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経営危機を“データ改革”で乗り越えた、2つの会社の話

6/16(金) 8:41配信

ITmedia エンタープライズ

 これからのビジネスにはデータが重要。そう分かっていても、課題が多く生かしきれない――前回の記事では、そんな日本企業を取り巻く実態を「取引先マスター」を例にお伝えしました。今回からは事業部門の現場で、その取引先マスターがどう使われているか、実例を見ていきます。

【分散と集約を柔軟に行えるサプライヤーデータの一例】

 最初に取り上げるのは、サプライヤーのデータです。今日において、企業の購買、調達担当者に求められる業務のレベルは非常に高度化しています。アップルやナイキなど、CSRを重視する欧米由来の小売ブランドの中には、自社のサプライヤーを公表し、彼らの人権保護や環境安全、安全保障貿易のテーマなどを自社の課題と捉え、改善を主導する企業が増えているのは、その象徴ともいえる動きでしょう。

 私は、サプライヤーデータを整備することは、「サプライチェーンの最適化」「安定的な調達」という2つの点で、企業経営に貢献すると考えています。早速、テーマごとに例を見てみましょう。

●サプライヤーデータ整備で仕入コストを大幅に削減

 数多くのグループ会社を海外展開するメーカーA社は十年来、グローバルサプライヤーデータの整備に注力してきた企業です。

 取り組みを始めた当初、「事業部やグループ会社間で取引先コードや品目コードがバラバラで、何をどこから購入しているのか、グループ全体で数値を把握するのが難しい」という課題がありました。当時、A社は厳しい決算状況が続いており、コスト改革の柱に「データを活用した購買活動の最適化」を掲げ、社運をかけて取り組んだのです。

 地域や事業、子会社ごとに優先順位をつけ、段階的にマスター整備に取り組み、現在では数万件に及ぶ仕入先のほとんどにユニークな取引先コードを付番しています。その過程では、ETLツールを活用したり、辞書として、私どものような外部ベンダーのデータを参照したりしながら、企業単位のユニークなコード付番と拠点や、親会社とのひも付けを粘り強く進めました。

 こうしてでき上がったデータベースを用いて、彼らはグループ全体で何をどこから購入しているかを見える化しました。そして、品目種別にサプライヤーを評価して、仕入れ価格交渉を行い、集中購買などで大きなコスト削減に成功したのです。もちろん、データ整備ははじめの“一歩”であり、成功の裏には、現場のバイヤーによる不断の努力があったことは言うまでもありません。

 一方で、いわゆる“ベンダーロックイン”の弊害と同じく、サプライヤーとの取引は、必ずしも集約一辺倒が良いわけではありません。調達品目の汎用性などを考慮して取引を分散させ、戦略的に企業間競争を作ることもまた、重要な取り組みです。そのため、サプライヤーデータには法人やグループ単位、あるいは品目、業種単位でまとめられる柔軟性が求められるのです。

●外部情報との統合でサプライヤー評価を最適化

 大手メーカーの合弁企業であるB社は、約3年前、海外仕入先の倒産をうけ、サプライヤー管理を見直さざるを得ない状況に追い込まれました。代替の利かない戦略部品を仕入れていた同社の倒産をきっかけに、市場にはB社の供給不安説が流れるなど、ブランドを毀損しかねない重大な事態を引き起こしました。

 調達管理部門の担当者は、サプライヤーが申請する情報を基に、評価の見直しを行っているケースが少なくありません。B社もまた、サプライヤー各社と共有するポータルサイトを通じてアンケート調査を行っており、QCDD(品質、コスト、納期、技術開発)以外の評価――特に財務情報を評価していました。

 しかしながら、国内外のサプライヤー数が1000社を超え、アンケート調査の回答率や正確性に課題が出てきたところで、前述の倒産に見舞われてしまったのです。その後、当社がとった対策は次の通りです。


1. サプライヤーの口座開設時にD-U-N-S Number(ダンズナンバー)の申請を義務付ける
2. アンケート調査項目をQCDDを中心とした構成に変更
3. 財務や経営の評価に外部情報を活用する

 この取り組みは、サプライヤー調査における社内工数の削減と網羅性を両立させたベストプラクティスといえるでしょう。

 サプライヤーに外部コードを申請させることで、実在性の確認や既存取引の有無を容易に確認できるとともに、財務状況などの外部公開情報をスムーズに取り込めます。調査の精度を重視する企業では、自社による調査も行いながら、検証目的で外部情報を照会するケースもあるほどです。

 昨今、メーカーの供給責任が強く求められることから、サプライヤー調査は、その対象が2次、3次へと広がる傾向を見せています。ユニークな企業コードで構造化された基礎データはもちろんですが、さまざまな外部データと連携することで、多角的な分析を可能にする、エコサプライヤーデータが求められているのです。

●著者プロフィール:堀雄介

東京商工リサーチ ソリューション開発部 コンサルタント。企業情報データベースや関連アプリケーションを専門としたプリセールス活動に従事。グローバルレベルの与信管理やサプライヤー管理をテーマとした講演も行う。企業情報を構築する調査現場での経験を経て、2012年より現職。

趣味は山登り(奥多摩、丹沢の低山を中心に)、サイクリング(ロードバイク初心者)、スノーボードなど。運動不足解消のためでもあるが、運動後の1杯もまたやめられない。