ここから本文です

新MIPSコア、Mobileyeの「EyeQ5」に搭載へ

6/20(火) 20:40配信

EE Times Japan

■新しいMIPSコアを発表

 Imagination Technologies Group(以下、Imagination)は2017年6月13日(英国時間)、高性能のマルチスレッドCPU IP(Intellectual Property)「MIPS I6500-F」を発表した。機能安全を必要とする車載および産業用途向けアプリケーションに不可欠な、MIPSコアを開発する同社の取り組みにおいて、重要な鍵となる製品だといえる。

【「MIPS I6500-F」の概念図などその他の画像はこちら】

 ImaginationのMIPS事業部門でビジネス開発担当シニアマネジャーを務めるTim Mace氏は、EE Timesのインタビューに応じ、「MIPS I6500-Fは、演算能力および性能の大幅な向上を実現する。ARMなどの競合企業のCPUプロセッシングコアの出荷数は増加しているが、そのほとんどが組み込みシステムでの利用のみに限られている。しかしMIPS I6500-Fは、こうしたコアとは一線を画す」と説明する。

 Imaginationは最近、GPUコアをめぐりAppleと裁判外紛争解決手続を行い、生き残りをかけた戦いを繰り広げる中で、MIPS事業を売却する決断をしていた。それでもImaginationは、MIPS事業の目標実現に向けた取り組みを失速させなかったのだ。MIPS I6500-Fの使命は、同社のMIPS製品ポートフォリオに新しい風を吹き込むことにある。

 I6500-Fの開発チームは、「機能安全を必要とする強力な計算集約型システムに不可欠な、新しい世代のSoC(System on Chip)を実現する」という目標に向かって開発を進めてきた。

 MIPS I6500-Fは、Mobileye(Intelによる買収が間もなく完了予定)が2018年にサンプル出荷の開始を予定しているSoC「EyeQ5」の中核を担うことが分かっている。EyeQ5は、処理能力が12T(テラ)FLOPS、消費電力が5W未満であることから、BMW、Intel、Mobileyeが共同で開発中の自動運転車向けプラットフォームを駆動する、主要なSoCの1になるとみられている。

■ヘテロジニアスなアーキテクチャをサポート可能

 MIPS I6500-Fは、現在広く普及しているMIPS I6500 CPUをベースとしている。MIPS I6500 CPUは、マルチスレッド処理やマルチコア、マルチクラスタ処理によって、組み込みからクラウドまで拡張可能な、64ビットCPUである。

 Mace氏は、「MIPS I6500-Fは、マルチスレッド処理が可能なマルチコアMIPS CPUのヘテロジニアスなクラスタを最大64個まで拡張可能な性能を備えることから、ヘテロジニアスコンピューティングアーキテクチャにおいて動作するCPU向けとして理想的だ」と説明する。

 例えば自動運転車は、AI(人工知能)を活用するために、高性能CPUと独自開発のハードウェアアクセラレーションユニット(GPUやFPGA、専用ハードウェアなど)の両方を搭載するシステムを実装することになるとみられている。MIPS I6500-Fは、このようなヘテロジニアスコンピューティングを使用するための機能を備えている。

 米国の市場調査会社であるABI Researchでマネージングディレクター兼バイスプレジデントを務めるDominique Bonte氏は、「Imaginationが強調しているように、マルチスレッディングと仮想メモリの共有は、CPUとAIハードウェアアクセラレーターの間に位置するヘテロジニアスアーキテクチャでの通信をサポートする上で、重要な鍵となる」と指摘する。

 またMace氏は、I6400およびI6500のL2キャッシュとコヒーレンシマネジャーの長所について、「IOCU(I/O Coherence Unit)は、低遅延とアクセラレーター専用の接続を実現し、共有仮想メモリ(SVM:Shared Virtual Memory)は、アクセラレーターとCPUを、より高速、高効率で接続できる」と説明している。

■Mobileyeとの協業

 Imaginationによれば、I6500-Fは、ASIL B(D)の要件を満たすという。“ASIL B(D)”とは、どういう意味なのか。Mace氏は、「I6500-FのIPがSoCに搭載され、製品として顧客に提供されるようになるころまでには、ASIL Dに準拠できるようになっているだろうと予測しているからだ」と説明する。

 MIPSチームの機能安全に関する取り組みは、他社との連携なしに進められてきたわけではない。ImaginationとMobileyeは、Mobileyeが最初にADAS(先進運転支援システム)向けSoC「EyeQ4」を開発した当初から、安全性に関する協業関係を構築してきた。EyeQ4は、プロセッサコア「MIPS interAptiv」と、ソフトウェアのセルフコアテスト機能を備えたCPU「M5150」を搭載し、ASIL Bに準拠している。

 MobileyeのビジョンSoCはこれまで、専用アーキテクチャを使用しているために閉鎖的過ぎるという点で、競合メーカーや顧客企業から批判を受けてきた。

 しかし興味深いことに、ImaginationはMIPS I6500-Fを発表する際、「MIPS I6500-FをベースとしたMobileyeの次世代SoC EyeQ5は、オープンソフトウェアプラットフォームとなる予定である。そのため、顧客企業は独自のアルゴリズムを採用することが可能だ。ハードウェア仮想化などのMIPSアーキテクチャ要素によってサポート可能な性能を実現できる」と主張している。

 Mobileyeでエンジニアリング担当シニアバイスプレジデントを務めるElchanan Rushinek氏は、MIPS I6500-Fが発表された際に、報道向け発表資料の中で、「MIPS I6500-FがASIL B(D)に準拠しているという点は、EyeQ5の高い安全性を確保する上で、重要な鍵となる。I6500-Fは、CPUとビジョンアクセラレーターとの間で完全なキャッシュコヒーレンシを確保することにより、ヘテロジーニアスコンピューティングに向けた理想的なプラットフォームを実現できる。それだけでなく、スレッド間通信などの独自機能によって、リアルタイム性能も高められる。MIPSのマルチスレッドCPUは、EyeQの性能や効率、安全性の大幅な向上を実現していく上で、重要な役割を担っている」と述べている。

■ルネサスとTIがライセンシーになる可能性も?

 もしMIPS I6500-Fが、Mobileyeが近々発表を予定しているEyeQ5の成功実現への鍵を握っていると実証された場合、自動車市場の中ではどの企業が、このMIPSの時流に乗ろうとするだろうか。

 Bonte氏は、「ルネサス エレクトロニクスとTexas Instruments(TI)が、ライセンシー(ライセンス使用者)に加わるのではないだろうか」と推測する。

 一方のMcGregor氏は、懐疑的な見方をしているようだ。「自動車市場は非常に競争の激しい市場であるため、ほとんどの半導体メーカーが、NVIDIAの『Drive PX2』やNXP Semiconductorsの『Bluebox』のようなプラットフォームへと移行している状況にある」(同氏)

 McGregor氏は、「プロセッサだけがシステムを作るのではない。アクセラレーターやAIフレームワーク、開発ツールの重要性が高まる中、MobileyeとIntelは既に、これらの大半を手に入れているが、他の企業にとっては、こうしたリソースなしにI6500-Fを活用することは、非常に難しいかもしれない」と説明する。

 また同氏は、「I6500-Fや他のプロセッサアーキテクチャを採用する可能性が高いのは、OEMの他、プラットフォームレベルで半導体メーカーと競合関係にある車載システムメーカーなどではないだろうか」と付け加えた。

最終更新:6/20(火) 20:40
EE Times Japan