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【安藤政明の一筆両断】解雇金銭解決制度の必要性

6/15(木) 7:55配信

産経新聞

 解雇をめぐる当事者間の紛争を、金銭で解決しようという「解雇金銭解決制度」は何度も検討され、その度に、先送りされています。特に労働組合などから「カネさえ払えば解雇が認められるとはケシカラン」と、非難されまくっています。しかし、現在の解雇法制に、さまざまな課題があることは事実です。この制度は、必要性があるからこそ度々、検討されているのです。

 少し意外かもしれませんが、労働法の条文では、原則として解雇は自由です。「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」に限って無効とされます。無効とされたら、解雇自体がなかったことになります。この場合、解雇された従業員は、引き続き従業員であることが認められます。解雇が不服な場合、「もう職場に戻る気はないが、それなりのカネを払え」と訴えるのではなく、原則として「従業員であることを認めろ」と訴えるしかないわけです。労働者としての「地位確認請求」といいます。

 ところが実態はどうでしょうか。特に中小企業において、解雇された者が本心から職場復帰を望むことは、非常にレアケースだといえます。職場復帰を望まない場合は、どうしたら良いのでしょうか。

 通常は、自分を解雇した会社のことは忘れて、就職活動をするでしょう。しかし、解雇を不当として訴えたい場合は、原則として本心を偽って地位確認請求することになるわけです。職場に戻るつもりはありませんから、目的は「カネ」です。こういう人に限って「カネが欲しいのではない。解雇が不当だと認めさせたい」とか言います…。

 ですが現実をみれば、解雇訴訟の多くは、判決を待たずに和解が成立しています。和解といっても、仲直りするのではなく、金銭解決です。このパターンのほとんどの和解条件は、事業所が金銭支払いに応じ、従業員は地位確認を放棄するというものです。

 これはまさしく、金銭補償です。解雇金銭解決制度があれば、最初から地位確認請求ではなく金銭請求ができて、同様の結果が得られるわけです。そもそも、職場復帰を望まないにもかかわらず、その本心を隠して地位確認を求めて提訴すること自体が、大いなる矛盾だと言わざるを得ないのです。

 以上の通り、解雇された従業員が職場復帰にこだわらない場合、解雇金銭解決制度には、メリットがあります。それなのに、議論がなかなか進まないのは、なぜでしょうか。

 反対派は、解雇を決断する心理的抵抗が低くなることを恐れている、と推測します。

 現実は、解雇が認められるハードルが高すぎて、事業所が解雇を躊躇(ちゅうちょ)することが多いと考えられます。裁判になれば、いくら払わせられるか明確な基準はありません。しかも最悪の場合は、解雇したはずの従業員が戻ってくるのです。

 一定の金銭補償が「最悪の結果」であれば、解雇を決断しやすくなるでしょう。

 ところで、事業所がまったく問題がない従業員を、わざわざ金銭を支払ってまで解雇することがあり得るでしょうか? 少なくとも、よほど変わった経営者でない限りそのようなことは考えられません。従業員の傷病や事業所の深刻な経営難のような場合もあります。ですが、これらを除けば、解雇は本人に大きな問題のある従業員に限られるといえます。能力不足、勤怠不良、態度不良、協調性欠如、指示命令違反その他、非違行為のある従業員です。こうした従業員が解雇されず、放置されれば、迷惑を被るのは誰でしょうか。もちろん事業所もですが、実際に日々迷惑を被るのは、同じ職場の多くの誠実な従業員なのです。職場全体が不幸な状態です。労働法が「善良な労働者」を前提としているため、問題従業員への対応などにおいて、誠実な従業員が大変な思いをしている実態があります。この問題の一部でも改善されると期待されるのが、解雇金銭解決制度なのです。

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 4月27日付にお知らせした「第2回熊本地震被災神社復興支援演奏会・講演会」はお陰様で無事終了致しました。義捐(ぎえん)金として94万2680円をお預かりし、6月14日、全額を熊本県神社庁に奉納させていただきました。多くの方々にご支援ご協力いただきましたこと、心から感謝申し上げます。

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【プロフィル】安藤政明

 あんどう・まさあき 昭和42年、鹿児島市生まれ。熊本県立済々黌高、西南学院大、中央大卒。平成10年に安藤社会保険労務士事務所開設。武道と神社参拝、そして日本を愛する労働法専門家として経営側の立場で雇用問題に取り組んできた。労働判例研究会、リスク法務実務研究会主宰。社労士会労働紛争解決センターあっせん委員。警固神社清掃奉仕団団長。

最終更新:6/15(木) 7:55
産経新聞