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<共謀罪法成立>弁護士、元裁判官に問題点聞く

6/16(金) 10:34配信

河北新報

 「共謀罪」法の成立を受け、市民への捜査権乱用などを懸念する声が相次いでいる。弁護士や裁判官として長年、刑事司法に携わってきた2人に問題点を聞いた。

【写真】法成立強行「許せない」怒りと抗議

◎冤罪事件が増えるのでは/青木正芳氏(82)松山事件再審主任弁護人

 証拠に基づかない捜査が進められ、人の供述だけで有罪判決が導かれる。計画・準備の段階を処罰対象とした「共謀罪」法の成立は、「疑わしきは罰せず」とした刑事裁判の原則を根底から揺るがしかねない。

 33年前、仙台地裁で再審無罪を勝ち取った「松山事件」は捜査手法がいくつも問題となった。被告の男性は虚偽の自白を強要され、捜査側に都合の良い物証が作られた。当初は最高裁さえ見抜けず、誤った死刑判決を下してしまった。

 再審で証拠の矛盾を明らかにできたが、運が良かったにすぎない。供述に依存して重い刑が言い渡され、後に検察が隠していた証拠によって無罪が証明される。過去、何度もそうした事態が繰り返されてきた。「共謀罪」成立で冤罪(えんざい)事件は増えるのではないか。

 冤罪は予断や偏見、思い込みに加え、「犯人を捕まえたい」との焦りから生まれる。新しい「武器」を手にする捜査機関は、情報を得るために電話などを盗聴したり、市民に密告を促したりする危険性がある。

 日本全体が監視社会になり、疑わしい人に目を付けていく。自由な発言ができない社会のすさんだ人間関係など誰も望まない。

◎刑法の基本原則に反する/泉山禎治氏(81)元仙台地裁所長

 「共謀罪」法は適用対象が曖昧で抽象的だ。社会のどのような行為を罪とし、何の罰を科すかを法律で定める刑法の基本原則「罪刑法定主義」に反している。憲政史上の一大汚点と言わざるを得ない。

 犯罪行為の準備段階を処罰できる「共謀罪」は、実際の実行行為を処罰の対象としてきた従来の刑法体系とは大きく異なる。犯罪の準備段階を裏付けるには、結局は内心に立ち入らないと分からない。言論は萎縮し、社会全体が「事なかれ主義」に陥りかねない。

 裁判官が令状を審査するが、歯止めにはならない。令状は捜査当局の一方的な見立てや推認であっても、一定の合理性があれば出さざるを得ない。裁判官時代、何度か令状請求を却下したが、個々の裁判官によって考え方は異なる。審査が通りやすい裁判官を狙い撃ちした令状請求も出てくるだろう。

 戦前の治安維持法は、政府の使い勝手がいいように何度も改訂され、最終的に異を唱える人たちが社会から排除されていった。

 「共謀罪」が同じ道をたどる可能性がないとは言い切れない。戦争を知る世代として強い危機感を拭えない。

最終更新:6/16(金) 17:31
河北新報