ここから本文です

“mstdn.jp” ぬるかる氏のエンジニア的ルーツを辿る

6/16(金) 13:00配信

アスキー

総務省『異能vation』プログラムにちなんだ、日本の“異能な人”たちを紹介する新連載。第1回はマストドンで一躍“時の人”となった、ぬるかる氏にインタビュー。巨大インスタンスを築き上げた異能な経歴は小学生時代のホームページ作りにルーツがある!?

 この春、一番注目を集めた大学院生といえば、分散型SNSである『マストドン』のインスタンス『mstdn.jp』を立ち上げたぬるかる氏だろう。彼が自宅サーバーで立ち上げたmstdn.jpは、瞬く間に世界最大(当時)のインスタンスとなった。2017年6月13日時点で、13万人が集まる巨大インスタンスだ。
 
 総務省が実施する独創的な人向け特別枠『異能(Inno)vation』プログラムが今年度も募集を開始した。国が異能を探すプロジェクトとして話題の『異能vation』だが、本連載でも“異能”な才能を見つけ出し、紹介していきたい。第一回は、冒頭で紹介したぬるかる氏。大学院生ながらいち早くmstdn.jpを立ち上げ、現在は株式会社ドワンゴに入社しつつも、継続して運営を行っている。この春、一躍時の人となった、まさに“異能”なぬるかる氏のルーツとは。
 
様々なインスタンスがあり、一極集中し過ぎていない現状は好ましい状況
―― そもそも『マストドン (Mastodon)』をどうして面白いと思われたんですか?
 
ぬるかる もともと“GNU Social”っていうプロトコルがありまして、それはマストドンと同じようにインスタンス同士で連合を組めたりするんですけど、以前から興味は持っていたんですが、なかなか設置したりできる機会がなく「今さら……」という気分だったんです。ですが、初めてマストドンを知ったときに「あ、これ、GNU Social互換なんだ」というのが分かって、じゃあやってみようかなという興味がわいたんです。
 
マストドン (Mastodon) とは
 
ドイツ人エンジニア、オイゲン・ロチコ (Eugen Rochko) 氏が2016年に公開した分散型SNS。TwitterやFacebookなど一企業が運営するSNSとは異なり、ソースコードがオープンソースで公開されているため、個人や団体、企業などが自由にサーバー(インスタンスと呼ぶ)を立てて独自に運営することができる。日本国内では、ぬるかる氏が運営するインスタンス“mstdn.jp”の登場により、2017年春からユーザーが増加し始めた。詳しい説明は、日本国内でマストドンを取り上げた初の記事と言われている、当編集部・遠藤の『Twitterのライバル? 実は、新しい「マストドン」(Mastodon)とは!』を参照されたい。
 
―― じゃあ、マストドンのような分散型でオープンソースのTwitter的なものには元から興味があったんでしょうか?
 
ぬるかる ガッツリ触っていたとか、アカウントを持っていたとかではないんですが、興味はありましたね。
 
―― その興味はTwitter的ソーシャルな仕組みに対してですか?それとも、分散しつつもサーバー同士が連合するところに対してでしょうか?
 
ぬるかる マストドンに触れるまでは“連合”について詳しい知識はあまりなかったので、SNSとして興味があったというほうが正しいです。
 
―― ネットの中にはいろんなサービスがあるなかで、マストドンってどんな特徴を持ったサービスだと思いますか?
 
ぬるかる “ホームタイムライン”だけ見るとTwitterなどと同じようですが、“ローカル”や“連合”という点は特徴的だと思います。
 
【※編集部注】マストドンには投稿が流れるタイムラインが3つ存在している。
 
―― ネットの中にはいろんなサービスがあるなかで、マストドンってどんなサービスだとお考えですか?
 
ぬるかる “マストドンは500字まで投稿できる”ということについて、初期の頃思っていたのは、それだけの文字数があれば日本語と英語を併記できるなっていうことです。最初マストドンにあまり日本人が居ない頃、「あ、これは日英併記に便利だなぁ」と思っていました。今となっては日本人ばかりですが(笑)。
 
―― 現在のマストドン界隈について、ぬるかるさんはどう感じられていますか?
 
ぬるかる 本当に色々なインスタンスが増えていますし、面白い動きもありますよね。たとえば、僕は『けものフレンズ』好きなんですが、インスタンス『ますとどんちほー』は、背景画像のカスタマイズなどの工夫がなされています。いまユーザー数が1000人くらいですけど、これくらいの人数なら管理もしやすいですし。あまりインスタンスを大きくしすぎると管理も大変なので。そう考えると、様々な人がインスタンスを立てていて、一極集中し過ぎていない現状は、好ましい状況だと言えると感じています。
 
―― 1人で複数のインスタンスにアカウントを作ることについては?
 
ぬるかる 「このインスタンスのローカルタイムラインが読みたい」と思ったときに、アカウントを登録しておくとやっぱり便利だなぁと思います。あと、もしも1つのインスタンスだけでアカウントを作って、それですべて済ませていると、“なにかあったとき”に困ると思うので、あまり深く気にせずアカウント自体は複数作っちゃうほうがいいのかなと思っています。
 
――“なにかあったとき”というのは、サーバーがダウンしたり、インスタンスが無くなったりということでしょうか?
 
ぬるかる そうですね。でも、インスタンスが1つ無くなったからといってサービス自体が無くなるわけじゃないというのも、マストドンの強みだとやっぱり感じますね。たとえそのサーバーがダウンしても、ユーザーは気楽に他へ移れるわけですし。結局のところ、マストドンはユーザーを第一にして作られているサービスだと思っています。
 
―― 現在のmstdn.jpは、あらゆる人が最初に登録するデフォルト的なインスタンスになっています。マストドンの本来のねらいからするとインスタントして規模が大きすぎるという見方もありますが、どうお考えですか?
 
ぬるかる はっきりとした趣旨をもったインスタンスはもちろん良いと思うのですが、そういったものがないユーザーの受け皿というか、何も考えずにただ始められる場も大事だと思っています。そういった意味でmstdn.jpの存在は重要だと思っています。
 
―― ぬるかるさんは、ドワンゴ就職ということのメリットを活かして、mstdn.jpの運営・管理をきちんとした体制でやっていく判断をされました。その過程で、とても冷静沈着な対応をされていたのが印象的でした。
 
ぬるかる 冷静沈着だったかと言われると、どうなんでしょうね(笑)。mstdn.jpはユーザー数で言えばやはり特殊で、自分のインスタンスを万単位の登録アカウント数まで膨らませたいと野望を持つ人がいるなら、運営・管理の面ではかなり苦しむことになると思います。ですが、1000~2000のユーザー数でグループを切ってインスタンス運営をするのなら、そんなに難しくはないと思いますし、ぜひそんなふうにして色んなインスタンスが立ってくれれば嬉しいなと思っています。
 
小学2年でホームページを作り始め、小学4年にはHTMLを書き始めていた
―― ぬるかるさんのエンジニア的なルーツは、どういったところからスタートしたんですか?
 
ぬるかる パソコンの世界には、本屋で『ホームページ・ビルダー』を買って、ホームページを小学2年で作ったことがきっかけで入りました。体験版の有効期限が切れて、しばらく放置していたんですけど、HTMLを手打ちすればいいっていうのを、小学4年ぐらいに本を読んで気づきました。
 
―― ちなみに、小学2年で立てられたホームページはどういう内容だったんですか?
 
ぬるかる 落書きをして描いたキャラクターを載せたサイトです。
 
―― ご自分で描かれたキャラクターのサイトなんですね。サイトは残っているんですか?
 
ぬるかる サイト自体は消えています。ただ、小学5~6年のときのものは残っていますね。
 
―― 当時周りのみんなには見てもらえたんですか? お友達に披露されたりとか。
 
ぬるかる 完全に自己満足で作っていました。ページビューとかは気にしてなかったですね。
 
―― それって具体的にはいつ頃のことでしょうか?
 
ぬるかる 2002年くらいです。最初はJavaScriptのコードを公開しているサイトからコピペしてきていたんですけど、そのうち自分で書くようになりました。
 
―― そのくらいから本格的なプログラミングに入っていったんですね。
 
ぬるかる そうですね。他に取り組んでいた内容で言えば、『TOWN』というCGIゲームを設置したりとかもしましたね。バニラ(編集部注:ソフトウェアなどを改変せず、提供された状態のままで使うこと)だとさすがにあれなので、Parlの本を読みながら改造しました。
 
―― それはいつぐらいですか?
 
ぬるかる 中学1年から3年くらいですね。
 
街作りゲームを好んで作っていたからこそ、みんなに遊んでもらいたくて公開していた
―― そもそも小学2年のときにホームページを立てたところが始まりということですが、ゲームにも興味をお持ちだったんでしょうか?
 
ぬるかる 小学生のときにRPGを作りたいなと思ったんですが、『RPGツクール』って有料ですよね。そうじゃなくて他に何かないかなぁと思って、『World Wide Adventure』で何かを作ろうとしていた覚えはあります。
 
―― ゲームを買うんじゃなくて、作りたいと思ったのはどうしてなのでしょう?
 
ぬるかる あまりゲームを買ってもらえなかったので。
 
―― ゲームを遊びたかったら作らなきゃいけなかったんですね!
 
ぬるかる おばあちゃんは買ってくれたりしてくれたんですけどね。
 
―― ああなるほど(笑)。お父さまお母さまは厳しかったわけですか。
 
ぬるかる 自分から言わないと買ってくれなかったので。僕あんまり主張するのは得意じゃないんですよ。
 
―― だったら自分でつくって遊ぼうと色々覚えながら作っていくなかで、プログラミングができるようになった、ということですね。
 
ぬるかる そうですね。2008年あたりは、自分のホームページにずらーっとCGIゲームを設置しまくっていましたね(笑)。
 
―― 作られたゲームはご自身専用なんですか? それとも一般の人が遊べるような状態で公開されていたんですか?
 
ぬるかる 一般の人が遊べる状態ですね。結構な人数のユーザーさんが当時いましたよ。
 
―― ゲームって、自分だけ遊べるようにしておくのでもいいわけじゃないですか。どうして公開されていたんですか?
 
ぬるかる 結局『TOWN』は街のシミュレーションで、他の人がいないと面白くないゲームなので。周りにCGIゲームをやってくれそうな人もいなかったので、だったら公開してみんなに遊んでもらいたいなと思っていました。
 
―― 好きだったのが街作り系のゲームだったんですね。そういうゲームが好きだから、公開せざるを得なかった。
 
ぬるかる その感覚って、結構ソーシャルゲームに近いのかなと。モリタポ課金とかも設置したので。結局利用されなかったのですが……。
 
―― 確かに、お金かかりますもんね。
 
ぬるかる そうですね。自宅サーバーではなく、『さくらのレンタルサーバ』だったので。
 
―― サーバーレンタルだとまさしくお金がかかるじゃないですか。それって、ゲームを買うより安くついたんでしょうか?
 
ぬるかる いやー……そうではなかったような(笑)。
 
―― ちなみに、そのお金って誰が出したんですか?
 
ぬるかる 親が(笑)。
 
―― 実はゲームを買ってもらうのと出費額は大きく変わらなかった、と。
 
ぬるかる けっこう高額なプランを契約していたので……。
 
―― でも、それがご両親には遊んでいるようには映らなかったということなんでしょうね。パソコンで勉強しているような。
 
ぬるかる そうですね。
 
―― そういう経験をお持ちだったからこそ、マストドンにも抵抗なく入られたのかもしれないですね。そういえば、ケモナー(注:ケモノを好む人々の総称)に関してもかなりお好きだとうかがいました。
 
ぬるかる 僕がマストドンを最初に知るきっかけになる、アスキーのマストドンについての記事を初めて見たのは、『けものフレンズ』を通じて知った人からのつながりだったんですよね。そもそも“マストドン”っていう動物の名前も、『けものフレンズ』に影響されて読んでいた本に書いてあったから、以前から知ってはいたんです。当時“マストドン”っていう動物を検索したら、アメリカのバンドが出てきて。それで「違うなぁ、僕が知りたいのは動物のマストドンについてなのになぁ」って言いながら調べていました。
 
ゲームはゆっくり1人で作っていきたいし、作りたいウェブサービスもある
―― ぬるかるさんはドワンゴさんに就職されたわけですが、今ドワンゴでは何をされているんですか?
 
ぬるかる いまのところマストドンを担当しています。今はインフラ周りの知見を蓄えるために技術書を読んだりしています。
 
―― なるほど。ソーシャルゲームに興味があるとすると、ゲーム会社に就職するという手もあったわけですよね?
 
ぬるかる 僕自身は、バリバリCGとかの人間ではないので。大学では物理シミュレーションの研究室を選んだのですが、それはCGに関して知識つけばいいかなぁという発想からだったんですね。なのでグラフィックライブラリーの使い方などは分かっているんですが、突き詰めたところ、シェーダーとかにはまだあまり知識がなくて。と言うのも、自分がゲームを作るんだったら、せっかくならすべてやりたいと思っているんです。
 
―― すべて!
 
ぬるかる 結局人が来ないとゲームって面白くないので、人を集めないと。その点が仕事として自分が取り組むには難しいのかなって。特にソーシャルゲームって、少し飽和してきつつあるというか。
 
―― 数年前と比べると、盛り上がりが落ち着いてきているようにも見えます。
 
ぬるかる 最近のソーシャルゲームは、規模の大きなゲーム会社がお金をたくさん投入して、やっとペイできるというような感じになってきてるじゃないですか。そう考えると、会社でゲームを作るとなれば、自分が関わるのはあくまでもその一部分になるわけですよね。それなら、時間ができたらゆっくり、1人でちょこちょこと作っていくほうが自分には合っているのかな、と思っています。
 
―― 仕事というよりはライフワークというか。そういう方向なのかもしれないですね。他に、今後やりたいことはありますか?
 
ぬるかる 今は作りたいウェブサービスがあります。
 
―― いいですね。インスタンス管理人をやりながら、二足のわらじという感じですか?
 
ぬるかる そうですね。面白いことがやれたら良いなと思っています。
 
―― どんなサービスを考えられているのか期待してお待ちしていますね!
 
ぬるかる
 
オープンソース型のミニブログサービスである『マストドン (Mastodon)』のインスタンスである『mstdn.jp』の運営者。2017年4月に個人で立ち上げて運営を開始し、登録ユーザー数が世界規模でも最多クラスのインスタンスとなっている。2017年5月には株式会社ドワンゴへ入社したが、引き続き自身のインスタンスを個人として運営している。
 
平成29年度『異能(Inno)vation』プログラム
 
詳細情報、応募は公式サイトをご確認ください。
 
総務省がICT(情報通信技術)分野において、失敗を恐れず破壊的価値を創造する、奇想天外でアンビシャスな技術課題への挑戦を支援する『異能vation』プログラム。平成29年度は下記の2部門で公募を受け付けています。
 
両部門とも平成29年度の申請受付は、2017年6月30日(金)まで。また全国で公募説明会を開催中です。詳しい情報は『異能vation』の公式サイト http://inno.go.jp/ をご確認ください。
 
文● プログラミング+編集部

最終更新:6/18(日) 19:48
アスキー