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社食がないのはなぜ? 交流の場はほかにある

6/16(金) 11:10配信

ITmedia ビジネスオンライン

 社食が食事提供の機能を超えて、コミュニケーション活性化や働き方の変化に対応する役割を担うようになってきた。しかし、それは社食でなければ実現できないわけではない。あえて「社食をなくす」という選択をしたキリンホールディングス。そこには、さまざまなコミュニケーションを促進させる仕掛けがある。

【執務室のフロア中央には吹き抜け階段】

●街に出てほしい

 同社は2013年、キリングループ16社の拠点を集約する形で、東京都中野区に移転した。現在は、ビールや清涼飲料、ワインなどの事業を行うグループ20社の約2800人が同じビルで働いている。そこには、社内で調理した食事を提供する社食はない。

 移転前、原宿などにオフィスがあったころは社食があった。しかし、新しいオフィスにはあえて食堂を作らなかった。なぜだろうか。

 「中野の街に溶け込み、お客さまと接点を持つことが必要だと考えたからです。社員にもっと街に出てほしい、という思いを込めています」。キリン人事総務部総務担当の永田知子氏はそう説明する。

 原宿などの都心とは違い、中野には生活圏が広がる。会社の外に出れば、キリングループの商品を扱う商店街や飲食店がある。そして近隣に暮らす消費者がいる。街を知ることが、商品を飲んでくれる人々の日常に触れることにつながる。そう考えているのだ。

 「会社の前には公園があり、お子さんを連れたお母さんの姿もあります。移転前には見られなかった日常が見えてくるのです。キリングループの商品は、子どもから大人まで、一生の生活に深く入り込んでいく。そういった意識を持つきっかけになっています」(永田氏)。

●グループ内連携を喚起

 社食の代わりにコミュニケーションやイベントの場となっているのが、18階に設けたコミュニケーションスペース「Nagomi」だ。テーブル席のほか、カウンター席やボックス席、ソファ席など500席を備え、商談や打ち合わせ、懇親会、イベントなどに活用されている。ランチタイムには弁当の販売も行っている。

 街に出ることが社外との接点を増やすきっかけとなる一方、Nagomiはグループ内のつながりを深める役割を担っている。「移転前はグループ内の他の会社のことをよく知らない社員が多かった。自社以外の社員と交流し、商品を知ることで、キリンブランド全体を身近に感じてもらいたい」と永田氏は話す。

 具体的な取り組みの1つが、2週間に1回開催する「コミュニケーションドリンク」、略して「コミドリ」と呼ばれるイベントだ。キリングループの商品を味わって学ぶイベントで、毎回100人程度が参加するという。毎回テーマが設定され、発売された新商品がテーマであれば、開発した会社の担当者が説明する。なかには、「(小岩井乳業の)ヨーグルトのおいしい食べ方」「自販機の仕組み」といったユニークなテーマの回も。その事業を担う会社の社員が講師役となり、理解と交流を深める。

 Nagomi以外にも、グループ内の一体感を高めるための仕掛けがある。各社の執務室がある19~21階をつなぐ吹き抜け階段だ。フロアの中央に作られた階段の周りのスペースは「Tsudoi」と呼ばれ、打ち合わせや雑談などに使われている。社内の他の事業部や、グループ内の他社の社員と、顔を合わせて話すことに対するハードルが低くなる仕掛けだ。

 このような取り組みにより、「普段は関わりのない商品についても、自然と情報が入ってくる」(永田氏)。会社や部署を横断するオープンな雰囲気をつくっている。

●知らない社員と店に行く

 Nagomiは、社外との交流にも活用されている。取引先企業の商品を社員向けに販売することで、営業担当者が取引先との関係を深める使い方がその1つ。また、近隣のパン工房の商品を販売するなど、地域交流の場になることもある。

 街に出る取り組みもある。キリンの商品を扱う飲食店をみんなで利用する「乾杯サポート活動」だ。中野だけでなく、さまざまなエリアで実施している。強化期間を設定し、参加する社員はその期間中で希望日を申告。調整の上、所属部署が異なる社員でチームが組まれ、店舗を指定される。当日はそのメンバーで食事に行き、店の人にあいさつをしたり、飲食したりして過ごす。取引先の店舗と関係を深めることはもちろん、話したことがない他の部署の社員と交流する機会にもなっている。

 永田氏は「これからも、このオフィスで『こんなことがしたい』という希望をぜひ出してほしい。自由に使いこなしてもらえれば」と笑顔を見せる。

 大切なのは「どんな機能を付けるか」よりも「どう使いたいか」。会社の特徴や課題に応じて必要な機能を選択することが、働きやすい職場づくりの一歩となる。