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「共謀罪」有効性は、乱用は 刑法学者に聞く

6/16(金) 3:12配信

朝日新聞デジタル

 「共謀罪」法が15日に成立した。政府は「テロなどの組織犯罪対策に必要」と説明し続けてきたが、有効性への疑問や捜査当局による乱用を危ぶむ声は根強い。刑法の専門家はどう見るのか。高山佳奈子・京都大教授と、井田良(まこと)・中央大院教授に、反対と賛成の立場から考えを聞いた。

【写真】井田良・中央大院教授


■高山佳奈子・京大教授

 国民に説明する姿勢が、政府には最初から最後まで欠けていた。私たちは、今後の「共謀罪」の運用を注視すべきだし、適用されれば違憲訴訟も起きるだろう。改めて問題点を指摘しておきたい。

 まず、「五輪を開くため必要な法律」という説明は、国民をだますための後付けだ。過去の政府文書を見ても、五輪のテロ対策と「共謀罪」を関連づけ始めたのは、最近になってからだ。

 また、単独テロや単発的な集団テロはカバーできず、これでは「テロ対策」と言えない。一方で「組織的テロ」は現行法で十分に対応できる。

 政府は「現行の予備罪では不十分」と言うが、予備罪などの対象範囲はかなり広い。「共謀共同正犯」(複数人で共謀し1人が犯罪行為に出ると全員犯人となる)と組み合わせると、犯罪の前段階で広範囲の処罰が可能だ。

 こうした法体系の下で、「共謀罪」を作らずに国際組織犯罪防止条約(TOC条約)を締結できた。条約の立法ガイドも「共謀罪を導入せずに組織的犯罪集団に対して有効な措置をとる余地がある」としている。

 政府答弁からは、一般人も対象になるのは明らかになっていたのに、国会審議はこの問題ばかりに時間が費やされた。より実質的な議論に進まず、残念だ。

 例えば277の対象犯罪のおかしさ。TOC条約の目的はマフィア犯罪の取り締まり。公権力に違法な影響力を及ぼす犯罪が典型的だ。ところが公職選挙法や政治資金規正法などがごっそり抜けており、選び方が極めて恣意(しい)的だ。

 こうした欠陥だらけだからこそ、政府は最後までコソコソしたのだろう。


■井田良・中央大院教授

 異例の採決は残念だが、一面的な議論や現実離れの抽象論ばかりで、出口が見えない中でやむをえない面もあった。

 犯罪発生前の早い段階で処罰する「処罰の早期化」は全世界で進んでいる。

 組織犯罪には一般市民の刑法とは違う原理が当てはまることは、もはや否定できない。特殊な原理が、一般社会を侵食しないよう囲い込むことが重要だ。その点、「共謀罪」は囲い込む工夫がされている。

 「共謀罪」の条文だけ見てあいまいと言う人が多いが、法案が組織的犯罪処罰法の改正という点をまず認識すべきだ。

 同法は、対象の「団体」につき「指揮命令系統、継続的・反復的な行動」などを要求する。その上で、「共謀罪」は目的が「重大な犯罪の実行」の場合に限定しており、諸外国に例を見ないほど十分な縛りだ。

 確かに、犯罪目的でない団体が犯罪集団に「一変」するのを捜査で明らかにするのは難しい。誤った捜査が行われる可能性はある。しかし、リスクがない法律などあり得ないし、むしろ有効な法律ほどリスクも大きいもの。必要なのは、有効性とリスクをはかりにかけて、ぎりぎり合格か見極めることだ。

 「共謀罪」でなく、現行の予備罪で十分という意見もあるが、無責任。国際組織犯罪防止条約が、共謀罪か、犯罪集団に加わることを罰する「参加罪」を求めている意味を軽視すべきでない。予備罪は法定刑が比較的軽い点も、組織犯罪防止の観点からは不十分だ。

 反対派の言う「刑法の一大転換」という表現は認識不足だ。国内でも、90年代ごろからサイバー犯罪や経済犯罪を中心に処罰の早期化は広く見られる。

 諸外国は、処罰の早期化をもっと進めている。日本の法律の「先生」であるドイツは、参加罪の処罰対象が幅広いが、監視社会だと聞いたことはない。この程度の早期化でうろたえている日本は、法治国家と言えるのだろうか。(聞き手 後藤遼太)

朝日新聞社