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AIIB参加論に釘刺した安倍首相

6/19(月) 15:00配信

ニュースソクラ

中国の戦略に資する参加は日本のためにならない

 自民党の二階幹事長がさる5月14、15日の両日、北京で開かれた「一帯一路」国際フォーラムに出席、さらに習近平総書記とも会談して安倍総理の親書を手渡した。二階幹事長は「一帯一路構想に日本として今後最大の協力をしていく」とともに、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に「日本も参加する可能性がある」との発言をした。

 さらに、6月5日、東京で開催されたでアジアの国際交流会議で演説した安倍首相は「一帯一路には協力していきたいと考える」と従来の慎重姿勢から前向きな姿勢に転じたかのような印象を与えた。

 しかし、安倍首相は同時に「インフラ整備は万人が利用できるように開かれ」「透明で公正な調達がなされる」「プロジェクトに経済性がある」「借り入れ国が債務を返済可能な範囲内で財政の健全性を維持しうる」の4条件を掲げている。

 安倍発言の狙いは、一帯一路に反対はしない代わりに北朝鮮問題では中国の説得に期待する、ということにあろう。中国と対立関係にあることは好ましくなく、習近平政権との距離を縮めることにある。

 しかし、上記のような4条件を課していることは見逃せない。4条件は言いかえると、中国の国益優先ではいけない、中国企業だけでなく日本企業にも調達にアクセスできるよう配慮するべきだ、さらに近年のプロジェクト案件が経済合理性に乏しく、採算性や負担の大きさが軽視されがちだと指摘したものだ。一帯一路に前向きなトーンを出しているようでいて、警鐘も鳴らしている。

 4条件は、おそらく財務省が書いたものだろう。それに安倍首相も乗った。二階幹事長訪中後、外務省や経済産業省を中心に政府内で高まりかけているAIIB参加論に釘を刺した形だ。

 AIIBは、2013年10月に習近平総書記が主唱したアジア向け融資を行う国際開発金融機関である。アジアにおけるインフラ整備を充実させるため、との理由で中国が設立を提唱した。現実的には「一帯一路構想」を実現するためのファイナンス機関であることは言うまでもない。

 2016年1月に開業、本部を北京市に置き、創立メンバーの57ヶ国が資本金1,000億ドルを拠出、うち中国が約3割を拠出して重要案件の拒否権を持つ構造となっている。その後メンバーは増え続け、現在では77ヶ国とアジア開発銀行(ADB)の67ヶ国を上回るに至っている。G7で参加していないのは米国と日本のみである。

 AIIB参加論の二階氏と、牽制する側に回った安倍首相。どちらのスタンスが正しいのだろうか。

 もっとも重要な点は、AIIBの設立が中国主導の下にあることだ。AIIBは一帯一路の実現に向けて中国の利益につながるインフラ投資を拡大する道具である。中国の政治的・経済的な影響力拡大を真の狙いとした「一帯一路」構想にわが国の税金を注ぐことの是非を問わなければならない。

 仮に日本が参加するとなると、AIIBでは加盟国の国内総生産(GDP)に応じて資本金拠出が決定されるので日本の財政負担は多ければ30億ドル(約3300億円)に達するものとみられる。

 尖閣諸島を巡る軋轢、南シナ海での人工島建設を通じた制海権確保、さらには歴史認識の違いを抱える中国とわが国は越えられない一線がある。

 そもそも「一帯一路」構想には経済的利益のみでなく、中国の戦略的なメリットが含まれている。例えばラオスと中国雲南省を結ぶ道路、鉄道が敷設されればラオスと国境を接するベトナムにとっては中国の軍隊があっという間に自国の裏側に到達することを意味している。

 シンガポールが「一帯一路」国際フォーラムを欠席したのは中国の南シナ海での人工島建設などで航行の自由が制限されることへの抗議の意味があろう。

 また中国はインド洋に直接抜けられるパキスタンに経済援助などを通じて肩入れしており、道路網を整備して中国内陸部からパキスタン海岸部までのルートを確保しようと目論んでいる。

 そのルートが領土紛争中のカシミールを通ることに激怒したインドのモディ首相は同会議への招待を拒否した。当然のことながら各国とも自国の利益を最優先した姿勢を示している。

 日本の経団連、経済同友会はAIIB設立時に「AIIBに参加すればインフラ投資関連の受注が見込める」という算盤で加盟を前向きに検討してほしい、と要望していた。

 今回の安倍総理講演にも間接的表現で財界の要望を取り入れている。しかし、「透明で公正な調達」を実施しているADBの場合ですら、日本企業からの調達は僅少にとどまっている。

 ましてAIIBでは中国の議決権シェアが圧倒的であるうえ、常設の理事会を持たないというガバナンスの問題も加わって、調達先は地元企業や中国企業に集中しよう。

 日本政府の一部が焦りを感じているのはトランプ政権が北朝鮮問題もあって中国に急接近して、日本が置いてきぼりを食ってしまう可能性を危惧しているためだ。世界の歴史を見ても大国同士はすぐに結託する。

 そもそも米国は中国の歴史、文化を尊敬してきた。またトランプ政権が、外交的には北朝鮮問題の解決に本腰を入れさせるとともに、世界第2の中国の経済力を利用したいと思っているのも確かだ。

 そうならないうちに、わが国としてはAIIBに加盟して中国との友好関係を結ぶ足掛かりとしたいとの目論見が政府部内にはある。しかし、AIIBに参加して、これを中国が多とする、と考える方が甘い。

 中国は日本の加盟を当初は歓迎するであろう。AIIBの資金調達コストの低下につながる格付け取得への道も付けられるためだ。

 しかし、強大な軍事力、政治力、経済力をもつ米国、中国の交渉に、AIIBに加盟したからといって日本が影響力を与えることはできない。日本人特有のウエットな議論は国際政治では通用しない。AIIB参加は慎重になるべき理由が山ほどある。

俵 一郎 (国際金融専門家)

最終更新:6/19(月) 15:00
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