ここから本文です

AI技術がテレビの画質を上げる! 東芝レグザの「AI機械学習HDR復元」とは

6/19(月) 21:29配信

ITmedia LifeStyle

 AI(人工知能)というとパーソナルアシスタントやロボットを思い浮かべる人が多いかもしれないが、その研究で生まれた技術は家電などにも活用されている。東芝の薄型テレビ“REGZA”(レグザ)の上位シリーズに搭載された「AI機械学習HDR復元」もその1つだ。最新のHDR(ハイダイナミックレンジ)対応テレビを最大限に活用できるという新技術に迫った。

「AI機械学習HDR復元」の概要

 HDRの登場により、従来よりもリアルな映像をテレビで楽しめるようになったが、課題は対応コンテンツが少ないことだろう。Ultra HD Blu-rayや動画配信サービスで対応が進んでいるものの、広く普及したDVDやBlu-ray Discは従来のSDR(スタンダードダイナミックレンジ)で、一般の人がもっとも見る機会の多い地上デジタル放送もHDR化の予定はない。せっかく高価な4Kテレビを購入しても、本領を発揮する機会が少ない。

 東芝が提案した「AI機械学習HDR復元」は、2013年のレグザ「Z8」シリーズから搭載している“ダイナミックレンジ復元”をベースに、SDRコンテンツを疑似HDRに変換するというもの。地デジやBDでも、HDRコンテンツに迫る広いダイナミックレンジを楽しめるという。しかも東芝は、その変換精度にかなりの自信を持っている。なぜか。

●正解を手に入れた

 東芝ソリューション開発センター、オーディオ&ビジュアル技術開発部第三担当の山内日美生グループ長は、「昨年、Ultra HD Blu-rayが発売されましたが、現在のUltra HD Blu-rayタイトルは4K/HDRのUltra HD Blu-rayディスクのほかに、2K/SDRのBlu-ray Discも入っています。つまり変換前のSDRコンテンツと、変換後の“正解”(=HDRコンテンツ)が一緒に入手できるようになりました」と話す。

 “正解”があれば数式を完成させることができる。つまり、HDR変換の精度向上における重要な要素を確保したわけだ。

 山内氏は続ける。「われわれが着目したのは、光のダイナミックレンジの変わり方――輝度のヒストグラム分布にどのような特徴があるか、です。Ultra HD Blu-rayとBlu-ray Discから同じシーンのヒストグラムを取り出し、SDRのガンマカーブに変更を加えていきます。出力されたヒストグラムが正解(UHD BD)と同じになるときの復元パラメーターを導き出し、それを変換テーブルに反映。この作業を繰り返します」

 変換テーブルの精度を上げるには、サンプル数を増やすのが近道だ。しかし、「1本の映画から数十あるいは数百」(同氏)ものシーンを取り出し、同じ作業を繰り返すには膨大なマンパワーが必要になる。「例えば似たようなシーンでも、ほかのコンテンツでは(傾向が)異なることもあり、作業量は膨大です。人がやっていては、到底間に合いません」(山内氏)。そこでAIやディープラーニングといった分野を研究している同社ソリューション開発センターから機械学習の技術を導入。機械学習があったからこそ実行できた“力業”といえそうだ。

 その効果は明らかだ。実際に映画「シン・ゴジラ」など複数の映画タイトルで、HDR復元処理を施したBD映像と正解のUltra HD Blu-rayの映像を比較したが、言われなければBDの映像とは気づかないレベルに仕上がっていた。

 例えば建物の壁の質感、屋外にあるテントに見えるシワの陰影など、SDRでは明るく飛んで見えない部分が再現されている。もちろん、一方の画面だけを見てテントのシワなどに気づく人はほとんどいないだろうが、こうした細かい部分の違いが積み重なり、映画全体の印象を大きく変えているのは確かだ。

●現状の課題と次のステップ

 AI研究から生まれた機械学習の技術は、エンジニアのマンパワー不足を補い、テレビの画質を向上させる“縁の下の力持ち”だった。しかし、実際にエンジニアの仕事が楽になるかといえば、必ずしもそうではないようだ。

 例えば、現在のUltra HD Blu-rayタイトルが映画中心で、テレビドラマやアニメなど他ジャンルのコンテンツが少ない。将来的には増えてくるだろうが、現状そうしたコンテンツの変換テーブル製作は“人力”に頼っている。

 またUltra HD Blu-rayタイトルもすべてが使えるわけではない。東芝レグザの映像エンジンを長らく担当してきた住吉肇氏は、「HDRは出てきたばかりの技術で、映画制作会社にも手探りの部分があります。中には過剰なHDRネスを持つタイトルもあり、それをサンプルに含めてしまうとわれわれが目指す効果は得られません」と指摘する。タイトルを取捨選択するのは、「やはり人の目」だという。

 テレビというハードウェアが持つ能力の違いも検討課題の1つだ。東芝では春の新製品のうち、液晶テレビのフラグシップモデル「Z810Xシリーズ」と有機ELテレビ「X910シリーズ」にAI機械学習HDR復元を搭載している。どちらもベースとなる変換テーブルは共通だが、絵柄に応じてダイナミックに(動的に)変化する部分では違いを持たせている。

 「例えば(画素単位で明るさを制御できる)有機ELの場合、APL(Average Picture Level:平均輝度)が低いシーンでも白ピークはグンと伸びますが、APLが高いときは全体的にコントラストや白ピークを落としてきます」(住吉氏)。一方、液晶テレビ(ローカルディミング)の場合、APLが低いのに白ピークだけを伸ばすと周囲の黒浮きにつながりかねない。パネルの特性や製品の仕様によって、さじ加減を変える必要がある。

 「今後はディスプレイの能力に応じた最適値も考えなければならないでしょう。また現在はわれわれが理想とするHDRに近づけるために(テーブル作成に使う)コンテンツを選んでいるわけですが、人によってはもっと派手なHDRネスを好む場合もあると思います。次のステップとして、HDRネスを高めるメニューなども検討できればと考えています」(住吉氏)

 機械学習の導入により開発のスピードと効率が上がったことは確かだ。しかし人力に頼る部分はいまだ多く、なにより、既に“次のステップ”も控えている。住吉氏は、「追加の作業も多いので、仕事自体はむしろ増えていますね」と笑った。

最終更新:6/19(月) 21:29
ITmedia LifeStyle