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三つの手段から最善選択 心臓弁膜症の外科治療

6/19(月) 10:38配信

山陽新聞デジタル

 心臓弁膜症の外科治療について、心臓病センター榊原病院(岡山市)の都津川敏範心臓血管外科部長に寄稿してもらった。

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 心臓は全身に血液を供給するポンプの役割をしています。血液を一方向に流すため、心臓の中には「弁」という構造物があります。心臓弁膜症とは、この「弁」に障害が起きた状態を言います。弁がうまく閉じずに血液が逆流する「閉鎖不全症」、弁が硬くなって開きが悪くなる「狭窄症」の二つの病態があります。四つの弁のうち、「僧帽弁」と「大動脈弁」の障害に対して外科治療を行うことが多いのですが、高齢化に伴って大動脈弁が硬くなる「大動脈弁狭窄症」が近年増加しています。その外科治療が最近劇的に変わりました。

 以前は胸の真ん中の胸骨を切開して行う「開胸手術」しかありませんでしたが、2007年には肋骨(ろっこつ)と肋骨の間(肋間)を小さく切開して人工弁を縫い付ける「低侵襲手術」が、日本で初めて当院で行われました。13年にはカテーテル用の人工弁が保険認可され、「経カテーテル的人工弁留置術(TAVI)」が日本でも始まりました。当院では、現在この三つの治療手段を駆使して、診療を行っています。

 一番体の負担が少ないのは、カテーテルで行うTAVIで間違いありません。ヨーロッパでTAVIが登場したばかりの時はトラブルも多かったのですが、人工弁の進歩やCT検査による術前評価法の確立により、現在安全に手術ができるようになりました。当院では、13年の導入から1例も入院死亡はなく、良好な成績が得られています。ただ、基本的に大動脈弁狭窄症だけの治療になり、不整脈や僧帽弁疾患の同時治療はできません。また、人工弁の周囲に隙間ができて血液が心臓に逆流したり、長期の耐久性が分かっていないという問題もあります。

 一方、胸骨切開による開胸手術は現在でも心臓弁膜症の標準治療です。いろんな状況に対応可能で、不整脈や僧帽弁疾患の同時手術も可能です。しかし、「胸骨切開=骨折」であり、人工心肺下に心臓を止めて手術するため、高齢者では術後の体力低下が問題となります。このような開胸手術のデメリットを克服すべく、また近年のカテーテル治療の発展に負けじと、最近では低侵襲手術が進歩してきました。

 肋間小開胸の手術では胸骨を切らないため、出血が少なく、細菌感染のリスクも激減し、早期退院、早期社会復帰が可能になります。また女性では、傷口が乳房に隠れるため、美容的にも非常に満足度の高い手術です。このような低浸襲手術を、当院では05年から開始しました。12年9月の新病院移転を機に、高齢者でも積極的に低浸襲手術を行う方針とし(最高齢91歳)、17年3月までで通算800例を超える低浸襲手術を行っています。これは日本でもトップクラスの症例数です。

 メリットの多い低侵襲手術ですが、デメリットも存在します。まず、小切開手術なので手術難易度は格段に上がり、些細(ささい)な事が大きなトラブルにつながってしまいます。また、一般的には一つの弁だけの手術が基本で、複合手術は困難とされています。しかし、当院では10年以上の経験をもとに、安全に手術する方法を確立しました。その手法を見学するため、これまで数多くの外科医が全国から当院を訪れています。複合手術に関しても、11年には日本で初めての大動脈弁と僧帽弁の同時手術が当院で行われ、現在では不整脈手術を併せて行うことも珍しくありません。

 患者によってベストの治療法は異なります。開胸手術、低浸襲手術、TAVI。この三つの治療手段を駆使して、岡山で世界レベルの治療を提供したいと思っています。

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 心臓病センター榊原病院(086―225―7111)

 とつがわ・としのり 広大付属福山高校、岡山大学医学部卒。尾道市立市民病院、岡山大学大学院を経て2003年から心臓病センター榊原病院勤務。08年より現職。大動脈弁の低侵襲手術を中心に、主に心臓弁膜症の外科治療を担当。外科専門医・指導医、循環器専門医、心臓血管外科専門医・修練指導医。