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「民意の風」吹かすのは壁の提示能力 橋下徹さん

6/20(火) 5:01配信

朝日新聞デジタル

 首都の選挙は、その時々の政治状況によって、勢力が大きく変わってきた。23日に告示される東京都議選は、小池百合子都知事が率いる新党「都民ファーストの会」が注目されている。ときに、政治を左右する民意の風。なぜ、選挙で風が吹くのか。その正体とはなにか。前大阪市長の橋下徹さんに聞いた。

 「風」を頼りに一定の政治勢力を築いたという自負のある僕だから言い切れますけど、報道の自由が確立している社会にあっては、有権者の風を的確に捉えることなどできません。追い風と思えば、一瞬にして逆風になる。わからないから風。「風の正体」をもっともらしく分析しても無駄ですよ(笑)。

 ただ、こんなに難しい民意の風でも、実体験上その姿についておぼろげながら感じたところがあります。

 まずは、相手や現状に対して有権者が不満を増幅させているときに、自分の方に支持が来る。自分がプラス点を稼ぐというよりも、相手や現状のマイナス点で自分がプラスになるイメージ。政権交代は野党が積極的に評価されるというよりも、与党が不評を買ったときに起きる。低気圧の存在が必要なんですね。そのチャンスを捉えるしかない。時の運です。今、フランス大統領マクロン氏率いる新党「共和国前進」が大躍進していますが、これも既存の二大政党に対して有権者が大失望しているという時の運を見事にものにした。

 その上で重要なのは、多くの有権者が「変えたい」と思う「社会の壁」を提示し、その壁を乗り越えようと挑むことです。口先だけではだめ。死にもの狂いで行動する。

 壁の背後には自分たちの利益を守るために壁を支えている人たちがいる。彼らの守るべき利益が大きいほど壁は巨大で分厚くなる。政治の力でその壁に挑めば、壁を支えている人たちは必然的に敵となります。敵を設定して打ち負かすことを「ポピュリズム」と批判する人がいるけれど、それは政治の否定ですよ。政治の本質は壁を乗り越える、すなわち敵との対立です。

 政治家に求められる一番の能力は、有権者が「そうそう、それを変えてほしいんだよ」と共感してくれる社会の壁を提示できるかどうか。教科書もノウハウもありません。はっきり言って勘です。あらゆる人生経験や勉強、様々な人との議論や報道などを通じた情報収集を基に、自分の感覚で提示していくしかない。この壁の提示能力の優劣が、風を吹かせることができる、できない、につながっているのは間違いない。

 そして大事なことは、壁を乗り越えようと挑む「姿勢」です。民主党政権には、それが見えなかったから風が離れたのだと思います。鳩山由紀夫さんは沖縄の普天間基地移設問題で「最低でも県外」と言いました。実現が現実には難しくても、外務省・防衛省の幹部を総入れ替えにしたり、両省の予算を止めたり、アメリカ側と大喧嘩(けんか)したりして、大批判を受けてでも満身創痍(まんしんそうい)で挑む姿勢が必要だった。死にもの狂いで挑めば、たとえそれが実現できなくても風はそんなに離れません。

 一方で、いまの安倍政権は「挑んでいる」と思います。朝日新聞は「なぜ支持率が崩れないのか」という記事を載せていましたけど、特定秘密保護法にしても、平和安全法制にしても、テロ等準備罪にしても、反発が出るのは、挑んでいるから。憲法改正の話も賛否はあるけど、挑んでいるんですよ。賛成反対があっても、国民全体からすれば許容範囲内ということだと思います。許容範囲を超えてしまえば、それこそ支持率が0近くになり大逆風が吹いて、メディアの総攻撃によって舛添要一・前東京都知事のように引きずり降ろされますよ。今は野党が弱すぎるという要素は大きいけど、働き方改革や教育の無償化、さらには北方領土問題や中韓外交問題、欧米との積極外交などいろんな壁を提示しながらそれに挑んでいる。この「挑んでいる」という姿勢が、大きな支持を失わない最大の要因だと思います。

 民主主義のルールの中で壁を乗り越えようとすれば、壁を支える人たちの代表である議員を乗り越えないといけない。もちろんとことんまで話し合いをやりますが、どうしても話し合いで解決できなければ政治決戦しかない。

 僕が8年間の政治家活動の中で有権者に提示し続けた、大阪府庁と大阪市役所という二元行政の壁。この壁はとてつもなく巨大で分厚かった。そしてこれを乗り越えるための、大阪市役所をなくして東京23区のような特別区をつくる大阪都構想(2015年の住民投票で否決)は、大阪市議会議員の身分がなくなるわけだから、身分を守りたい人たちと話し合いで解決しようとしても無理なんです。双方妥協の余地がありません。ここを突破しようと思ったら、反対する議員を替えるしかない。まさに政治決戦です。

 首長が政党をつくることについて、僕が大阪府知事時代に大阪維新の会を立ち上げたときは「二元代表制の軽視」と批判の嵐でした。首長に対する議会のチェック機能が果たせなくなると。では、オール与党型の自治体で二元代表制は機能していますか。していないですよ。結局は運用の仕方です。ポイントは、何のために政党を作るのか目的を明確にすること、すなわち政党を作ることは手段であることを明確にすることです。政党を作って乗り越えようとする壁を具体的に明確に提示する。そうすれば首長が自らの権力維持のためだけに、政党の代表として議員を押さえ込むことは避けられるでしょう。

 小池さんは、昨年7月の知事選とその後しばらくは強烈な追い風が吹いた。舛添さんに対する有権者の不満がたまっていたところへ、自民党の壁、都議会の壁、豊洲市場の壁、東京五輪の壁を提示して挑んだからです。しかし、いまはどうか。都議会自民党は小池さんの予算に反対しなかった。豊洲市場も東京五輪も現段階では議員を入れ替えなければ挑めない壁ではない。結局、都民ファーストの会をつくって何の壁に挑もうとしているのかがよく分からなくなっている。

 この辺りが小池さんへの風が加速せず、むしろ弱まっている一因でしょう。それでもまだ風が完全に離れていないのは、小池さんへの積極支持というよりも都議会への有権者の根強い不満が鬱積(うっせき)しているから。小池さんが何をしようとしているのか分からないけど、とにかくこれまでの都議会は嫌だというシンプルな有権者の意識です。

 民意をバカにすれば必ずしっぺ返しを食らう。最近のポピュリズム批判は、為政者が民意を操れることを前提にしている点で有権者への最大の侮辱ですね。米国でトランプ大統領が誕生したとき、「メディアの敗北」と言われましたけど、裏を返せばメディアが有権者の共感を得られていなかったということ。ポピュリズムと批判することは簡単ですが、メディアが「俺たちはだまされないけど、有権者はだまされている」と思っているのなら、そこに有権者との溝ができてしまっている。賢(かしこ)ぶるメディアは共感を得られませんよ。

 ただ、最近の加計学園問題のメディアの追及はあっぱれだ。がっちりと民意の共感を得ている。正確に言えば、有権者をバカにしたような政府の説明や対応の仕方によって有権者の不満が鬱積している、つまり政府が弱っているだけなんだろうけど。そこでメディアには追い風、政府には大逆風が吹いて、政府は方針を変えて再調査せざるを得なくなった。まさに有権者をバカにしたがゆえのしっぺ返しです。これは森友学園問題にも波及するでしょう。このように民意の風は権力に対する最大の歯止めでもあります。だからこそ、民意の風が為政者ごときに簡単に操られるものであってはならないんです。そのためには報道の自由こそが砦(とりで)です。

 いくら小難しく風の正体を分析しても、そんなものは正確に分かるはずがないし、特に、風を吹かせたことがない人が語れるものでもない。運の要素が強いし、意外に単純なものだったりする。でも、風の正体が分からないからこそ民主主義っていうものが機能するんじゃないですか。メディアを支配しながら風を完璧に読める人がいたら、それこそ本物の独裁者が誕生しちゃいますよ。(聞き手・工藤隆治、小池淳)


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 1969年生まれ。弁護士。2008年に大阪府知事、10年に大阪維新の会代表、11年に大阪市長。大阪都構想が住民投票で否決、15年に市長を退いた。

朝日新聞社