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最上を超える最上プレーヤー、Astell&Kern「A&ultima SP1000」を聴く

6/16(金) 11:05配信

Impress Watch

 iriverのAstell&Kernと言えば、ハイレゾポータブルプレーヤーの人気ブランドであり、バランス駆動など、市場のトレンドを牽引する存在でもある。その頂点として君臨していたのが「AK380」だが、それに代わるハイエンドとして「A&ultima(エー・アンド・ウルティマ) SP1000」(AK-SP1000)が7月7日に発売される。価格はオープンで、直販価格は499,980円(税込)。そのSP1000を、発売に先駆けて試聴した。

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■型番がいきなり「SP1000」になった理由

 AKシリーズと言えば、AK100、AK240、AK380など、3桁の数字が増えていくラインナップだった。具体的にはAK120/100が第1世代、AK100II/120II/240が第2世代、AK300/320/380が第3世代といった具合。そのまま行けば「AK400」などが登場しそうなところだが、「SP1000」と突然4桁になり困惑した人も多いだろう。さらに品番の前には「AK」ではなく「A&ultima」(エー・アンド・ウルティマ)という名前がついているのも、今までの流れとは違う。

 iriverのグローバル セールス・マーケティング担当のアレックス氏によると、SP1000の位置付けは「第4世代のハイエンド」になるという。品番の前の「A&ultima」はカテゴリを示しており、「Ultima、つまり“究極”とか“最上位”カテゴリの、SP1000というモデル」という意味になる。

 そのため、今後も「A&◯◯」というカテゴリが追加されていく予定。どのようなものが登場するかまだ不明だが、勝手に想像すると「A&simple」とか「A&basic」みたいなカテゴリ名が下位機種では使われるのかもしれない。なお、「SP1000」の「SP」は「シュプリーム(最高/最上)パフォーマンス」の頭文字からとったそうだ。

 ちなみに、5月中旬から発売されている「KANN」(カン)の立ち位置はどうなるのかと聞いたところ、「AK3xxや、A&◯◯といったシリーズラインとさらに違う、パフォーマンスラインに位置づけている」とのことだ。個人的には、多機能なKANNには「A&multi」など、新しい名前をつけてあげて欲しかった。

 価格はオープンプライスで直販価格は499,980円(税込)。これは、2015年にAK380が発売された時の直販価格と同じだ。なお、7月7日から発売されるのはStainless Steelモデルで、Copper(銅)モデルもラインナップするが、こちらは発売日はまだ未定。ただ、価格はStainless Steelと同額になる見込みだ。

■ステンレススチールとカッパーしかラインナップされない理由

 前述の通り、注目のポイントはSP1000の筐体素材のバリエーションだ。ステンレススチール(以下SS)を使った「AK-SP1000-SS」と、カッパー(銅)を使った「AK-SP1000-CP」が用意される。御存知の通り、従来のハイエンド「AK380」は、標準モデルがジュラルミン筐体を採用。限定モデルとして、SSモデルと、カッパーモデルが販売された。しかし、SP1000では、標準モデルとしてSSとカッパーを用意。ジュラルミンモデルは用意されていない。

 この理由についてアレックス氏に聞くと、「SSやカッパー素材が音質面で効果が高いことは、過去の限定モデルでわかっていた。しかし、製造が難しく、(大量に作れないため)限定モデルとして展開していた。その後、これまで培った経験を踏まえ、通常モデルとしてラインナップできるようになった。そこで、最高のものを皆さんの手元に届けたいという思いで、SSとカッパーのラインナップにした」という。

 個人的な話だが、SP1000が「SSとカッパーのみ」と聞いた時、「大丈夫かな?」と心配になった。それは生産数や価格の話ではなく、音質面。AK380のジュラルミン/SS/カッパーを全種類聴き比べた人はあまり多くないと思うが、実際に聴いてみると驚くほど「見た目と同じ音がする」のだ。簡単に表現すると、ジュラルミンは「ニュートラルでベーシックっぽい音」、SSは「ちょっと金属質で硬くてシャープな音」、カッパーは「響きが多くてあたたかみのある音」だ。

 AK380では「素材による音の特徴」がかなり強めに出ており、個人的な好みとしては「SSやカッパーにそれぞれ良いところはあるけど、ジュラルミンの通常モデルが一番素直で好きな音」だった。それがSP1000でSSとカッパーのみになると、「一番ベーシックな音の製品が無いのは大丈夫なのか?」と心配になった……というわけだ。実際にどんな音だったかは後述する。

■薄く、縦長に。アンプの出力強化に注目

 デザインやUIも変わった。SP1000の外形寸法は約132×75.8×16.2mm(縦×横×厚さ)で、AK380の約112.4×79.8×17.9mm(同)と比べると、縦長かつ、薄くなっている。重量はSSが約386g、カッパーが約387gで、AK380ノーマル(ジュラルミン)の約230gと比べると、どちらも重い。これは素材の重さがそのまま出ていると言っていいだろう。

 手にしてみると、確かにAK380よりもSP1000 SS/カッパーの方がズシリと重い。ただ、「うわー巨大になったな」という感じはあまりしない。恐らく縦に長く、薄くなった事で“板っぽく”感じるようになったからだと思う。ワイシャツの胸ポケットに入れたところ、頭がちょこっと出るが、入らないことはない。ただ重いのでかなりシャツが前に引っ張られる。

 高級感は両機種とも文句なし。ステンレススチールの硬い質感や、カッパーの鈍いゴールドの輝きは、ポータブルプレーヤーと言うより、金属の塊を手にしているようだ。見た目や触り心地から“別格感“が漂ってくる。

 ヘッドフォン出力は従来と同様に、2.5mm/4極バランスと、ステレオミニ(光デジタル兼用)の2系統を上部に備えている。

 注目は出力レベル。SP1000はアンバランスが2.2Vrms、バランスが3.9Vrms(負荷無し)と、AK380のアンバランス2.2Vrms、バランス2.3Vrms(負荷無し)と比べると強化されている。出力強化は、低能率なヘッドフォン/イヤフォンを使っていた人には嬉しいところ。AK380ではオプションとしてジャケット型の外部アンプが用意されていたが、それを取り付けなくても、SP1000は高い出力を持っているわけだ。

 ただ、SP1000の底部を見ると、AK380のものとは端子数が異なるが、ジャケット型アンプ接続用と思われる独自のバランス出力端子と、それを固定するためのネジ穴が背面に確認できる。

 SP1000用のジャケット型アンプも予定しているのか、アレックス氏に聞いてみると、「検討はしているが、まだ予定はない。SP1000は単体でも十分楽しめる出力を持っている。(ジャケット型アンプを出すとしても)自社で作るか、他社とコラボするかというところも含めて未定。ただ、他社がそうした製品を出したいという場合は、接続ピンの情報などを提供したいと考えている」という。

 なお、AK380などには、USB端子と接続して利用する「AK CD-RIPPER」がオプションとして用意されていたが、SP1000ではUSB端子がType-Cになった事で、直接は接続できなくなった。アレックス氏によれば、「USB変換プラグなどを使えば利用は可能。SP1000向けの展開としては、直近ではないが、今年中には何らかのアナウンスができるかもしれない」とのことだ。

 ヘッドフォン出力は強化されただけでなく、SN比はアンバランスで120dB@1kHz(AK380は116dB)、バランス122dB@1kHz(同117dB)、THD+N(1kHz)は0.0005%(アンバランス/同0.0008%)/0.0008%(バランス/同0.0007%)と、低歪、低ノイズも実現している。

 従来は側面にmicroSDカードスロットがあったが、SP1000では上部に移動。ケースなどに入れた状態でも、microSDの交換がしやすくなっている。ただ、スロットはSIMカードのようにピンを差し込んで、トレーを出し、そこにmicroSDを乗せるタイプになった。従来は押し込むとmicroSDが飛び出す仕様だったが、勢いあまってカードが吹っ飛んでどこかに行ってしまう事もあったので、この方が安心ではある。ただ、ピンを持っていないと、何か尖ったものを探す必要があるので、その点は良し悪しあるだろう。AKの「A」マークを模したピンも同梱する。

 microSDスロットが移動した部分には、これまで電源ボタンがあった。SP1000では、この電源ボタンが無くなり、ボリュームダイヤルに機能を統合。ダイヤルを押し込むと電源ON/OFFができるようになった。再生制御のハードウェアボタンは、左側面に備えている。

■進化したUI、“快適さ”にも注目

 OSは従来と同様、Androidベースの独自仕様と思われるが、細かい部分が変わっている。大きな変更点は、起動すると表示されるのが、「アーティスト」や「アルバム」といったアイコンが並んだホーム画面ではなく、音楽の再生画面がホーム画面になった事。この音楽再生画面で、左から右スワイプすると、「アーティスト」や「アルバム」、「ジャンル」、「フォルダ」、「設定」といったメニューが現れるようになった。

 上から下へとスワイプすると、画面の輝度や、Wi-Fi、Bluetoothなど、切り替え頻度の高い設定アイコンなどが表示されるのは従来と同じだが、デザインはよりアイコンが見やすく、わかりやすいものに進化した。

 再生画面で右から左へスワイプすると、再生リスト画面が登場する。前述の「アーティスト」や「アルバム」メニューから再生したい楽曲に移動し、そのタイトルをタップすると再生されるのだが、長押しするとプレイリストへの追加画面が現れる。選べるのは、再生リストの一番“上”か、一番“下”、もしくは“現在再生している曲の下”の3択だ。

 下から上へスワイプすると、再生履歴が出て来る。再生頻度でソートする事も可能。従来のUIも悪くないが、新UIはより直感的かつ、わかりやすいものになったと感じる。

 外観からはわからない強化点として、CPUがオクタコアのより強力なものにグレードアップしている。これは操作性の良さに寄与しており、「A」のロゴマークが表示されてから、再生画面になるまでの起動時間を比べたところ、AK380が24~25秒程度であったのに対し、SP1000は14秒と大幅に短縮されている。

 また、処理の重いDSDファイルの再生でも、AK380は曲を選んでから一拍の“間”があるが、SP1000はすぐに再生される。SP1000のメニュー動作などもサクサクで、快適さもアップしていると感じる。

■音をチェック

 では音をチェックしよう。比較用として、AK380のジュラルミンモデルを用意。まずはAK380とSP1000のSSを比較してみた。接続はまず3.5mmのアンバランスだ。

 音が出た瞬間にわかるのが、音場がAK380よりさらに広く感じる事だ。SN比が向上した事で、空間の透明度がアップしたような感覚で、音場の奥の奥まで見渡せる。そこに音像が定位するが、音像同士の距離や、その背後の奥行の深さなどが、AK380から格段に向上している。イヤフォンを差し替えて「うーん」と唸りながら聴き分けられる……というレベルではなく、聴いた瞬間に「うわっ! ぜんぜん違う」と驚くほどだ。

 音像はシャープで、わずかに冷たい響きというか、金属質な質感を感じ、それが爽やかな印象に繋がっている。このあたりはステンレススチール筐体の影響を感じるところだ。

 AK380を初めて聴いた時は「ポータブルでもこんな音が出るのか」とビックリして「これ以上はもういらないのではないか」と思ったが、SP1000を聴くと「まだその先に行けるのか」という感慨すら湧いてくる。

 この進化は、DACが旭化成エレクトロニクスの最新DACチップ「AK4497EQ」に変更されたところが大きいのだろう。デュアル構成で搭載するのは同じで、DSD256(11.2MHz)、384kHz/32bit(Float/Integer)のネイティブ再生に対応している。

 また、超低ジッタの200Fsを実現するVCOXクロック(電圧制御水晶発振器)の搭載と、高出力化しながら低歪み/低ノイズを実現した回路設計も外せない。DACの刷新と、それを活かす設計・パーツの相乗効果が、この高分解能や、SNの良さに繋がっている。

 同時に、アンプの強化も音質面で大きいと感じる。「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best OF My Love」を再生し、1分過ぎのアコースティックベースを聴き比べると、SP1000の方が、ヘッドフォンの駆動力が明らかに上で、低い音の沈み込みがより深く、「グォーン」とせり出す中低域の音圧がさらに力強い。

 それでありながら、弦がブルンと震える様子は、AK380より細かい。「パワフルなのに繊細」という、相反する要素が両立している。3分18秒くらいに、ベーシストが息を吸い込む「スッ」という音が入っているのだが、この豊かな低音の中で、その描写がハッとするほど明瞭に聴き取れたのははじめてだ。

 据置きのピュアオーディオを楽しんでいる人には「何をいまさら」と言われそうな話だが、価格というか、投入した物量が如実に音に反映されるのがアンプの低音だ。超弩級アンプでドライブすると、スケールや深さがまるで違う異次元の音が飛び出してくる。電源の大きさや投入したパーツのグレードなどいろいろな要素はあるが、安価なコンポに対して圧倒的な違いが出るのは低音と言っていい。

 これはヘッドフォン/イヤフォンで楽しむオーディオでも例外ではない。高級ポータブルプレーヤーで音を聴いた後、同じヘッドフォンを据え置き型のヘッドフォンアンプに繋いで聴き比べると、やはり低音の馬力やスケール感の違いが一番耳に残る。ポータブルプレーヤーに、より駆動力のある外部ポータブルアンプを接続した時も、低音に大きな違いが出るのを実感した人も多いだろう。

 SP1000の低音は、こうした従来の“単体ポータブルプレーヤー”の域を越えている。低音の深さ、ドッシリとした安定感、そして分解能の高さは、据置機のサウンドを思い浮かべるレベルだ。これならばもう外部アンプはいらないと感じる人が多いだろう。

 ドナルド・フェイゲン/ナイトフライの、刻み込むような低音も、アタックの強さや、音が出た後のスッと消えるトランジェントの良さ、そしてその響きが背後に広がっていく様子の広さが、まるで違う。AK380から大幅な進化と言っていい。

 ここまではアンバランスで聴いていたが、バランス駆動に切り替えると、さらにこの特徴が加速。音場はより広大になり、クロストークが減って立体感もアップする。駆動力も高まり、トランジェントも良くなった印象だ。イヤフォンはUnique Melodyの「MAVERICK II」とBeyerdynamic×Astell&Kernの「AK T8iE MkII」を使っているが、どちらも低音の迫力と分解能のバランスが良いイヤフォンなので、SP1000との相性も抜群のようだ。

 ここで、SP1000のSSから、カッパーへ交換してみる。前述の通り、SSはクリアかつシャープで、響きがわずかに硬質だったが、カッパーにすると、その印象が一気に変わる。響きが暖かく、ソリッドな感じが無くなるのだ。人の声やオーケストラの管楽器の響きが美しい。簡単に言うと「SSはスッキリ」と「カッパーは芳醇」という印象だ。

 AK380のSS/カッパーを聴き比べた時と、音の変化方法は同じと言っていい。特筆すべきは、その“変化度合い”だ。SP1000のSSとカッパーは、確かにそれぞれ音に特徴があるのだが、その特徴がAK380の時よりも“強すぎない”。つまりSSのソリッドでクールな描写も「硬すぎるなぁ」と感じるところまでではなく、「ちょっとそんな雰囲気がする」程度で収まっている。カッパーも同様で、「響きが芳醇でゆったりしていて気持ちいいんだけど、ボワッとしちゃうなぁ」というほど、“芳醇過ぎない”。シャープな描写を維持しながら、少し隠し味としてカッパーの穏やかさがあるよ……という程度なのだ。

 これは個人的に非常に嬉しい。前述の通り、AK380のSS/カッパーは素材の特徴が出過ぎていると感じたので、「普通の人はスタンダードなジュラルミンがいいのでは」と考えていた。SP1000の場合はどちらを選んでも特徴が強すぎず、ニュートラルさも維持しており、曲を選ばない汎用性がある。「基本はSSモデルで、もう少し穏やかな描写がいいという人はカッパーがオススメ」とまとめたい。

 また、SP1000の駆動力の高さはヘッドフォンと組み合わせても恩恵が大きい。フォステクスの平面駆動型「T40RP mk3n」を繋いでみたが、低音がしっかり出て驚かされる。もともと平面振動板のヘッドフォンは、磁気回路に挟まれた平らな振動板が動くので、振幅の幅が大きくとれず、低音が出にくい。そのため、駆動力が弱いアンプだと、上の音だけが目立つ、スカスカした音になってしまう。

 SP1000では、ボリュームを全開まで上げるような事をしなくても、65~70%あたりでバランスの良い、低域もしっかりとしたサウンドが得られる。外部アンプなどを組み合わせず、この音をT40RP mk3nから再生できるのは凄い。

■まとめ

 単純な音の良さに加え、幅広いイヤフォン/ヘッドフォンに対応できる駆動力の高さ、そして動作スピードも含めた操作性のアップなど、AK380を様々な面で上回る進化を遂げている。究極のポータブルプレーヤーとしてAK380が登場した時も、音質や価格に驚かされたが、究極の、さらに上が登場したという印象だ。価格は直販499,980円(税込)と高価ではあるが、AK380と大きく変わらないのは朗報と言えるかもしれない。

 価格として、ポータブルオーディオが好きな人であっても、おいそれと手が出せるものではない。ただ、屋内外でいつも、ハイエンドなサウンドが楽しみたいと考える人にとっては見逃せないモデルだ。駆動力が高まった事で、ヘッドフォンの相棒としても可能性が広がっており、活用のシーンはさらに広がるだろう。今回は試していないが、USB DACとしても動作するので、帰宅後に室内でPCと接続してヘッドフォンを楽しんだり、ライン出力してオーディオ機器と接続するのも面白い。

 同時に、「A&ultima」、「A&◯◯」というカテゴリ分けを導入した事も見逃せない。つまり、音質の高さだけをどこまでも追い求める以外に、他の付加価値を備えた製品が、複数のカテゴリに渡って登場するという予告とも言える。ハイレゾポータブルプレーヤー市場を牽引するシリーズが、ポータブルプレーヤーの未来をどのように描いていくか、注目していきたい。

AV Watch,山崎健太郎

最終更新:6/16(金) 11:05
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