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西村直人の「アイサイト・ツーリングアシスト」を体感してみた

6/19(月) 0:00配信

Impress Watch

 スバルの「アイサイト」がさらに進化した。それに合わせてネーミングも、例えばこれまでのように「ver.3」といった「バージョン」+「数字」で進化度合を示していた手法を変更し、新たに「アイサイト・ツーリングアシスト」と命名された。これは来るべき自律自動運転社会を見据えた第一歩として、スバルが「運転支援技術の延長線上に自動運転がある」と改めて明言したのだと筆者は理解した。

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 スバルは航空機メーカーとしてのDNAと、本質の追求、そして新しい領域への挑戦を掲げており、その結果として個性的で合理的な設計と安全へのこだわりを持ち続けている。そうしたなか、スバルは「安心と愉しさ」をユーザーへと提供すべく、「人を中心としたクルマづくり」を原点に取り組んできた。また、安全なクルマの定義を、例えば「悪路や雨や雪でも普通に走れること」「万一の事故では人(乗員+歩行者)を守ること」などとし、すべての機能と性能は安全に通ずるという信念のもと、これからも現実の世界で「安心と愉しさ」が実感できるクルマづくりを継続するという。

 その具体例がスバルの安全思想でもある「ALL-AROUND SAFETY」、つまり総合安全性能に込められている。まず「未然の事故回避」として、①0次安全(例:安心の視界設計)、②アクティブセーフティ(例:シンメトリカルAWD)、③プリクラッシュセーフティ(例:今回進化したアイサイト)を掲げ、次に「事故の被害軽減」として④「パッシブセーフティ」(例:乗員や歩行者の保護)とするなど、計4点が総合安全性能の主軸となる。

 ところでアイサイトといえば、スバルを、そして日本を代表する先進安全技術の1つだ。今や販売地域は日本のみならず、豪州、北米、欧州、中国において累計販売台数100万台を数える。アイサイトの名を一躍有名にしたのは、このシステムの中心的な機能である「衝突被害軽減ブレーキ」だ。衝突被害軽減ブレーキとは、車載センサーが自車前方の車両や障害物を検知した際に警報やディスプレイ表示でドライバーに回避を促しながら、ドライバーが反応できない場合に自律自動ブレーキを作動させる先進安全技術である。

 1989年にスタートした車載用ステレオカメラの開発だが、アイサイトのネーミングが初めて使われたのは、2008年5月にマイナーチェンジを行なったレガシィシリーズからだった。他社同様、「ASV」(Advanced Safety Vehicle)に準拠した先進安全技術であることに変わりはないが、それらとは決定的に違うポイントがあった。それは、システムの要となるセンサーがステレオカメラのみであったこと。センサーは人間でいうところの眼にあたる。当時、一部の高級車種から採用が始まっていた「レーザーセンサー」や「ミリ波レーダー」といった電波技術を用いず、光学式複眼カメラ(故にステレオカメラ)のみで、前走車や障害物、さらには歩行者や自転車を含めた2輪車までも認識するシステムであった。

 スバルは長年、このステレオカメラ方式による衝突被害軽減ブレーキを市販車へ導入してきた実績がある。開発の歴史は古く、1999年5月にレガシィ ランカスター(現アウトバック)に採用した「ADA」(Active Driving Assist)がそのルーツだ。当時、衝突被害軽減ブレーキという概念はまだ浸透してなかったが、スバルは世界初の技術としてステレオカメラのみで前方車両や障害物を判断し、ドライバーに回避動作を促すシステムを確立していた。

 ADAの基本的なシステム構成は最新版のアイサイト・ツーリングアシストとほぼ同じだ。ルームミラーにまたがるように配置された2つのモノクロCCDカメラ(現在は、逆光によるスミア現象に強いカラー化されたCMOSカメラへ変更)による映像を解析し、制御にフィードバックさせることによってシステムを成立させている。

 商品化にあたっては、車載用ステレオカメラ開発の1年前である1988年から基礎研究をスタートさせていた。そういった意味では、スバルは先進安全技術の分野でも長い歴史があると言えるし、その流れを汲んだステレオカメラだけで機能させることができるアイサイトが高い信頼性を持っていることの裏付けになる。

 2003年8月にADAはステレオカメラにミリ波レーダーセンサーを融合させた新システムへと移行。そして2006年にはADAから派生した全車速追従機能付のクルーズコントロールである「SIレーダークルーズコントロール」を投入する。SIレーダークルーズコントロールはセンサーに波長の短いレーザー(LIDAR)を用いた低速域でも働くアダプティブ・クルーズ・コントロール機能だ。0~約100km/hまでの全車速で前走車との距離を一定に保ちながらの追従走行を可能にするが、衝突被害軽減ブレーキ機能はない。

 ここでの特徴は、エンジン出力特性などの変更がスイッチ操作1つで行なえるスバル独創のインテリジェント・ドライビング・アシストシステムである「SI-DRIVE」との連携が図られていることで、「インテリジェントモード」選択時は燃費性能が向上するような制御を行なうなど、きめ細かい制御も織り込まれた。この制御は最新版のアイサイト・ツーリングアシストにも継承されている。

 このように、一見するとほかのセンサーを組み合わせたり、レーザーをセンサーに用いたりしているため、ステレオカメラ単独方式に限界を感じたスバルがほかの方式を模索しているように思われるかもしれない。しかし実際は、ステレオカメラ単独方式での有利性である、安価で確実に機能させることを立証することになった。

 こうした進化の過程を経ることで、アイサイト ver.2では、人身事故全体の61%が低減され、うち車両への追突事故は84%もの低減が効果として交通事故総合分析センター(ITARDA)によって立証されている。事故低減はいうまでもなくすべての人の悲願である「事故ゼロ社会」を具現化する手段の1つであり、事故による社会的損失(関係者の時間、経済的負担、保険料負担)の低減にも直結する。また、アイサイトに含まれるACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)は、高速道路や自動車専用道路での燃費数値向上にもつながり、ACCの普及率が高まることによって道路交通法にも定められている「円滑な交通」にも大きく寄与することが、例えば首都高速道路・湾岸線などで行なわれてきた実証実験からも分かってきた。

■精度が大幅に向上して、より滑らかに、分かりやすく進化

 そうしたなか、今回のアイサイト・ツーリングアシストでは、①約60km/h以下の速度域でアクセル、ブレーキ、ステアリングの操作を支援することで、前走車との追従走行がサポートされる機能と、②約100~120km/hの速度域でアクセル、ブレーキ、ステアリングの操作を支援することで、車線内を保持する運転サポートが受けられるようになった。アイサイト・ツーリングアシストは、改良型の「レヴォーグ」「WRX S4」への標準装備化を皮切りに、「BRZ」などの一部スポーツタイプを除く日本国内向けのスバル全車に標準装備化を進めるという。

 アイサイト・ツーリングアシストの要は、全車速域で作動する「ステアリング制御」だ。これまでと同じくステレオカメラで車線が認識されると、メーター内のマルチインフォメーションディスプレイに白線を認識したことが表示され、さらに中央維持機能が作動している際はその白線表示がなされる。今回から作動している状態ではこれまでの白線表示から青色表示となり、より作動内容が明確となった。今回は専用のクローズドコースで改良型レヴォーグに試乗できたのだが、そこでは車線中央維持機能の精度が大幅に向上したことが分かった。

 ver.3の中央維持機能も運転支援としては優れていたが、アイサイト・ツーリングアシストではステアリングの制御方法がより滑らかになった。直線路であってもクルマは外乱によって進路を乱されることがあり、ドライバーは無意識にそれを補正するためにステアリング操作を加えているが、中央維持機能によってその補正回数が半分以下になったイメージだ。これにより長距離はもとより、人間の眼では白線が判別しにくい逆光下における濡れている路面などではとりわけ運転支援度合が高くなる。

 また、車速域ごとのステアリング制御はこうなる。40km/h以下では前走車と区画線(車線を示す白線のこと)を認識している際にステアリング制御(前走車と車線を認識)を行ない、60km/h以下では区画線が消えてしまったり大型車で隠れてしまったりした状況でもステアリング制御(前走車の認識)が行なわれる。前走車が認識された場合には、これまで同様に前走車のアイコンが表示されるとともに、それを取り囲むターゲットマークが青色で表示されるため分かりやすい。

 2020年にはステレオカメラに加えて、現状で後方2カ所に設置されているミリ波レーダーを前方2カ所に設置し、さらに高精細なデジタルマップを組み合わせることで「自動車線変更機能」も加えられるという。このように先進安全技術から生まれたアイサイトは、これまで時代とともに進化し、そしてこれからはさまざまなセンサーとの組み合わせによって自動運転技術へと生まれ変わることになる。

Car Watch,西村直人:NAC,Photo:安田 剛

最終更新:6/19(月) 0:00
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