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石橋クラシエ社長、「ホーユーさんが株主になって、初めて何とかなるかなと」

6/19(月) 11:30配信

ニュースソクラ

「わが経営」を語る 石橋康哉クラシエホールディングス社長に聞く(2)

――産業再生機構からカネボウの社長に来られた小城武彦さんが当時、「カネボウには人材がいますね」と言っていました。

 人材を残してくれた点についてはカネボウに感謝しなければならないですね。だから、みんなが1つの目的を持って、正しい方向に進めば、絶対にいい会社に出来ると全員が思っていたはずです。

――新卒者の採用はいつから再開したのですか。

 新卒採用は少なくしても継続しました。会社が将来も存続するためには、新しい人の採用は絶対に必要ですから、強い意志で続けてきたのです。だけど怖かったですね。

 人の人生を預かるわけなので、それを台無しにしたら、謝って済む話ではありません。不安なのですが、学生には僕たちはこんな夢を持っているんだと語りながら採用しました。ウソは言っていませんが、現実には厳しいんです。もし彼らをだますようなことになったら、オレは地獄に落ちるなと本当に思いましたよ。

 そのころ入った子たちも、かなりいい学校の優秀な学生です。社長に成り立てのころ、入社式で私はよく「君らくらいの能力があれば、もっといい会社に行けたのにね」と話しました。当時から一貫して入社式では「おめでとう」ではなくて、「有難う」と言っています。「おめでとう」なんて上から目線ではなくて、この会社によく来てくれて「有難う」という気持ちだからです。新入社員は金の卵であり宝なのです。

――これは行けるぞと感じたのは、いつごろからですか。

 「クラシエ」に社名を変更した時、株主はアドバンテッジパートナーズ、MKSパートナーズ、ユニゾン・キャピタルの3つのファンドでした。保有する株式をファンドグループがどう売却して投資を回収するのかという課題が残っていたのです。

 ファンドさんのビジネスは、産業再生機構から買ったよりも少しでも高く売らなければ成り立ちません。私たちがどこに売ってほしいということより、一番高く売れるところに当然売りたいわけです。

 そのために、食品は食品業界に、ホームプロダクツはトイレタリー業界に、薬品は薬品業界に、3つばらして売られるのではないかという危機感を持っていました。実際、再生機構から化粧品は花王に、私たちは3ファンドに、別々に売却されていますからね。

 ファンドと共通の思いがあったとしたら、企業価値を上げることです。そうしないと高く売れませんし、私たちも生き残れない。ですから企業価値を高めて、私たちは3事業一体で行くぞと社員に言い続けてきましたが、現実は非常に厳しい状況でした。

 社名変更して最初の2年は不安が常にありました。新社名の「クラシエ」が世の中に通用するのか。これはみんなの意地で乗り切りました。しかしファンドの決定次第では、頑張ったかいも無く、バラバラにされて元の木阿弥になる恐れがあったわけです。そこでホーユー(名古屋市)さんが2009年に株主になってくださって、初めて何とかなるかなという気がしたんです。

――社名を変更して2年後の09年7月に、石橋さんは副社長から社長に昇格し、その9月に毛染剤大手のホーユーがファンドからクラシエの株式の60%を買いました。12年に残り40%を買い取って、現在に至っています。

 ホーユーさんはメーカーですから、ファンドとは価値観が大きく違います。メーカーは、持続的に成長するためには、今は赤字でも将来価値を上げるのに必要な先行投資の重要性を認識しています。

 ファンドさんは、いい悪いではなくて、投下した資金を回収するために事業を短期で売るので、当面の利益の確保を優先します。しかし今はそれでよくても、将来、必ずパンクすると思って、全然、安心できませんでした。

 ホーユーさんが株主になってから、おかげで将来への投資を積極的にできるようになりました。これでまともにやっていけるという安堵感が初めて生まれました。

 今のクラシエの大枠の考え方は、利益の持続的成長を目指すことだと言い続けています。その最大の手段が売り上げの拡大です。昔のカネボウの悪い点の1つは、売上高至上主義でした。とにかく売上規模を拡大しようとする。昔は、目的と手段が逆転していたために、おかしくなったのだという反省もあります。

――会社は悪くなるのもよくなるのも速いですね。

 速いですね。びっくりします。自動車にたとえればセルモーターを回すまではのたうち回っていて、前になかなか進まないという時期がありますが、いったん回してエンジンがかかれば、えっ、こんなによくなるのかという感じです。 悪くなるのも一緒です。気がついたら、もうどうにもならないほど、速く悪化します。

 業績は2016年12月期決算で、売上高約915億円、営業利益約55億円です。売上高はここ10年、年平均4%くらいで伸びてきたかなという感じです。

――業績が上って安定してくると、気が緩みませんか。

 私自身、それとの闘いですよ。ファンドの配下にいたときは、24時間、不安との闘いで日々を過ごしてきました。ホーユーさんが株主になって、やっと気持ちが落ち着きました。だからこそ、みんな頑張ろう、居住まいを正してということを全社目標に掲げました。

 ここで油断したら、今までの努力が無駄になる。もう一度、みんなで死に物狂いになって頑張ろうとやったら、業績がよくなっていく。そうすると危機感は間違いなく薄れます。またあらためて危機感を持たせて頑張る態勢をどう作っていくのか。その繰り返しでしたね、クラシエになってからの10年は。

(次号に続く)

■聞き手 森 一夫(経済ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1950年東京都生まれ。72年早稲田大学政経学部卒。日本経済新聞社入社、産業部、日経BP社日経ビジネス副編集長、編集委員兼論説委員、コロンビア大学東アジア研究所、日本経済経営研究所客員研究員、特別編集委員兼論説委員を

最終更新:6/19(月) 11:30
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