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<サキタハヂメさん>笑えるのに泣ける のこぎり楽器の魅力

6/20(火) 17:31配信

毎日新聞

 「ヒュウーン」--。「のこぎり楽器」と言われて、知っている人はほとんどいないだろう。だが、上方漫才の「横山ホットブラザーズ」が、大阪市の無形文化財に指定されたギャグ「お~ま~え~は~ア~ホ~か~」で使っていた“のこぎり”がのこぎり楽器といえば、多くの人が「あれか」と思い出すだろう。東京の落語家、都家歌六さん(86)が演奏するなど、日本では主に寄席芸の中で生き残ってきた。その不思議な音色はプロのミュージシャンにも愛され、最近は活躍の場を広げている。25日に最終回を迎える日本テレビ系のドラマ「フランケンシュタインの恋」の劇中音楽もその一つ。他の楽器に交じってその音色を聞くことができる。のこぎり楽器の奏者で、「フランケン……」の劇中音楽を担当したサキタハヂメさん(45)に、その魅力を聞いた。【佐々本浩材】



 時にユーモラス、時に神聖で哀愁を帯びる、のこぎりの音色をサキタさんが初めて聞いたのは1991年、20歳の頃。イベント会場で歌六さんが「ラ・クンパルシータ」を演奏するのをたまたま耳にした。子どもの頃から横山ホットブラザーズが音楽漫才で使っているのを見ていたため、のこぎり楽器は人を笑わせる楽器だとばかり思っていたという。「聞いた途端、涙が浮かんできた。笑えるのに泣ける。ショックでした」



 たちまちのこぎり楽器のとりことなり、97年と2004年にアメリカで開催された「のこぎり音楽世界大会」で優勝した。夢中になったわけを「泣きと笑いを行ったり来たりする感覚がよかった。昔から、吉本新喜劇より、藤山寛美さんの松竹新喜劇やチャプリンが好きなんです」と笑う。



 演奏用ののこぎりは「ミュージカル・ソー」と呼ばれ、楽器店で買える。長さ約1メートルの西洋のこぎりで、柄の部分を両足の太ももではさみ、金属部分をバイオリンの弓で弾いたり、バチでたたいたりして音を出す。歌六さんはのこぎり楽器を「勘楽器」と呼ぶ。ピアノやギターのように指で押さえれば決まった音が出るわけではなく、曲げ方、弾く場所で音が変化するため、正確な演奏には長年の勘が必要だからだ。



 その高音は「シンセサイザーでも、生楽器でも、人の声でもない。全ての中間にある微妙な音色」。以前、サキタさんは兵庫県の伊丹市昆虫館の企画でスズムシ400匹の前で演奏したことがある。驚いたことに、のこぎり楽器の音色に合わせて、スズムシは一斉に鳴き始めた。山に向かって演奏した時は、サルが山から下りてきたこともあるという。もちろん偶然かもしれない。それでも「自分の音色を自然と共鳴させる、そんな届け方ができる不思議な楽器」と感じている。



 最近は映画やドラマの劇中音楽の作曲を依頼されることが増えた。17日に始まったドラマ「宮沢賢治の食卓」(WOWOWプライム、土曜午後10時)のほか、今年公開の映画も手がける予定だ。のこぎり楽器を前面に出した劇中音楽を作っていたこともあるが、最近は目立たないが、その音色を巧みに生かした曲作りが増えた。



 ドラマ「フランケンシュタインの恋」もその一つ。120年間、森で孤独に生きる怪物の思いを、他の楽器に交じってのこぎりの音色が表現している。「120年間、森の中にいた怪物が人間界を見てワクワクする曲とか、興奮したらキノコが生える音とか。そんなお題を頂かなかったら考えもしなかった。びっくりするようなお題でも、曲が浮かぶようになったのは成長したということかな(笑い)。役者が役に入るように、作品ごとに、その世界観の中にどっぷり入っています」

 「のこぎりというすごく身近な道具が天使のような音を出せ、泣いてもらえるような曲を奏でることができる。こんな楽器でも輝けるんです」

最終更新:6/20(火) 21:03
毎日新聞