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LINEが台風の目になる? 会話型AIの世界

6/15(木) 7:10配信

ITmedia ビジネスオンライン

 米Googleは、会話型AIサービス「Googleアシスタント」の日本語版を5月29日にスタートさせた。天気、地図などの各種検索や、予定の確認、リマインダーの設定といった従来のサービスをスマホと対話しながら操作することが可能となる。英語版のサービスは既に2016年から始めていたが、ようやく日本語にも対応した。

【Googleアシスタントの使用例】

 このサービスを利用するためには、Android6.0、7.0のOSが入った端末が必要であり、今後、数週間かけて対象機種に機能が追加されていく。多くの利用者がこのサービスを受けられるようになるまでには多少時間がかかるが、日本語でのサービスが始まった意味は大きい。

 同社は、同じく英語版を先行発売していた音声認識スピーカー「Google Home」についても、日本語対応製品を年内に発売する見通しを明らかにしている。Google Homeは、室内に置いておき、利用者は話しかけるだけで、Googleアシスタントのサービスを利用できるというもの。スマホを持つ必要がなく、AIが人の会話と指示を聞き分けるので、家庭におけるAIサービスの本命と期待されている。

 音声認識スピーカーの分野ではAmazon.com(アマゾン)が先行しており、同社の製品である「Amazon Echo」は、既に2500万人以上の利用者がいると推計されている。Appleも6月5日、スマートスピーカー「HomePod」を12月に発売すると発表したほか、国内勢ではLINEやソフトバンクが同様のサービスを年内に開始するとしている。

 現時点においてはアマゾンのシェアが圧倒的で、それにGoogleが続くという図式になっており、Appleをはじめとする後発組には勝ち目がないように思える。だがAIが持つポテンシャルの大きさを考えると、必ずしもそうとは言い切れない。今後、AIによって提供できるサービスの水準によっては、容易に順位が入れ替わる可能性があるからだ。では新しい会話型AIのサービスは私たちの生活やビジネスをどう変えていくのだろうか。

●いかにAIサービスに入り込めるかが重要

 会話型AIの家庭内での利用シーンとして最初に想像できるのがショッピングとニュースだろう。Webサイトやスマホのアプリを通じた従来型サービスの場合、利用者は一度に複数の製品やサービスを閲覧し、比較検討することができる。会話型AIでもそうした作業は可能だが、現実にはそうはならない可能性が高い。

 例えば「ランニングのときに装着できるヘッドフォンが欲しい」とAIサービスに指示した場合、恐らく最初に紹介されるのは1つの製品に限定されるだろう。「これ以外にもこんな製品があります」と追加で紹介されることになるが、音声のやりとりでは数は限定されてくる。

 会話型サービスの利点は何と言っても手軽さである。利用者は価格など重要な項目において、ある程度満足できれば、その製品をすぐに購入してしまう可能性が高い。逆に考えれば、最初に紹介される商品に入らなければ、顧客が買ってくれる確率はぐっと下がってしまうことになる。

 ニュースの閲覧も同じである。AIに向かって「今日、話題のニュースは?」と聞けば、AIはすぐにいくつかのニュースを紹介してくれるはずだ。だが音声の場合、どうしても細かいやりとりは面倒になる。結局、最初に紹介されるニュースになるかならないかで、ニュースサイトの閲覧数は決まってしまう。

 これまでもWebサイトの世界では、Googleの検索エンジンで上位に表示させる技術(SEO)がアクセス数を左右してきた。今後は各社のAIサービスの中に、いかに自社のコンテンツや商品を流し込んでいけるのかによって、製品やサービスの売り上げが変わる時代となる。

●LINEが台風の目になる?

 この話は、ネット通販やコンテンツの分野だけにとどまならい。外食産業のような世界にも、確実に変化の波は押し寄せてくる。近い将来、会社のオフィスに1台、こうした会話型AI端末を設置することで、必要な文具の手配やお弁当などのデリバリー、飲み会の予約など、あらゆる雑務をAIが引き受けるようになるはずだ。

 AI端末は会社のメンバーに誰がいて、どんな好みがあるのかも理解しているので、「今週、飲み会をしたい」と話しかければ、最適なお店の予約をしてくれるだろう。そうなってくると、外食産業の分野においても、真っ先にこうしたAI対応を行った企業とそうでない企業には大きな差がついてくる。

 このような視点でAIの業界を眺めて見ると、相当なポテンシャルを持っているのがLINEである。普通に考えれば、AIの技術で先行するGoogleや、ネット通販の巨大なインフラを持つアマゾンに対して、後発組には勝ち目がないように思える。だがLINEは、日本人のほぼ全員がアカウントを持ち、決済といった基本インフラも備えている。業界にもよるだろうが、LINEを社員同士の日常的な連絡手段に使っているところもある。

 こうした環境に本格的なAIが投入された場合、LINEのサービスが急成長する可能性は十分にある。実際、小売り業界を中心に、LINEを活用したチャットbotサービスの利用も広がりを見せている。会話型AIの普及は、IT業界以外のあらゆる業界を巻き込むと同時に、IT業界の再編も促す可能性があるのだ。

(加谷珪一)