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「TAP-THE LAST SHOW-」 水谷豊が40年越しの企画を初監督で実現「思い続けることが僕の才能」

6/18(日) 9:27配信

産経新聞

 「TAP-THE LAST SHOW-」は、俳優の水谷豊(64)が約40年間にわたって温めてきた企画を自らの主演、初監督で映画化した作品だ。「観客を別世界に連れて行く。そんな映画が作りたかった」と熱を込めて語る。

■見ていることを忘れさせるような映画を

 主人公は、事故で踊れぬ体となり、酒浸りの毎日を送る天才タップダンサー、渡(水谷)。彼は、半世紀続いた劇場を閉じることになった旧知の支配人、毛利(岸部一徳)の依頼で、最後のショーの演出を担当することになる。渡は若手ダンサーに鬼気迫る猛特訓を強いるが…。

 主要キャストに清水夏生、西川大貴、太田彩乃らプロのダンサーを起用。ダンスシーンの迫力と高揚感が作品の最大の魅力だ。

 「俳優に踊らせるか、ダンサーに演技をさせるかの選択は難しかったが、ショーの場面で観客に一瞬、映画を見ていることを忘れさせたかった。それには本物のタップが必要だと決断しました」と水谷は語る。

■4度目の挑戦で実現

 「タップでしか自分を表現できないダンサー」という企画の原型を思いついたのは、23歳のとき。

 「昔からチャプリンが好きなんです。特に、彼の足の動きが印象的で、それがなぜか僕の中でタップと結びついた。その後、米国のブロードウェーでミュージカルのダンスシーンを見て深く感動したこともあって、タップの映画製作をずっと夢見てきたんです」

 水谷が思い描いたのは、社会性がなく、タップを踊っているときだけが幸せな青年と、元天才ダンサーの父との葛藤の物語。しかし、「当時は誰も興味を持たなかった」と苦笑する。

 「30代、40代でも企画を進めましたが、映画会社に『これでは客が入らない』と言われ、脚本が改変されてタップが添え物扱いになっていく。それで企画をストップしました」

 体力的に踊れる時期も過ぎ、一時は断念しかけた。しかし、「父の渡役ならやれる」と思い、一昨年、プロデューサーに相談。一気に話が進み、「あなたしかいない」と言われ、監督も引き受けることになった。

 「人について考えるのが好きなんです。役者のときは、その役柄が物語の中でどう生きるべきか、といつも考えている。監督となると、すべての登場人物の人生を考えられる。作品そのものにも関われるので、“越権行為”は何もない。撮影中は不安も感じないくらい夢中でした」

 クライマックスのショーでは、清水らの表情、華麗なダンス、そしてタップシューズが床を打ち鳴らす音が観客を魅了する。24分間の長いシーンだが、水谷の強いこだわりがあった。

 「ショーは短すぎても長すぎてもだめ。観客がちょっと疲れたころにスパッと終わるのがちょうどいいんです」

 今回、踊る側に自分がいなかったが、「彼らのダンスを見て、あきらめがつきましたね。僕が踊ったのでは、ここまでの力を持ったショーにならない」と笑う。

■思い続けることも才能

 40年越しの夢を自らの手で実現させた水谷。関係者を集めた試写が終わったとき、「頭に作品の善しあしはまったくなく、ただ『たどり着いた』という実感だけがありました」という。

 エンドロールが終わると、盛大な拍手が起こった。「僕がお礼をいっても、みんないつまでも拍手をやめないんです。恥ずかしくなって、途中で退席しました。今まで味わったことのない瞬間でしたね」と笑う。

 「何かを思うことは誰でもできる」と水谷。

 「だけど、思い続けることは、それ自体が才能なんだと信じていました。僕に与えられた才能があったとしたら、思い続けることだったんです」と語った。

(文化部・岡本耕治)

水谷豊(みずたに・ゆたか) 1952年、北海道出身。68年にテレビドラマ「バンパイヤ」でデビュー。主な出演作は、テレビドラマは「傷だらけの天使」「熱中時代」「熱中時代・刑事編」「相棒」、映画は「青春の殺人者」「相棒・劇場版」シリーズなど多数。歌手としても「カリフォルニア・コレクション」「やさしさ紙芝居」などをヒットさせた。

最終更新:6/18(日) 9:27
産経新聞