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ソニーの次世代ゲーム機「PlayStation 5」の方向性

6/20(火) 6:00配信

Impress Watch

■Xbox One Xが象徴するゲーム機の進化の方向性

 Microsoftの次世代ゲーム機「Xbox One X」の発表によって、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)の次世代ゲーム機「PlayStation 5(PS5)」の姿が見えてきた。Xbox One Xのポイントは、既存のXbox Oneアーキテクチャの延長で、大幅に性能を向上するというものだ。具体的には、CPUコアの動作周波数を引き上げ、GPUコアをPolaris(ポラリス)アーキテクチャベースとして演算ユニット数を3.3倍の40 CU(Compute Unit)/2,560 FMADユニットに大幅拡張し、DRAMメモリ帯域をDDR3 x256の68.3GB/secから、GDDR5 x384の326.4GB/secへと激増させた。

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 Xbox One Xのポイントは、従来の新ゲーム機のように、ハードウェアアーキテクチャを刷新するのではなく、アーキテクチャに継承性を持たせて拡張している点。CPUアーキテクチャは、従来のJaguar系CPUコアの拡張、GPUコアはGCN(Graphics Core Next)系の新コアと、アーキテクチャ面では下位互換性を持つ。ただし、アーキテクチャ拡張以外にも変更点があり、従来のXbox Oneでは、オンチップで32MBのeSRAMを持っていたが、これは継承されていない。

 Xbox One Xの登場は、ゲーム機の進化が新しいパターンに入ったことを象徴している。従来のゲーム機は、世代毎にアーキテクチャが刷新され、ハードウェアレベルでの互換性は制約されることが多かった。だが、Xbox One Xでは、同系列のアーキテクチャで拡張することで、新世代機としている。従来的な視点からは、Xbox One Xは1.5世代機に見える。

■ゲーム機は段階的に進化させる方向へと変わった

 Xbox One Xのパターンは、今後のゲーム機の進化のパターンを予兆させる。既存アーキテクチャの拡張で、継承性を持たせることで、立ち上げにかかる諸々のコストを削減する。PC型の段階的な発展モデルへと、ゲーム機も変わりつつあるようだ。このトレンドは、Microsoftだけでなく、SIEにも共通すると見られる。

 じっさい、SIEはハードウェアとソフトウェアプラットフォームを完全に一新する従来のゲーム機開発の手法は止めたと噂されている。SIEも、Xbox One Xと似たようなアプローチの次世代ゲーム機を開発すると言われている。そして、その流れで、AMDと継続して組む方向へと向かっていると推測される。

 現状では、SIEは、PS4で予想を上回る大成功を収め、そろそろ後継ゲーム機の開発で忙しいはずの時期に入っている。ところが、SIEが、ゲーム機を作ることができる技術を持つ企業と接触したという業界噂は聞こえてこない。代わりに聞こえてくるのは、SIEが次世代のPS5でも、AMDと手を組むという噂ばかりだ。

 半導体メーカーを見た場合、ゲーム機に使うことができるAPU(Accelerated Processing Unit)タイプのチップを提供できるのは、AMDとIntel、それからARM CPUコアでNVIDIA。それなら、AMDプラットフォームで成功しているSIEが、AMDを継続することは不思議ではない。

 SIEは昨年(2016年)、PS4のアーキテクチャを拡張した「PlayStation 4 Pro」(PS4 Pro)を発売した。PS4 Proでは、AMDアーキテクチャAPUを拡張したものの、SIEはPS4 Proだけで走るゲームは許容せず、PS4 Proをグラフィックス面の強化版と位置づけた。PS4プラットフォームの一貫性を維持するためだ。

 PS5も、ハードウェア的にはPS4 Proに似たAMDアーキテクチャの拡張になると推測される。PS4 Proとの大きな違いは、PS5専用ソフトをフィーチャーする点で、後方互換性は持たせつつ、新ソフトウェアでけん引する方式になると見られる。PS4 Pro 2的なハードウェアであっても、その売り方は全く異なって来ると見られる。

 アーキテクチャ上では、GPUコアは、AMDの次世代の「Vega(ヴェガ)」か「Navi(ナヴィ)」、CPUコアは後述するがAMDの最新の「ZEN(ゼン)」系CPUコアか「Jaguar(ジャギュア)」系CPUコア。メモリでは、スタックドDRAMが来るかどうかがポイントとなるが、HBM2のコスト低減が間に合わない可能性が高い。ほかに重要なポイントは、VRレディにするかどうか、ディープラーニングのインファレンス(推論)をどうするのか、といった点となる。

■CPUコアの選択で変わる製造ファウンダリ

 重要なポイントはPS5のリリース時期で、それがプロセス技術やアーキテクチャを大きく左右する。現在、PS5の発売は、2020年と見られているが、2019年にリリースする可能性もないわけではない。2019年の場合は、もうチップ設計に入らなければならないので、タイミング的にぎりぎりだが、不可能ではない。ちなみに、チップ開発スタートからゲーム機投入までの期間は、Microsoftが短く、SIEはより長期間だ。SIEの通常のパターンから考えれば、2020年の方が可能性が高いが、アーキテクチャの継承によって諸々の期間が短縮されるなら2019年もありうる。

 ここで重要なポイントは、CPUコアアーキテクチャとファウンダリとプロセス技術をどうるすのか、という点だ。この3つは密接に絡んでおり、現状では切り離すことができない。なぜなら、AMDのCPU IPの一部が、ファウンダリに密着しているからだ。

 AMDは、主にGLOBALFOUNDRIESとTSMCの2つのファウンダリに製造を委託してきた。しかし、AMDの高性能CPUコアは、GLOBALFOUNDRIESでの製造に最適化されているため、TSMCに簡単に移すことができない。EDAツールで合成できるフルシンセサイザブル(論理合成可能)コアではないため、移植には多大なエンジニアリング労力がかかるからだ。

 SIEは、PS4系列にAMDのスモール省電力CPUコアであるJaguarアーキテクチャを選んだ。しかし、これは当初の計画とは異なるもので、最初の計画ではBulldozer(ブルドーザ)系の「Steamroller(スチームローラ)」コアになる予定だった。そして、Bulldozer系コアのPS4のAPUは、TSMCの28nmではなく、GLOBALFOUNDRIESの28nmで製造される予定だった。

 ところが、土壇場になってGLOBALFOUNDRIESの28nmの立ち上がりが怪しくなり、SIEとAMDは急遽計画の変更を迫られた。その結果、TSMCへとファウンダリを移すことになり、時間とエンジニアリングの制約から、CPUコアも、シンセサイザブルですでにTSMCプロセスに乗っているJaguarコアへと変更になった。CPUコアが変わることで減る性能を、CPUコア数を倍増させることで補ったのが初代PS4のアーキテクチャだった。

 PS4 ProもファウンダリはTSMCのままで、16FF+プロセスだ。もっとも、Jaguar系CPUコア+GPUコアの組み合わせは、ファウンダリ間での移植が容易となるため、ほかのファウンダリも何度も検討していると言われる。

■PS4も最初はGLOBALFOUNDRIESで製造の予定だった

 こうしたPS4製造時の経験があるため、SIEではGLOBALFOUNDRIESへの製造委託に慎重だと言われている。しかし、PS5をTSMCで製造しようとすると、ふたたびCPUコアの選択でひっかかってしまう。AMDの最新のZEN CPUコアはGLOBALFOUNDRIESの14LPPプロセスに合わせて物理設計されている。ZENをTSMCプロセスに移植するには、コストと労力が必要となる。

 では、AMDの省電力CPUコアはどうなか。AMD自身のロードマップには、16/14nmプロセス以降の省電力CPUコアの製品がない。しかし、16nmのPS4 ProにはJaguarコアの後継の「Tiger(タイガー)」CPUコアが搭載されている。

 Tigerは、猫科動物のコードネームで類推できるようにPS4に搭載されているJaguar CPUコアの後継だ。Jaguarに対して、マイクロアーキテクチャが改良され、FinFETプロセスに最適化されたコアとなっている。Jaguar系コアのメインの開発チームはすでにAMDを離れてSamsungに移籍してしまっている。しかし、AMDはJaguar系をカスタム製品向けに改良を続けるだけのエンジニアリングリソースは残している。

 SIEがそもそもPS4にx86 CPUを選択した最初の動機は、シングルスレッド性能の高いCPUコアが汎用性が高く好ましいという理由だった。ところが、計画途中で、ファウンダリの制約から、x86系でもシングルスレッド性能が制約される低電力コアへと変更となった。SIEとしては、本来的にはx86の高性能CPUが望ましいと考えていると見られる。

 こうした経緯があったため、PS5でも、SIEがパワフルなZENが欲しいと考える可能性は高い。しかし、その場合は製造ファウンダリがGLOBALFOUNDRIES(またはGLOBALFOUNDRIESと14nmでは互換性があるSamsung)に限定される可能性がある。

■PS5のプロセス技術に大きく影響するCPUコアとファウンダリの選択

 TSMCかGLOBALFOUNDRIESかという選択は、プロセス技術にも深く影響する。両社のプロセスロードマップが大きく異なるからだ。TSMCの場合は、16nm→10nm→非EUV版7nm→EUV版7nmとプロセスが移行する。それに対して、GLOBALFOUNDRIESは14nm→非EUV版7nm→EUV版7nmで、10nmプロセスがスキップされる。

 もう少し詳しく見ると、TSMCは10nmを昨年立ち上げ、今年(2017年)本格量産する。非EUV版7nmは今年立ち上げ来年(2018年)から本格量産だ。TSMCは非EUV版7nmのスペックを緩めることで、立ち上げを急いでいる。一方、EUV版7nmはEUV装置待ちなので、立ち上げが来年で本格量産が2019年となっている。

 GLOBALFOUNDRIESも似たようなスケジュールだが、最大の違いは10nmプロセスは寿命が短いと見て、スキップすることだ。その代わり、GLOBALFOUNDRIESは14nmプロセスを今後2世代進化させる。また、GLOBALFOUNDRIESはIBMの半導体部門を買収しており、IBMの技術蓄積を応用することで7nmでは先陣を切ろうとしている。GLOBALFOUNDRIESも7nmは非EUV版とEUV版の2段構えだが、EUV版の予定は早く、非EUV版との互換性を謳っている。

 こうした状況にあるため、CPUコアの選択はファウンダリの選択につながり、ファウンダリの選択は利用できるプロセス技術の選択につながる。ゲーム機は、発売よりもかなり前にチップが完成して、開発キットをゲーム開発者に配布できるようにする必要がある。そこがPCと異なる点で、できればゲーム機発売の3~4四半期前にチップを一定量生産できるところまで持って行きたい。もちろん、開発機としてAMDベースPCを配布して凌ぐ手もあり(Xbox 360がそうで、Macを開発キットとして配布していた)、そこまでするなら期間はもう少し短縮できる。

■PS5ローンチが2020年なら7nmプロセスの可能性も

 SIEがPS5を2019年に投入するとしたら、チップは来年中には完成させたい。その場合プロセスの選択肢は、かなり悩むところだろう。PS5の製造がTSMCなら、10nmで立ち上げるという手がある。時期的にも10nmプロセスのラーニングカーブが上がり、ゲーム機に要求される高い歩留まりにも応えられはじめる頃だ。

 現在のPS4/PS4 Proの16nmプロセスと比べると、10nmプロセスでは、ダイに詰め込むことができるトランジスタ数が増える。そのぶんだけ、SIEはアーキテクチャを拡張できる。並列性が効きやすいGPUコアを大きく拡張してグラフィックスの演算性能を大幅に増大できるため、10nmには大きな利点がある。逆に低電力系CPUコアは、10nmでは小さくなりすぎる。小さくなったからと言って、12個のCPUコアを積んでも効果が薄いため、CPU面では利益が小さくなる。

 PS5が2020年なら、7nmプロセスが視野に入る。しかし、非EUV版7nmはマスク数が大きく増えるため、製造コストが上がり、ゲーム機にはかなり厳しい。現在、シャトル(ファウンダリの製造委託サービス)が走っている最初の非EUV版7nmのコストは、プロセス済みウェハで1万ドルという。これは、28nmウェハの約3倍のコストだ。将来コストが下がったとしても、経済性が重要なゲーム機では使いにくい。一方、EUV版7nmは、マスク数が減りコストが下がるが、最初の製造装置の導入コストが高いため、コストが下がるにはしばらく時間がかかる。PS5のローンチに使えるかどうかは微妙だが、可能性はある。

 もう1つの選択肢は、16nmの後継の12nmプロセスを使うことで、この場合は歩留まりは良好だが10nmのような集積度は得られない。そのため、特にGPUのアーキテクチャ拡張が制限される。2019年なら12nmもありえるが、2020年ならなさそうだ。

 一方、PS5の製造がGLOBALFOUNDRIESの場合は、10nmがスキップされるため、2019年なら14nmプロセス世代となる。7nmは、ゲーム機のコストを考えると、当初は難しいだろう。とはいえ、改良版14nmが使えるため、性能と省電力の面では、現在のGLOBALFOUNDRIESの14LPPよりかなり改善されると見られる。トランジスタ性能だけで見るなら、最初の10nmとそれほどは変わらないだろう。しかし、ロジックの詰め込み度は10nmと比べて下がるため、アーキテクチャ拡張の幅はどうしても縮小される。

 だが、PS5が2020年なら、EUV版7nmに力を入れているGLOBALFOUNDRIESの7nmが間に合う可能性がある。あるいは、GLOBALFOUNDRIESの液浸版7nmで立ち上げて、EUV版7nmへと比較的短期間で移行するという手もある。7nmに行くなら、GPUアーキテクチャはNaviとなり、大幅に拡張可能となる。そして、7nmでのZENコアは、28nmでのJaguarコアよりも小さくなるだろう。言い換えれば、7nmプロセスを見るなら、ZEN系CPUコアが最適な解となる。

■ライフサイクル中に5nmへの移行も予想されるPS5

 こうして概観すると、SIEの選択肢としては次の2つが推測できる。まず、ローンチが2019年の場合は、ZEN系CPUコアの場合はGLOBALFOUNDRIESで14nm世代でGPUの性能向上はそこそこ。Tiger系CPUコアの場合はTSMCで12nmまたは10nmで、10nmの場合はGPUがかなり性能が向上する。

 2020年ローンチの場合はZEN系CPUコアでGLOBALFOUNDRIESの7nmの可能性があり、その場合はGPU性能も大幅にアップされる。2020年でTiger系コアの場合は、TSMCで10nmか7nmで、GPUアーキテクチャが拡張される。2020年の方が可能性が高いと考えるなら、後者のどちらかになりそうだ。

 ちなみに、Samsungをファウンダリに使った場合は、Tigerコアで10nmかその発展形の8nmプロセスとなるだろう。究極の選択として、IntelファブでAMD系APUを製造という手もあり、その場合は10nmとなるが、よほどのことがない限りそれは起こらないだろう。Intelの10nmは、スペック的には他社の10nmを大きく上回る。

 どの選択の場合も、PS5は1~2年ほどでEUV版7nmプロセスに置き換えることが可能になる。同じ7nmノード世代でも、非EUVの液浸露光版7nmと、EUV版7nmプロセスでは大きく異なる。よりフィーチャサイズが小さく微細になるため、チップに搭載できるトランジスタ数が増える。マスク数が減るため、中長期的には製造コストが下がる。配線でのばらつきが減るため、性能も向上する。

 そして、その先には、5nmプロセスが待っている。5nmは革新となる。5nm世代のトランジスタの議論が続いており、FinFET、シリコンナノワイヤか、シリコンナノシートの3種類のトランジスタ候補が提示されている。5nmでは、配線も根本から材料を変えなければならず、これも開発途上にある。5nmでは、トランジスタと配線の両方が大きく変わる可能性があるため、性能や電力が大きく変わる可能性がある。PS5は、この5nmプロセス世代までを睨むことになる。つまり、SIEは、PS5を世代途中で、再び大きくアーキテクチャ拡張することが可能だ。

PC Watch,後藤 弘茂 (Hiroshige Goto)

最終更新:6/21(水) 13:07
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