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「執行猶予の先に本当の仕事がある」…再犯防止へ「治療的司法」模索する弁護士の信念

6/16(金) 9:57配信

弁護士ドットコム

刑罰では抑止できない依存症などが絡んだ犯罪について、原因を治療・除去することで再犯防止を目指す「治療的司法」のあり方を探る、成城大学の「治療的司法研究センター」。今年4月からの活動開始を記念した講演会が6月10日、同大で開かれた。

講演会には、センターの客員研究員で、万引きなどを繰り返す「窃盗症(クレプトマニア)」と薬物依存の問題にくわしい2人の弁護士が登壇。弁護活動のノウハウを発表したので紹介したい。

●窃盗症の依頼者に説明「あなたは刑事責任とともに『回復責任』を課されている」

神奈川県弁護士会の林大悟弁護士は、クレプトマニアの弁護を数多く手がけている。クレプトマニアとは、盗みが悪いと分かっていても、やめられない依存症の一種。つまりは病気だ。アメリカでは万引き犯の4~24%がこの病にかかっているという。

「患者は女性が多く、摂食障害と合併していることが多いとされています。最初は理性で万引きを始めるのですが、そこから止まらなくなる」(林弁護士)

依存症の場合、刑務所に入っても、根本的な解決にはつながらない。十分な再犯防止プログラムがない上、万引きの引き金となる「物」がないからだ。刑務所にいるうちは治ったと思っていても、出所して、商店に入ると再び衝動が湧いてきてしまうことがある。依存症を放置して、再犯を繰り返させるのは、本人のためにも社会のためにもならない。有効なのは、社会生活の中での治療だ。

そのため、弁護活動では不起訴や執行猶予などを目指すことになる。「精神科医と連携し、本人が依存症であることを示すとともに、治療効果を示すことが重要です」。林弁護士は依頼主と医療機関をつなげ、再度の執行猶予を獲得したり、実刑が通例の保護観察付き執行猶予中の再犯で、罰金刑を獲得したりするなどの成果をあげている。

ただし、依頼人にはいつも「病気を免罪符にしてはいけない」と話しているそうだ。

「病気であることから刑事責任が軽くなるのではなく、病気であることから、刑事責任とともに『回復責任』を課されていると説明しています」

林弁護士は、クレプトマニアの患者や家族を支援する一般社団法人「アミティ」の代表理事としても活動中。

「不起訴や執行猶予にすることだけが仕事ではない。本当の依頼内容である、病気に振り回されない、平穏な生活を取り戻すための環境整備をすることが仕事だと心得ています」

●薬物事件では超レア「再度の執行猶予」を獲得

「刑事手続は、被疑者・被告人にとっては、『生き直しの場』にならなくてはならない」ーー。奈良弁護士会の菅原直美弁護士は、更生支援の取り組みで知られる故・髙野嘉雄弁護士から、司法修習時代にかけられた言葉が活動の原点になっているという。

2016年には、薬物事件では極めて珍しい、再度の執行猶予判決を獲得。講演では、このときの事例を報告した。

依頼者は20代前半の男性。2015年3月、覚醒剤取締法違反罪で、懲役1年4月・執行猶予3年の判決を受け、その2か月後に再び覚醒剤を使用してしまったという。

「スーパーで偶然、(顔見知りの)売人に会ったそうです。覚醒剤を買い、その日のうちに使ってしまった。それで彼は自首するんです」(菅原弁護士)

男性は、奈良県の依存症回復施設「ガーデン」内にある、菅原弁護士がセンター長を務める法律相談所に家族とともに相談。菅原弁護士が、弁護人を引き受けることになった。

裁判では、ガーデンの入所メンバーらに傍聴に来てもらったうえで、施設内のプログラムをDVDで上映したという。「こういう人たちが施設にいるんだよ、ということを法廷で再現しました」。また、奈良少年刑務所の出所者を証人として呼び、刑務所内のプログラムを説明してもらったという。

「刑務所のプログラムは、やめたくない人も受けている。『本当にやめたいというのは格好悪い』という雰囲気もあるそうです。一方、民間はやめたい人ばかり。だから、民間の方がプログラムが深まる」

男性には、2016年1月、懲役1年・保護観察付き執行猶予5年の判決が言い渡された。その後、検察が控訴したが、同年9月に棄却。男性は現在、ガーデンで見習いスタッフとして働いているそうだ。

●厳罰志向の中、国民にどう理解してもらうかが課題

治療的司法研究センター長を務める成城大の指宿信教授は、各講演を受けて、次のように話していた。

「立法・司法・行政で(治療的司法に類似した)さまざまな取り組みが始まっていますが、厳罰志向の風潮がある中、国民に理解してもらえるかが課題。被害者がいない薬物事件や、被害が財産的なもので終わる万引きといった、量的に多く、身近なところから、理解を得ていくのが近道だと思います」

弁護士ドットコムニュース編集部