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コンプレックスを芸術の肥やしにした偉大なる女性アーティストとは?

6/20(火) 7:10配信

dmenu映画

現在公開中の『ザ・ダンサー』(公開中)のヒロインで、アメリカ人女性ダンサーのロイ・フラーと、『静かなる情熱 エミリ・ディキンスン』(7月29日公開)のヒロインである19世紀の天才女性詩人、エミリ・ディキンスン。二人はダンスの世界と詩の世界において、後輩の創作者たちに数々のインスピレーションを与えてくれたクリエイターだ。この二人には実は共通点がある。それは二人とも、自分の容姿に激しいコンプレックスを抱いており、そこから逃れるように、究極の美への創作へと探求が向かったという点だ。

【画像】『ザ・ダンサー』出演のソーコ、リリー=ローズ・デップ

『ザ・ダンサー』ロイ・フラー 強いコンプレックスが生んだプロデューサー的資質

『ザ・ダンサー』の主人公、ロイ・フラーの本名はマリー・ルイーズ・フラー。映画の前半は、放蕩者の父と過ごしたシカゴの農村での暮らしぶりや、父亡きあと、厳格な福音主義の教会で暮らす母との窮屈な生活が描かれる。マリーが憧れるのは女優で、戯曲「サロメ」を演じることを夢見ている。しかし、彼女は自身の外見に強いコンプレックスがあり、舞台の上では自由にふるまうことができない。外見コンプレックスの象徴的な場面として、監督のステファニー・ディ・ジューストは、マリーの初体験を、舞台衣装である鎧を着たまま男性に身を任すというふうに演出してみせた。

マリーはある舞台で、着用していた大きめのスカートのすそをもって、ひらめかしたところ、布が織りなす流線型の動きが観客を魅了することに気づく。さらに当時、発明されたばかりの電気で照らすことで、劇的な効果を生むことも発見した。モダンダンサー、ロイ・フラーの誕生である。

その後、彼女はアメリカからフランスに渡り、当時のパリのエンタテインメントの中心地ミュージックホール〈フォリー・ベルジェール〉の舞台でパフォーマンスを披露し、ロートレックをはじめとする画家たちにインスピレーションを与え、数々のポスターに描かれた。シルクのドレスにはさらなる改良が加わり、彼女自身が特許をとったカラーフィルターの照明で照らされた。音楽に合わせて様々な色をドレスに投射し、まとった布のフォルムが蘭の花や蛇、蝶とシームレスに形を変えていくパフォーマンスは一大ブームを引き起こす。現在は当たり前となっている芝居やライブのカラーフィルター照明は、彼女こそがその先駆者だったのだ。同世代に活躍した詩人で小説家のジャン・コクトーは、ロイ・フラーが1900年のパリ万博で見せたパフォーマンスについて、わざわざ容姿の醜さを指摘したうえで、それでも彼女が生み出すパフォーマンスの美しさを絶賛している。自分の顔に注目が行かないように探求した結果、それはダンサーの枠を越え、総合プロデューサー的役割へとつながっていったのだ。

そのロイ・フラーを演じるのは、フランスで人気を誇る20代のアーティスト、SOKO。彼女は、元カレの彼女に抱く邪悪な感情など、女の子の正直な心情をストレートに歌い上げる。そんなSOKOにステファニー監督は、厳しいトレーニングを課し、一切吹き替えなしでパフォーマンスを再現させた。衣装の重みと重力に逆らい、毎日泣きながらトライし続けたというSOKOのパフォーマンスは、本当に素晴らしい。

だが監督は、この映画をロイ・フラーのサクセスストーリーにとどめず、彼女の身を脅かす次世代アーティストを登場させる。同じくアメリカ出身の15歳年下のモダンダンサー、イサドラ・ダンカンだ。肉体の解放を謳い、魂の赴くまま、裸足や肌をむき出したまま踊ることで、時代の寵児となった女性だ。史実ではイサドラもまた、実家の凋落や時代の変化で苦労したことで知られているが、この映画では生まれながらに美貌と才能を持ち合わせた少女として描いている。イサドラ役を演じるのはジョニー・デップとヴァネッサ・パラディという国際的スターのもとに生まれ、10代でシャネルの広告塔に選ばれたリリー=ローズ・デップ。SOKOとリリーのパーソナリティを活かしながら、ロイ・フラーとイサドラ・ダンカンの違いを浮かび上がらせる。ステファニー監督はモダンダンスの祖として、多くの弟子を育て、今も花が絶えないイサドラの墓に対し、ロイの墓が荒んでいたことでこのコントラストを思いついたという。いずれにしてもこの2人の勇気あるダンサーによって、今、ダンスが身近な存在になっていることは間違いない。

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最終更新:6/20(火) 15:18
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