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米韓に北朝鮮との対話の動き 抑留米国人の解放もてこに

6/20(火) 15:00配信

ニュースソクラ

日韓、カヤの外? 焦る文政権、今月末に米韓首脳会談

 6月13日、北朝鮮が「反朝鮮敵対活動」があったとして拘束していた米国人男子大学生(22)が解放され、昏睡状態のまま帰国した。19日には米国の病院で亡くなり、米国では北朝鮮での待遇を批判する報道が相次いでいる。

 だが、北朝鮮が突然、この大学生を解放した意図については、「米国との対話の意思を見せたのではないか」「米国側も、北朝鮮との対話に乗り出すのではないか」とさまざまな見方が出ている。

 解放された大学生は、オットー・フレデリック・ワームビアさんだ。詳しい経緯は不明だが、1年以上前からボツリヌス菌感染症にかかり、その際に睡眠薬を服用し、昏睡状態に陥っているという。注射針などからの感染が原因ではないかと見られているうえ、症状から拷問を受けた疑いもでている。

 バージニア大学で経済学を専攻するワームビアさんは旅行好きで、2016年1月2日、北朝鮮を旅行中、「ホテル内のプロパガンダポスターを盗もうとした」(朝鮮中央テレビ)容疑で拘束された。北朝鮮最高裁判所は、国家転覆陰謀罪にあたるとして労働教化刑15年を命じていた。

 今回の釈放について、北朝鮮の朝鮮中央通信は15日、「米国公民を人道主義的な見地から送りかえした」と短く伝えた。送還の過程や交渉内容に対しては言及しなかった。

 今回の解放で、関係者を驚かせているのが、米国側の手際のいい動きだ。
 先月8~9日、ノルウェーのオスロで行われた半官半民の1・5トラック対話に、6カ国協議の首席代表であるジョセフ・ユン北朝鮮政策特別代表(国務東アジア太平洋副次官補)が秘密裡に参加し、解放交渉に当たった。

 この協議は日本側は「あくまで民間レベルの交渉」(日本の外務省幹部)としていたが、北朝鮮からも国連北朝鮮代表部で、米国との交渉を担当しているパク・ソンイル米国担当大使が合流していたという。

 北朝鮮側はこの席で、ワームビアさんが昏睡状態にあると説明。この報告を受けたトランプ大統領が、ユン氏と医療チームの訪朝を許可し、一行は12日に平壌を訪れていた。
 
 一連の動きは表に出されないまま進み、日本や韓国にも直前まで通知されていなかったようだ。ワームビアさんは、北海道の米軍基地を経由して、故郷のオハイオ州に戻り、治療を受けたが帰らぬ人となった。

 北朝鮮にはあと3人、米国人が抑留されており、米朝間では交渉が続いていると見られる。

 今回の解放が、米朝対話のきっかけになるかについては、専門家の間では、今のところ懐疑的な見方が多い。

 米国は対話の条件として「核、ミサイルの放棄」(ティラーソン国務長官)を求めているからだ。米国は、対北朝鮮制裁をいっそう強化する動きも見せている。

 一方で、焦りを見せているのが韓国だ。韓国の文在寅大統領は、南北対話を早期に実現して、北朝鮮の軟化を促そうとしている。15日には、2000年に結ばれた「6・15南北共同宣言」の17周年記念式に文氏が祝辞を寄せ、「北朝鮮の核・ミサイル実験の中断があれば、南北の対話は可能だ」とわざわざ明らかにしたのも、北朝鮮に対話姿勢をアピールする狙いだろう。

 文氏は、対話の内容についても柔軟な姿勢を見せている。非核化交渉にあわせ、朝鮮戦争の休戦協定を平和協定に切り替え、北朝鮮に体制を保証する問題も並行して話すことができるとしている。体制の保証は、北朝鮮が最も望んでいることだ。

 前任の朴槿恵前大統領は、「核放棄がなければ北朝鮮は生存できない」とかなり厳しい姿勢だっただけに、文氏はだいぶハードルを下げている。大統領就任一カ月が経ても、南北関係が改善しないばかりか、米国と北朝鮮の水面下の接触が明らかになり、焦りを募らせているからだろう。

 過去にも、韓国を抜いて米朝だけで核、ミサイル問題が一方的に話し合われた経緯がある。そういった事態はなんとか避け、北朝鮮との対話の主導権を握りたいのが韓国の本音だ。

 拉致問題を抱える日本政府も、米韓の動きが気が気ではない。すでに日本から北朝鮮への送金規制などできる限りの独自制裁を北朝鮮には科しており、対話のチャンネルもほとんどないのが実状だ。

 拉致被害者家族からは、金正恩とトップ会談をして問題解決を求めてほしい(横田めぐみさんの母、早紀江さん)と厳しい注文も出ており、政府の拉致対策本部は対応に頭を悩ませている。

 6月末には文大統領とトランプ大統領の米韓首脳会談が開かれる。ここで、両国首脳が北朝鮮との対話についてどう語るのか、注目があつまりそうだ。

■五味洋治 ジャーナリスト
1958年7月26日生まれ。長野県茅野市出身。実家は、標高700メートルの場所にある。現在は埼玉県さいたま市在住。早大卒業後、新聞社から韓国と中国に派遣され、万年情報不足の北朝鮮情勢の取材にのめりこんだ。2012年には、北朝鮮の故金正日総書記の長男正男氏とのインタビューやメールをまとめて本にした。最近は、中国、台湾、香港と関心を広げ、現地にたびたび足を運んでいる。

最終更新:6/20(火) 15:00
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