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キユーピーがAI導入、1日100万個以上のポテトをさばく「ディープラーニング」の威力

6/20(火) 8:45配信

ITmedia エンタープライズ

 1日100万個以上流れるダイス型のポテトを1つ1つ、人の目で見分け、異物混入や不良品がないか確認していた――にわかに信じ難い話かもしれないが、これは実際に、大手食品メーカー、キユーピーの工場で行われている原料検査の作業だ。

【黒く変色したジャガイモを目視で見付ける】

 「画像処理技術などを使った機械化を長年検討してきましたが、精度やコストの面で現実的ではありませんでした」

 こう話すのは、キユーピーの生産本部で次世代技術担当次長を務める荻野武さんだ。ベビーフードの品質と“安心”を支えるために行われている業務ではあるが、スタッフの人海戦術では限界が来ており、増産のボトルネックになっていたという。そんな状況が今、「ディープラーニング(深層学習)」で大きく変わろうとしている。

●膨大な原料検査にブレイクスルーを起こす「ディープラーニング」

 キユーピーは原料検査の基準を厳しく設定している。特にダイスポテト(さいの目状にカットされたジャガイモ)の場合、単なる変色など、食べても問題ないようなものでも、取り除くようにしている。そのため、スタッフには技術と高い集中力が必要になるのだという。

 「害はなくとも、やや黒ずんだジャガイモが混じっていたらお母さんは心配に思いますよね。それは“安全”かもしれませんが、“安心”な商品とはいえません」(荻野さん)

 しかし、当時採用していた画像認識システムでは、精度やコスト面で折り合いがつかない。そこで荻野さんが目を付けたのが人工知能(AI)だった。自律的に精度を高めることで問題を解決できるのではないか、と考えたためだ。

 2016年夏ごろに検討を始め、数十社のAI技術を検討した結果、Googleが開発したオープンソース型のディープラーニングプラットフォーム「TensorFlow」を採用した。「処理性能や汎用性が高く、数々の実績もあった」(荻野さん)ためだ。ブレインパッドとも協力し、2016年11月ごろにPoC(Proof of Concept=概念検証)を開始した。

 これまで、マシンビジョンではうまくいかなかった不良品の検知だが、ディープラーニングで結果を出せたのは、検知の基準を“逆転”させたためだという。

●「良品を検知する」スタイルで、早さと正確さを両立

 これまでの検知では、不良品を判断することを目指していたが、不良品というのは変色だけではなく、大きさや形など、さまざまな要因がある。それぞれの要素を判定しようとすれば、学習に膨大なサンプルが必要になってしまい、時間もコストも増えてしまう。

 そこで、良品のダイスポテトのみを学習させることで、良品“ではないもの”を検知してはじく、という検知方法に切り替えた。AIによってはじかれた少量の不良品を、最終的に人の目で確認するのだ。これにより、精度の向上と学習時間の短縮を実現したという。実際には、NVIDIAのGPU「GeForce GTX 1080」を搭載したLinuxベースのノートPCで、約1万8000枚に及ぶダイスポテトの写真を約10時間かけて学習させたそうだ。

 検知の方針が固まったことで、システムの構想も2016年末には決まったという。その後2カ月でプロトタイプが完成。2017年4月に実際の工場に持ち込んで実証実験を実施したところ、生産性が2倍に高まった。この結果を受け、「アルゴリズムや装置を改善して、8月には実ラインで本格稼働させる予定」(荻野さん)という。

 「私たちの人工知能はまだできたばかり、人間でいえば2歳くらいの赤ちゃんだと思っています。しかし一方で人工知能には大きな可能性があります。その可能性を引きだすのは、使う側の人間、つまりは現場の人間でしょう」(荻野さん)

●AI×現場力で最高の顧客価値を

 このシステムはREST APIで構築しており、Googleのクラウドサービス「Google Cloud Platform(GCP)」の活用も視野に入れている。数千種類にものぼる原料に展開することを考えると、オンプレミスでの画像学習では限界があるためだ。また、今後は自社だけではなく「1500社以上ある原料のサプライヤーに同じシステムを展開したい」(荻野さん)という。

 キユーピーのAI活用は原料検知だけにとどまらない。生産や製品の配送に関わる需給予測や設備予兆診断など、幅広い分野への活用を目指している。荻野さんはAIによって、現場、そしてキユーピーの企業価値が高まると強調する。

 「はっきり言ってしまえば、キユーピーでは常に人が足りていません。AIを活用することで、現場の力を高め、質の高い仕事ができるようになります。その結果、顧客に提供できる価値が高まっていく。AIをうまく使うためには、はっきりとした目的、いわば“志”のようなものが必要なのだと思います」