功績を称えて第10回(1938年開催)から表彰が行なわれるようになったのがアーヴィング・G・タルバーグ賞。オスカー像ではなくタルバーグの頭像が贈られる。初期にはダリル・F・ザナックら大プロデューサーの受賞が多かったが、近年はジョージ・ルーカスや製作者のディノ・デ・ラウレンティスなど、残念賞の雰囲気も。

名誉賞は、授賞式とは別に映画芸術科学アカデミーが選定し贈る賞。近年ではロジャー・コーマン、宮崎駿、ジャッキー・チェンらが受賞している。

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<久保田明 プロフィール>
映画ファンから絶大な人気を誇った伝説の情報誌「シティロード」の編集を経て映画評論家に。以後さまざまな媒体に登場し、その深い考察で読者を唸らせている。Stereo Sound ONLINEで「映画の交叉点」を連載中。また、月刊HiViのソフトページ「VIDEO SOFT VIEW」コーナーで、LD時代から20年以上にわたり活躍している。

Stereo Sound ONLINE / 久保田明

最終更新:6/15(木) 18:05
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