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<写真集>馬場わかなさん、ぐっとくる「人と料理」撮って食べて 渋谷で展示も

6/18(日) 11:00配信

毎日新聞

 「読むとおなかがすく」「人柄が伝わってくる」--。写真家、馬場わかなさん(43)がこのほど出版したフォトエッセー「人と料理」(アノニマ・スタジオ)が好評だ。両親、料理家、モデル、陶芸家、イラストレーターなど料理のプロか否かを問わず、魅力を感じた人たち17組に普段の料理を作ってもらい、自然光の中でフィルムに収め、食べた。こんなにおいしそうな料理、良い表情を撮るのはどんな人だろう。本人に会いにいった。【岡本同世】

【笑顔の馬場さん】「人と料理」からの別カットも

 ◇ノープラン、がむしゃらなスタート

 ベリーショートの髪形に、豊かな表情。のっけから「写真撮るなら、ちょっと顔洗って来ていいすか」と場を和ませる。そんな馬場さんとカメラとの出合いは高校時代だ。写真部顧問の勧誘を物理の授業中に受けて入部。「当時はモノクロフィルムだったんですけど、面白いな、と思って。それで写真を好きになった」。日本大学芸術学部の写真学科へ進み、改めて基礎を学んだ。

 就職については「すごい勢いでノープラン」だった。新卒で広告写真のスタジオに入社するが、9カ月後に退社。約1年後の1998年、仕事としては経験のないまま、フォトグラファーの肩書で名刺を作り、電話で売り込みを始める。スタートは転職雑誌とコンピューターグラフィックスの雑誌。「企業の看板をこっそり撮ってきて」「写真と一緒に街頭アンケートもお願い」。依頼を断らずにこなした。

 この時期、学生時代のアルバイト先だった出版社「マガジンハウス」の編集者との再会を機に、雑誌「an・an」の撮影をするようになる。ファッション、タレント、街頭スナップ、店舗取材、物撮り。一つ一つをがむしゃらにやっていたものの、自分はこれだ、というものは定まらない。「中途半端で突破口がない感じがしていた」

 ◇「食べ物ならおいしそうに、人ならいい顔を」

 そんな中、撮影を担当した菓子研究家の福田里香さんから、何件もの仕事を紹介された。その一つが2003年に刊行された雑誌「天然生活」の創刊号。その後、暮らし関連の撮影依頼が増えていく。専門でもないのに、と当初は遠慮がちだったが、次第に「好きだな、向いているな、と。新しい回路が開けたような感じがあった」。中でも心を引かれたのが人と料理。依頼された仕事ではなく、自身の作品として撮りたいように撮ろう、と10年12月に取りかかった。

 最初の撮影は両親。「撮ったことなかった。ぐいぐい寄って、まじまじ見ると『ああ、こんな顔なんだ』って。面白かったです」。続いて登場する人たちにも、50ミリのレンズで「近い!」と言われるほど迫っていく。普段は? 「人に興味はあるけど、ぐいぐい仲良くなれる方でもない。カメラがないとだめですね。持ったら寄れるんだけど」。どの人も、心を許した柔らかい表情を見せている。

 食べ物も、美しい。湯気の上がるおにぎりや、シュワシュワと音が聞こえてきそうなかき揚げ、女の子の誕生日祝いに、お母さんがパンジーをあしらったケーキ。思いやり、おおらかさ、美意識……自らを「自然光カメラマン」という馬場さん。その時々の光の中で、料理からにじむ「その人らしさ」もフィルムに写しとった。

 一番大切にしていることは? 胸に手をあてると「よりぐっとくる、より良い姿を撮りたい」。少し考えながら、続けた。「食べ物ならおいしそうに、人ならいい顔を。なかなか狙って撮れるものでもないですが、撮れたらラッキーみたいな」

 その写真に負けず劣らず味わい深いのが、馬場さんの文章だ。展示に添えるような気持ちでつづったというが、編集担当者が「こんなにたくさん」と驚いたほどのボリュームで、「文に独特の雰囲気や勢い、リズムがある。そこを大事に、崩さないようにした」という。

 ◇「それぞれが、それぞれでいい」

 11年3月に東日本大震災が発生。馬場さんは約1年後に「笑顔の未来」という写真展を開いた。撮り下ろしたのは、福島県いわき市の郷ケ丘幼稚園と、両親が果樹園を営む福島市から北海道に移住した安斎伸也さん一家、神奈川県から沖縄県に移ったフードコーディネーターの根本きこさん一家。原発事故を経て、それぞれが選んだ場所で、新しい暮らしを模索する人々の姿を見つめた。「その時すごく思ったんです。それぞれが、それぞれでいいって」。この「人と料理」にも、ベジタリアン、肉を食べる人、マクロビオティックを実践する人など、さまざまな考え方の人が登場する。「どれが良い、悪いじゃなくて、自分に合った食事をするの、いいですよね」

 「写真って、うれしいものだと思うんですよ。万能ではないし、写り切らないものもいっぱいあるけど、基本的にうれしい」。馬場さんの思う、写真の力だ。それにしてもこの料理、どれもおいしかったでしょうね。「うんうん」。写真家も、うれしそうに笑った。

 ◇21日から渋谷で展示も

 「人と料理」は税別1800円。21~27日には東京・渋谷の「Nidi gallery ニーディ・ギャラリー」で、未掲載分も含むオリジナルプリント約60点を展示。登場する料理家のクッキーや瓶詰なども販売する。詳細はhttp://nidigallery.com/

 ◇プロフィル

 ばば・わかな。1974年、東京都生まれ。雑誌や単行本を中心に、暮らしまわりを撮影。ラジオ番組制作会社に勤務する夫、3歳の息子との3人暮らし。他の著書に「Travel Pictures」「まよいながら、ゆれながら」(中川ちえさんとの共著)、「祝福」がある。

最終更新:6/18(日) 15:26
毎日新聞