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焦点:中国一帯一路、パキスタン契約獲得で見せた「力技」

6/16(金) 8:23配信

ロイター

[イスラマバード 14日 ロイター] - パキスタン政府は昨年、同国初の高圧送電線の建設に向けて、米複合企業ゼネラル・エレクトリック(GE)<GE.N>、独複合企業シーメンス<SIEGn.DE>、スイスの重電大手ABBと非公式な協議を行った。

だが中国の配電大手「国家電網」が欧米ライバル勢の半分の工期で実現させると請け合い、総額17億ドル(1869億円)のプロジェクト契約をもぎ取った。

パキスタンや他の多くの国で、これは「よくある話」だ。

中国政府が、アジアからアフリカ、欧州までを陸路や海路で結び、一大経済圏を築くシルクロード「一帯一路」構想を今後10年の国家プロジェクトと位置付けるなかで、中国企業は、一帯のインフラ整備計画の「甘い汁」を独占しようとしている。

中国国営メディアによると、昨年だけで中国企業は一帯一路の周辺国で1260億ドル(約13兆8600億円)ものプロジェクト契約を締結した。

地理的にも中国政府の「シルクロード」計画の中央に位置するパキスタンでは、昨年だけで280億ドル以上の契約が、現地企業と合弁を組んだ中国企業との間で結ばれた。パキスタンのアッサン・イクバル計画改革相は、今後数年で200億ドル以上の新規投資が見込まれている、とロイターの取材に対し今週明らかにした。

パキスタン政府は先月、中国との合同プロジェクトで初となる、出力1300メガワットの石炭火力発電所の完成を記念し、現地紙に全面広告を出した。こうした施設としては記録的早さの22カ月で完成したという。発電所は、中国国有の山東華能と山東如意化技集団(山東省)が所有する。

「中国株式会社」の最大の強みは、政府の後押しを受けた中国の銀行が、シルクロード関連のプロジェクト融資を最優先で実行することにあると、両国政府の関係者は見ている。

そしてこのことは、1億9000万の国民が毎日数時間も停電に見舞われているパキスタンで、停電をなくすために送電線網を整備する今回の様なプロジェクトでは、重大な意味を持つ。

「(中国企業は)中国政府の支援を受けているため、その点で有利だ」と、今年初めまでパキスタンの水利電力省幹部だったモハマド・ユナス・ダーガ氏は指摘する。ダーガ氏は商務省に異動する前、ロイターに対し、中国政府が融資審査を前倒ししており、銀行や保険会社にデュー・ディリジェンスの手続きを急がせていると述べた。

中国政府の官僚は、個別の融資審査についてコメントに応じなかった。

<優先融資>

しかし、中国の政策銀行である国家開発銀行(CDB)と中国輸出入銀行(EXIM)の行員2人は、ロイターに対し、シルクロードプロジェクトのための中国企業向け融資を優先するよう政府から指示を受けたことを明らかにした。

両行とも、地域一帯でのインフラ整備に参加する企業が、原材料や機材を中国から購入することを好むという。

パキスタン国内には、中国企業と契約を結ぶことについて、プロジェクトの早期完成が見込める一方で、パキスタン政府のコスト負担がより重くなっているとの批判も出ている。

パキスタン政府高官と電力関係者2人によると、例えば、高圧送電線プロジェクトにおいて、GEは送電線網の重要パーツである変電所について、国家電網の請求額より約25%安い金額で建設できるとの見積もりを出した。国家電網と契約したことで、パキスタン政府は高い価格を払うことになったという。

パキスタンの電力規制庁高官は、国家電網は、他の投資家には提示されていない税制優遇を受けていると指摘する。パキスタン政府は、契約にからむ税制の問題についてコメントしなかった。

国家電網の子会社で、送電線の建設を担う中国電力技術装備は、請求金額は適正だと主張する。

「とても無理のないコストだ」と、パキスタンの国営送電公社(NTDC)のFiaz Ahmad Chaudhry氏は国家電網との契約全般について語った。

中国外務省の華春瑩報道官は、パキスタンにおける一帯一路計画のプロセスは、「オープンで透明」であり、両国間の関係と地域の繁栄を強化するものだと述べた。

パキスタンでの中国企業優位は、当面続きそうだ。シルクロード計画で、中国とパキスタンは、発電所や港湾施設、鉄道網や道路網など総額570億ドル規模のインフラ整備を計画している。

中国の習近平国家主席は先月北京で行われた会議で、こうした計画は加速されると話した。

<送電線>

送電線の整備プロジェクトは政府間の契約で、沿岸部のマティアリ近郊に建設される複数の発電所と、東部ラホール周辺の産業地域の間の878キロを結ぶ計画だ。

パキスタン政府高官によると、この計画は昨年12月に中国側の受注が決まったが、公式な競争入札は行われなかった。

だが、2016年半ばに国家電網との協議が難航した際に、GE,シーメンスとABBへの接触が試みられたという。

ダーガ氏は、昨年8月にパリで行われた電力会議の折りに、3社の代表と短時間面会し、送電線契約について非公式に協議したとロイターに明らかにした。

パキスタン電力規制庁の資料と、GEの見積もりに詳しい人物によると、GEの変電所建設の見積もりが8億ドルだったのに対し、国家電網の初期段階の提案は12.6億ドルだった。

これによりコストは抑えられるものの、シャリフ政権が問題にしたのは工期だった。シャリフ首相は、2018年8月に行われる総選挙の前に停電を解消させることを公約していた。

そのため、ダーガ氏は西側企業に対し、国家電網と同様に、工期を27カ月に短縮するよう求めたという。

「冗談でしょう、不可能だ、というのが彼らの返事だった」と、ダーガ氏は振り返る。工期は最低48カ月必要というのが、西側企業の見立てだった。「彼らは、提案を用意し、銀行から融資を取り付けるだけで、最速でも8─9カ月かかると言った」

ある西側のエネルギー企業幹部は、こうした面会があったことを認めた。この件に詳しい別の欧州企業幹部は、「国際企業は、このプロジェクトに入札する機会を得られなかった」と述べた。

GEとシーメンス、ABBは、取材に応じなかった。

<時間の問題>

パキスタン国内には、このプロジェクトを急がせる圧力があったと、政府や規制関係の官僚は指摘する。

プロジェクトを許可した電力規制庁の高官は、中国側が提案を取り下げて契約が不調になる恐れがあるとして、国家電網の提示価格を受け入れるよう政府が規制庁側に圧力をかけたと述べた。

パキスタン政府は、規制庁に圧力をかけたとの疑惑について回答しなかったが、過去に政府高官は、規制庁がプロジェクトの進行を遅らせているとの不満を口にしたことがあった。

この電力規制庁の高官は、パキスタン政府が国家電網に対し、同社が利用者から徴収する料金にかかる7.5%の源泉徴収税を25年間免除する優遇策を提供したと述べた。他の企業には提示されていない優遇策だという。

政府や国営送電公社は、税制優遇についての問い合わせに応じなかった。

国家電網は、昨年12月に契約を締結した。ロイターが閲覧した公式書類によると、同社は総額17億ドルを請求。うち、変電所の建設費用は、当初の12.6億ドルから10億ドルに減額された。

エネルギー相のクワジャ・アシフ氏は、パキスタンが中国をひいきしたり、電力網整備費用を過剰に支払っているとの指摘について、「その結論は、見当違い、または誇張されている」と述べ、否定した。

水利電力省の元幹部アシュファク・マフムード氏は、パキスタンにはインフラ改善を必要とする現実があり、巨大な隣人への一定程度の依存は不可避だと語る。「中国側は、その機会に乗じたものだ。責めることはできない」

(Drazen Jorgic記者、翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

最終更新:6/18(日) 8:52
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