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【ル・マン24時間 2017】レース・プレビュー、“サルトの悲劇”から1年、トヨタの悲願の初優勝はなるか?

6/17(土) 0:37配信

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 フランスのル・マン市で6月17日~18日(現地時間)に決勝レースが行なわれる「ル・マン24時間レース」は、世界三大レース(後の2つはF1の「モナコGP」、インディカーシリーズの「インディアナポリス500マイルレース」)の1つに数えられる伝統のレース。ル・マン市内にあるパーマネントサーキットのサルト・サーキットと公道をつなげたコースを利用して24時間戦う過酷なレースで、1923年に第1回大会が開催されてから、第2次世界大戦による中断を挟みながらここまで毎年6月中旬に行なわれている。

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 このル・マン24時間に悲願の初優勝をかけて今年も挑戦するのが、トヨタ自動車のワークスチームとなるTOYOTA GAZOO Racing。過去に何度も2位を獲得しながら優勝だけには手が届いていない。

 昨年は最後の3分までトップを走りながら、中嶋一貴選手の「ノーパワー、ノーパワー」の叫びとともにリタイアに終わった“悲劇”は、多くの読者にとっても記憶に新しいのではないだろうか。2017年のル・マン24時間は、そのトヨタの悲願でもある優勝に手が届くのか。日本のファンのみならず世界中のファンが固唾を飲んで見守っている、今年はそうしたレースになりそうだ。

 過去のトヨタの挑戦を振り返りつつ、2017年のル・マン24時間の見所などを紹介していく。

■1923年から始まる歴史と伝統の24時間レース

 ル・マン24時間レースとは、フランスの中部にあるル・マン(Le Mans)市で例年6月の中旬に行なわれている。世界三大レースの1つではあるが、ほかの2つがフォーミュラカーで争われるレースであるのに対して、ル・マン24時間はスポーツカーの耐久レースというフォーマットで開催されてきた。

 会場となるのは、ル・マンにあるサルト・サーキットと呼ばれる常設コースを一部利用した、常設コース+公道コースという世界的に見ても珍しいコース。1周は約13.629kmで、そこを3分30秒~4分程度のタイムで周回しながら、24時間戦う。24時間を過ぎた時点の周回でチェッカーが出され、そのチェッカーを受けた時点での順位で結果が決まるレースになっている。

 コースは非常にユニークで、先ほど述べたグランドスタンドに相当するサルト・サーキットの常設コースからル・マン市内の公道コースにでて、もう一度サルト・サーキットの常設コースに戻ってくるというルート。その途中にはユノディエールと呼ばれる約6kmのストレートが含まれており、かつては400km/hオーバーという時代もあった。

 その後、あまりにも危険ということで、ユノディエールには2カ所のシケインが設けられ、現在では2kmのストレートが3本というコースになっている。基本的に公道の部分はストレートが多く、各チームともル・マン向けにストレート重視の低ダウンフォースエアロパッケージを持ち込むなどして対応している。

 現在のル・マン24時間レースは、大きく分けて、スポーツプロトタイプカーとGTカーの2種類の車両で戦われている。スポーツプロトタイプカーは、LMP(LeMans Prototype)と呼ばれており、LMP1、LMP2の2つのカテゴリーに分類され、それぞれのカテゴリーで順位が争われている。GTカーはGTE(Grand Touring Endurance)と呼ばれ、ル・マン24時間独自のGTカー規格で争われている。

LMP1

 現在のル・マン24時間の最高クラスで、総合優勝はこのカテゴリーの車両で争われる。自動車メーカーが参戦する場合にはハイブリッド(エンジン+モーター)にしなければならないと規定しており、プライベートチームのみがノンハイブリッドで参戦することができる(今年はバイコレスチームの1台のみとなっている)。ハイブリッドのLMP1にエントリーしているのは、トヨタのTS050 HYBRIDが3台と、ポルシェのポルシェ 919 Hybridが2台となっており、実質的に総合優勝はこの5台が争うことになる。

LMP2

 LMP2はプライベートチームのために用意されているカテゴリーで、ル・マン24時間レースもシリーズの1つであるWECではオレカ製のシャシーとギブソンのエンジンという組み合わせのワンメイクになっているが、ル・マン24時間レースではそれに加えてリジェ、ダラーラ、ライリーなどのシャシーもエントリーされている。このLMP2は実に25台もエントリーしており、60台のエントリーの中での最大勢力となっている。

GTE-Pro

 GTE-ProはGTE車両を利用して争われるクラスで、近年自動車メーカーから大きな注目を集めている。フェラーリ、フォード、GM(コルベットブランド)、ポルシェ、アストンマーティンなどがワークスないしはセミ・ワークス(プライベートチームを支援する形)で参戦しており、年々競争が激しくなっている。Proはプロフェッショナルドライバーが参戦するクラスで、ドライバーの顔ぶれを見ても、かつてF1に参戦していたドライバーなど有名所が揃っている。

GTE-Am

 GTE-Am車両はGTE-Proと同じGTE規定のレーシングカーを利用するが、ジェントルマンドライバー向けのクラスとされている。ただし、一定の規定の下でプロドライバーも参加することが可能で、ペドロ・ラミーのように元F1ドライバーも参戦している。

 なお、このル・マン24時間レースはWEC(世界耐久選手権)の第3戦も兼ねており、このレースだけは通常のレースの倍のポイントをもらえる規定になっているため、例年チャンピオンシップの行方を左右する重要なレースとなっている。

 もちろん、名誉という意味でも大きな意味があるが、世界タイトルという観点からも重要なレースだ。なお、これまでのWECは、第1戦シルバーストン、第2戦スパ・フランコルシャンのどちらも、8号車 トヨタ TS050 HYBRID(セバスチャン・ブエミ/アンソニー・デビッドソン/中嶋一貴組)が優勝しており、現在同クルーがドライバー選手権でポイントリーダーとなっている。

■2位獲得を繰り返して来たトヨタのル・マン24時間レース挑戦の歴史、そして2016年の悲劇……

 ル・マン24時間レースは数々のドラマを生み出してきた。それらすべてを紹介するのは難しいので、ここではトヨタに限った範囲で紹介しよう。

 トヨタが最も優勝に近づいた年と言われている1994年、トヨタはワークス参戦こそしていなかったが、プライベートチームに車両を渡す形で参戦していた。その中でもサードがエントリーした、トヨタ 94C-V(マウロ・マルティニ/ジェフ・クロスノフ/エディー・アーバイン組)は夜明けからトップを快走し、ほぼ優勝を手中に収めていた。しかし、残り1時間となったところで、シフトリンケージにまさかのトラブル発生でコース上にストップ。結果2位にはなったものの悲願の優勝はお預けとなってしまったのだ。

 1999年もトヨタが再び優勝に限りなく近づいた年として記憶されている。トヨタGT-One(TS-020)を走らせた、片山右京/土屋圭市/鈴木利男組は、激しい追い上げを見せて残り1時間でトップを走るBMWを逆転することは確実だと思われていた。ところが片山右京氏がドライブ中にバーストでピットに入らざるを得なくなり、ここでも2位に甘んじることになった。

 トヨタに関するドラマと言えば、昨年のそれを避けることはできないだろう。トヨタのル・マン挑戦のみならず、ル・マンの歴史に残るであろう、ゴール前3分で5号車 トヨタ TS050 HYBRID(セバスチャン・ブエミ/アンソニー・デビッドソン/中嶋一貴組)をドライブしていた中嶋一貴選手の「ノーパワー、ノーパワー」という声を記憶している読者も少なくないだろう。23時間57分までトップを走っていた中嶋選手の5号車 トヨタ TS050 HYBRIDは、パワーユニットのトラブルによりメインストレートで停止してしまい、結局そのままリタイアになってしまった。

 ル・マンが特徴的なのは、ゴールまで走り続けていなければならないルールであること。このため、どんなに後続に差をつけていようが、コースの途中で止まってしまい、24時間時点でのチェッカーを受けることができなければリタイアになってしまうのだ。昨年のトヨタ5号車はこの制限(実際には最終ラップを6分以内で走る必要がある)に引っかかってしまい、2位にもなれずリタイア扱いとなってしまったのだ。それだけ過酷なレース、ドラマがあるレース、それがル・マン24時間レースなのだ。昨年のレースはまさにそれを象徴しているレースだった。

■トヨタのル・マン24時間レース挑戦は“中嶋”から始まった、もう1人の“中嶋”が完成させることができるか

 ところで、そのトヨタのル・マン24時間レース挑戦、実は最初の年にトヨタの車両を走らせていたのは、中嶋一貴選手の父親である、中嶋悟氏(現:ナカジマレーシング監督)だということは、あまり知られていない。

 トヨタが初めてル・マン24時間レースに挑戦したのは、1985年。童夢およびトムスとのコラボレーションで開発された童夢85C-Lあるいはトムス85C-Lと呼ばれるシャシーに、トヨタエンジン(4T-GT改)を搭載して、トヨタのル・マン挑戦は始まった。その時、中嶋悟氏は、関谷正徳氏、星野薫氏と共に36号車 トムス85Cをドライブした。

 中嶋悟氏と言えば、その後(1987年)にF1に昇格した際にホンダの後押しがあったことがよく知られているし、その後もホンダ系のレーシングチームを経営していることもあって、ホンダ系のドライバーとして認識されているが、この当時、ホンダはル・マンなどのスポーツカーレースには参戦せず、フォーミュラカーレースにのみ参戦していたため、中嶋悟氏もスポーツカーではトムスの車両をドライブしていたのだ(1986年までで、F1昇格後はなし)。ちなみに、その中嶋悟氏がドライブした36号車 トムス85Cは初挑戦で見事12位完走、ル・マンの歴史にトヨタの第一歩を刻んだのだった。

 そして、現代にそのトヨタのエース車両である8号車をドライブしているのが、中嶋悟氏の長男である中嶋一貴選手、そこには何かの因縁を感じざるを得ないだろう。“中嶋”に始まったトヨタのル・マン挑戦が、もう一度“中嶋”で完成するのか、ぜひともファンにはそこを注目点として見てほしいと思う。

 すでに述べたとおり、中嶋一貴選手がドライブする8号車 トヨタ TS050 HYBRIDはWECの開幕戦、第2戦と2連勝を飾っており、チームメイトのセバスチャン・ブエミ選手、アンソニー・デビッドソン選手ともにル・マンでの経験は豊富で安定したドライブには定評がある。ないのは“勝ち”だけだ。今年の絶対本命は8号車ということで衆目は一致していることは付け加えておく。

 むろんライバルだって強力だ。強力なライバルはもちろん同じトヨタの7号車 トヨタ TS050 HYBRID(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ステファン・サラザン組)も、小林可夢偉選手がコースレコードでポールポジションを獲得するなど速さを見せている。また、今年トヨタは2012年に復帰後としては初めての3台目となる9号車 トヨタ TS050 HYBRID(ニコラス・ラピエール/ホセ・マリア・ロペス/国本雄資組)も走らせており、7号車、8号車に何かがあったときへの備えも万全な体制だ。

 総合優勝を争うライバルとなるのは、もちろんポルシェだ。1号車 ポルシェ 919 Hybrid(ニール・ジャニ/アンドレ・ロッテラー/ニック・タンディー組)は全員がル・マン優勝経験者だし、2号車ポルシェ 919 Hybrid(ティモ・ベルンハルト/アール・バンパー/ブレンダン・ハートレー)のいずれも強力なラインナップであることは言うまでも無い。ポルシェは昨年、一昨年と連勝しており、今年それに続く3連覇を目指すことになる。

■J-SPORTS3では25.5時間時間生放送、TOYOTA GAZOO RacingでもWebライブ配信

 24時間の果てに何があるのか、そんなことを予想しても意味がないことは、昨年の結果が最も雄弁に語っている。どんな万全な準備をしてこようが、どんなに独走していようが、負けるときは負けるし、勝つときは勝つ、それがル・マン24時間の歴史であり、だからこそ毎年世界中の腕に自信があるドライバーやエンジニアが挑戦しようとしているのだ。

 例年とおりレースのスタートは6月17日(土)の15時(現地時間、日本時間6月17日 22時)の予定で、そこから24時間レースが行なわれ、ゴールは6月18日(日)の15時(現地時間、日本時間6月18日 22時)の予定となっている。

 今年は、BS放送のJ-SPORTS3で24時間生放送される。6月17日(土)の21時30分から放送開始。ゴールの1時間後となる6月18日(日)の23時まで生放送される予定だ。インターネット放送で24時間中継されたことはあったが、テレビ放送で24時間放送されるのはおそらく今回が初めてのことだ。今からでもまだ間に合うので、スカパー!なりケーブルテレビなりで、J-SPORTを契約してご覧いただきたい。

 また、TOYOTA GAZOO RacingのWebサイト「WEC第3戦2017年 第3戦 ル・マン24時間レース」ではWebライブ配信が行われる予定となっている。

 第1部は6月17日(土)の21時~25時(翌1時)、第2部は6月18日 13時~23時という予定で放送が行われる。要するにスタートと、夜明けからゴールまでWebで無料で見ることができるので、興味があるけどBS放送を受信する設備がないという場合には、こちらをPCなりスマートフォンなりで楽しんでほしい。

Car Watch,笠原一輝,Photo:中野英幸,編集部

最終更新:6/17(土) 16:22
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