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今週の一枚 ロード『メロドラマ』

6/16(金) 17:03配信

rockinon.com

ロード
『メロドラマ』
6月16日発売


デビュー・アルバム『ピュア・ヒロイン』(2013)は全世界で400万枚を超すセールスを記録、デビュー・シングル“Royals”はグラミー賞を史上最年少(17歳)で受賞するなど、16歳の天才少女ロードの登場は、まさにセンセーショナルだった。

あれから4年、21歳となった彼女がリリースしたニュー・アルバム『メロドラマ』は、あの4年前の衝撃を確信へと変える、ロードだからこそ達しえた成長と変化の傑作だ。

極端にミニマムなビートに乗せて、16歳の少女のブルーな歌声がひとり跳ねていた『ピュア・ヒロイン』から一転、4つ打ちアッパーなハウス・ビートとピアノに先導され、疾走するエレクトロ・チューンだった先行シングルの“Green Light”に象徴されるように、この『メロドラマ』においてそのサウンド・レンジは一気に広がっている。

前作の彼女では考えられなかったような、カタルシスのてっぺん目がけてどん欲にリーチしていくエレクトロ・ポップもあれば、ホーンを大胆に配した“Sober”や、“Homemade Dynamite”や“The Louvre”のように前作からさらに饒舌に洗練されたヒップホップのビートもある。そしてメランコリィの底はむしろ抜けていて、ダークな曲は前作以上にダークでグルーミーだ。


本作で注目すべきはプロデューサー兼コラボレーターとしてジャック・アントノフが全面的に参加している点だろう。Fun.のギタリストであり、ブリーチャーズとしても活躍する彼は、テイラー・スウィフトの主要コラボレーターの一人としても知られている人物。
そんなアントノフが本作の導線を引き、ロードの中で急激に芽生えた感情の激しい起伏をコントロールし、ポップ・ソングの抑揚へと絶妙に転じているのだ。

繊細バロックなメロディにインダストリアルなノイズ・エフェクトを容赦なく被せていく“Hard Feelings”と、一筆書きのシンプリシティで「私たちは愛なき世代(Loveless Generation)」と歌う“Loveless”が1曲として纏められた“Hard Feelings / Loveless”に代表されるように、『メロドラマ』は構成自体も非常に練られているアルバムだ。

また、2曲目の“Sober”が7曲目の“SoberⅡ(Melodrama)”として復活し、5曲目の“Liability”は10曲目で再び“Liability(Reprise)”として顔を出すという、この循環の感覚も本作の特徴のひとつだ。終わったと思っていた物語が突然また始まるように、答えを得たと思っていたものに再び疑問が生じるように。ロードは本作の中で何度か立ち止まり、逡巡し、後ろを振り返ってみせる。

本作における彼女のそんな足取りと感情の揺らぎは、歌詞に目を通してみれば一目瞭然で理解できるはずだ。そう、身も蓋もなく言えば、本作は大失恋アルバムなのだ。初めて真剣に付き合ったというフォトグラファーの恋人との別れが、本作の曲作りにとてつもない影響を与えたことはロード自身も認めているが、終わってしまった、知ってしまった事実と、それを未だ受け入れがたい感情の乖離が、この『メロドラマ』に大きな揺さぶりをかけているのだ。

そういう意味でも、本作はぜひ日本盤で歌詞対訳を読みながら聴いてほしい。「君はちょっと重いんだ」と彼氏に言われ、「そんなの自分でもわかってるよ」と歌う“Liability”や、彼氏の浮気現場を目撃し、「あなたはそれをいつか後悔するはず」と吐き捨てる“Writer in the Dark”、「友情を犠牲にして、あなたと地獄で過ごしたい」とストーカーじみた執着を露にする“The Louvre”など、とにかく全編にわたって癒えない失恋の傷跡が何度も何度も痛みを訴えかけてくる。ロード特有のゴシックなトーンも、その痛みにもろにハマっている。


また、『メロドラマ』の楽曲のシチュエーションとして繰り返し登場するのが、ダンス・フロアやパーティーの情景だ。それはニュージーランドの田舎で育った世間知らずの少女がこの4年間で味わった華やかで空疎な成功の味、まがい物じみた、でもどうしようもなく魅力的なその世界を体験した彼女だからこその描写だとも言えるが、特筆すべきは本作で描かれるパーティーはそのほぼすべてが、ピークタイムから外れた時間を描いているという点だ。

パーティーの終わりにシャンパングラスを片付けながら(“SoberⅡ”)醒めていく頭。飲んで踊って騒いで忘れようとしたのに、むしろふとした瞬間に悪夢のように蘇ってくる記憶。仲間と共に楽しい場所にいるからこそ、どうしようもなく深まっていく孤独――友達という名のコミュニティに属し、リアルでもSNSでもがんじがらめのように共感と帰属を追い求めないではいられないロードと同世代(Loveless Generation)のリスナーにとって、本作で描かれたこれらのシチュエーションは、彼女たちの内に秘めた弱さを痛いほど抉ってくるものであるはずだ。


しかし、『メロドラマ』は痛みや哀しみを増幅させることでシンパシーを呼ぶアルバムではない。その痛みや哀しみを前提にして、むしろそこからどうにかしてブレイクスルーしていこうとする、そのもがきあがく葛藤によってどこまでも共感が膨らむ一枚なのだ。

ニュー・オーダーやデペッシュ・モードを彷彿させるエレクトロ・ビートに加え、メロディの昂揚曲線は殆どU2みたいなレベルに達している“Supercut”や、パーティーの終わりを「毎晩私は生きて死ぬ」と描写しつつも、ブーミーで華やかなシンセが翌朝再び生まれ変わる彼女たち世代の逞しさを象徴しているラスト・ナンバーの“Perfect Places”まで、「大人になる」というメタファーを、当事者の少女がこれほどリアルに、鮮やかに体現しきった作品も滅多にないのではないか。

あまりにも普遍的な、思春期の終わりのサウンドトラックの誕生だ。(粉川しの)

rockinon.com(ロッキング・オン ドットコム)

最終更新:6/16(金) 17:03
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