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<熊本豪雨1年>「地震さえなければ」関連死認定されず

6/19(月) 7:10配信

毎日新聞

 熊本地震の約2カ月後に被災地を襲い、6人が命を奪われた集中豪雨から20日で1年になる。6人中5人は地震による地盤の緩みが一因とみられる土砂崩れで亡くなり、震災関連死と認定された。しかし、ただ一人認定には至らなかった熊本県甲佐町の建具店経営、曽我収(おさむ)さん(当時79歳)の死にも、地震が影を落としている。「『地震さえなければ』と今でも考えてしまう」。遺族はわだかまりを抱いたまま、父の日の18日、曽我さんの一周忌を営んだ。【野呂賢治】

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 熊本地震後、曽我さんはガラスやサッシ交換の依頼が急増し、仕事に追われていた。それでも「信用されて頼まれとるけん」と断らなかった。妻弘子さん(71)、三女沙緒里さん(46)は地震後の休日を「数えるほどだった。疲れも相当たまっていたと思う」と口をそろえる。

 昨年6月20日、すさまじい雨が甲佐町を襲った。熊本地方気象台によると、20日深夜から21日未明の1時間、甲佐町の降雨量は全国観測史上4番目の150ミリに達した。

 経験したことがない猛烈な雨に、曽我さん宅の前を流れる大井手(おおいで)川はあふれ、道路や駐車場は冠水。曽我さん一家3人は20日午後11時半ごろから水の流入を食い止めるため土間に土のうを積む作業に追われ、そのさなかに曽我さんの姿が見えなくなった。「別の場所で作業している」。2人ともそう思っていたが、21日午前0時ごろ、沙緒里さんが膝上まで冠水した自宅駐車場で曽我さんが倒れているのを見つけた。

 近所の人も駆けつけ、人工呼吸や心臓マッサージをしたが、届かなかった。

 「死因は水死ですが、生前に脳内出血が起きていました」。搬送先の病院でそう告げられた。地震後の過労が影響し、作業中に倒れて水死したのではないか--そう考えた沙緒里さんは町に相談したが、「死因が水死だと震災関連死認定は難しい」と言われ、申請を見送った。

 だが、悔しさは消えない。沙緒里さんは「あの豪雨で6人が亡くなったのに『地震後の豪雨で5人死亡』と報道されると、お父さんだけ別の扱いをされているようで悲しい。地震がなければ、あんなに疲れていなかっただろうし」と胸の内を明かす。

 豪雨のころには立て込んでいた仕事も残り2、3件になり、曽我さんは片付けば引退して好きな釣りや家族旅行をしようと楽しみにしていたという。だが、ささやかな夢はかなわなかった。

 豪雨前日の昨年6月19日は「父の日」だった。沙緒里さんは曽我さんのために20日にメロンを買ったが、仕事で自身の帰宅が遅くなってしまい、プレゼントしそびれてしまった。今年の父の日に営んだ曽我さんの一周忌。沙緒里さんは仏前にメロンを供えて手を合わせた。

 ◇時間雨量80ミリ超、息苦しい圧迫感

 気象庁は1時間雨量が80ミリ以上の雨を「恐怖を感じ、息苦しくなるような圧迫感がある」と表現する。昨年6月20日夜から21日未明にかけて熊本県内に降った雨は、1時間雨量が宇土市で122ミリ、熊本市でも94ミリを観測。南阿蘇村や西原村で避難指示が出たほか、熊本市なども避難勧告を出した。

 甲佐町の曽我収さんのほか、土砂崩れや崖崩れで熊本市北区の87歳と85歳の夫婦▽宇土市椿原町の男性(66)▽宇土市住吉町の女性(53)▽上天草市大矢野町の男性(92)--の5人が死亡した(年齢はいずれも当時)。

最終更新:6/19(月) 7:10
毎日新聞