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「恐れを知らぬ少女」、相反する評価の理由

6/20(火) 15:22配信

ウォール・ストリート・ジャーナル

 それは、一夜にして姿を現した。腰に手を当て、ウォール街の象徴である雄牛の銅像「チャージング・ブル」を挑戦的な目で見つめる「恐れを知らぬ少女」の像だ。

 3月8日の国際女性デーの前日に設置されたこの少女像は、女性の地位向上と男女平等の象徴として人々にたちまち受け入れられた。

 この像の製作と設置を委託したのは、資産運用会社ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズだ。像のおかげで、最もパッシブな投資家の1つだとみられている同社に衆目が集まった。

 高さ50インチ(約127センチメートル)の像は世界中のメディアから注目を集め、ツイッターで「#FearlessGirl」のハッシュタグが付けられるなどソーシャルメディアでも話題となった。多くのニューヨーカーや旅行者が一緒に写真を撮る観光名所にもなった。さらに、エリザベス・ウォーレン上院議員(民主党)をはじめとする政治家、歌手のシンディ・ローパーさんに代表される著名人までもが「少女像詣で」をしている。

 この像の設置は、広告大手インターパブリック・グループ・オブ・カンパニーズ(IGC)傘下のマッキャン・ニューヨークが考案したもので、狙いはステート・ストリートが投資する企業に対し、女性の取締役を増やすよう圧力をかけることにあった。また、女性が最高幹部を務める企業に投資するステート・ストリートの「SHEファンド」を宣伝する狙いもあった。

 広告会社レオ・バーネット・ワールドワイドによると、「恐れを知らぬ少女」は、仏コートダジュールで毎年開催されている業界イベント「カンヌライオンズ」で賞を獲得すると予想されている作品の1つだ。ピュブリシスグループ傘下のレオ・バーネットは、過去30年にわたって各賞の受賞者を予測している。

 レオ・バーネットのマーク・タッセル最高クリエーティブ責任者は、「これは実に興味深い作品だ。われわれが作品についてどう考えるかの域を超えている」評価。「社会の一部になったし、会話を生み出した」と語った。

 実際、少女像は100万件近くのツイートを生み出し、ニュースやテレビ番組で数多く取り上げられたほか、米主要紙で何百本もの記事になるなど、ステート・ストリートにとっては無料の宣伝となった。ステート・ストリートは、少女像によって伝統的メディアおよびソーシャルメディアで作り出されたブランド価値は2700万~3800万ドル(約30億2000万~42億6000万円)に上るとみている。

 これは、比較的安価なマーケティング戦略の結果としては悪くない。事情に詳しい関係者によると、同社が少女像に費やしたのは約25万ドル(約2800万円)だ。

 ステート・ストリートは今回、マーケティングで社会問題に触れた企業の仲間入りをした。

 このトレンドを表す一例が、米プロフットボール(NFL)の王者決定戦「スーパーボウル」放映時のテレビコマーシャルだ。民泊仲介サービスのエアビーアンドビーは人々の結束と多様性を強調するコマーシャルを流し、独自動車アウディは男女の賃金の平等を訴えた。アウディなどの一部広告はソーシャルメディアで物議を醸した。

 アカデミー賞授賞式の放映時のコマーシャルにも同じようなトレンドが見受けられた。ハイアット・ホテルズは、「What the World Needs Now Is Love(世界は愛を求めている)」のカバー曲を使って、団結を訴えた。

 PR大手エデルマンのリチャード・エデルマン最高経営責任者(CEO)は、従来通りの宣伝活動を通じて消費者にリーチするのが昨今は難しくなっていると指摘。そのためブランドは「ソーシャルメディア上で起きている文化的ディスカッションの一部となる必要がある」と述べる。

 だが、このアプローチは裏目に出かねない。とりわけ、政治的に緊張が高まっている状況にある時期はそうだ。エデルマンが今春、14カ国の1万4000人を対象に行ったオンライン調査によると、社会的ないし政治的な問題に対する企業の立場を理由に商品を買ったり、ボイコットしたりしていると答えた消費者は全体の57%に上った。

 「恐れを知らぬ少女」に対しても、反対の声はある。ステート・ストリート自身に人材の多様性の問題があるという批判があるほか、像の設置を売名行為だとしたり、中身のないフェミニストの宣伝道具だとする声も出ている。また、長年ウォール街にいる雄牛の像をおとしめるものだという意見も聞かれる。

 ニューヨーク・デーリー・ニューズ紙のある記事には、「平等なんてでたらめだ。『少女』像を置いた金融機関には女性幹部がほとんどいない」という見出しが付けられていた。ステート・ストリートは、男女平等に関する統計を公表することで、一部の批判に対応したと述べている。

 「チャージング・ブル」を作った彫刻家は、少女像の広告キャンペーンによって、自分の芸術作品の真意が曲解されていると非難。また別の彫刻家は、放尿している小さな犬の像を製作し、一時的に少女像の横に置いていた。

By Suzanne Vranica