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デジタル変革期に注目すべき技術とクラウド/データセンターの「進化の方向」

6/21(水) 6:00配信

Impress Watch

弊社刊「データセンター完全ガイド 2017年春号」から記事を抜粋してお届けします。「データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2017年3月31日
定価:本体2000円+税

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デジタルビジネス時代に、市場での生き残りをかけた企業の取り組みを支えるITインフラ。その構築にあたるIT部門は、先を見据えて最新技術を取り入れたデータセンターやクラウド基盤を選ぶ必要がある。2016年12月6日に都内で開催されたクラウド&データセンターコンファレンス2016-17(主催:インプレス)のオープニング基調講演に、Publickeyブロガー・イン・チーフの新野淳一氏が登壇。デジタルビジネスを加速する技術とITインフラ技術の最新トレンドを紹介しながら、デジタル変革期にデータセンターとクラウド基盤が向かう方向を示した。 text:伊藤秀樹 photo:赤司 聡

 新野氏(写真1)はムーアの法則の次、ポストムーアの時代の到来について言及した。「近年、コンピュータの性能を向上させるための新しいアプローチやテクノロジーが次々に登場しており、サーバー、そしてクラウドを次の進化へ押し上げる推進力となっている」(同氏)

 ハードウェア進化の最新トレンドとして新野氏は6つを挙げた。①並列性を高めて性能向上を図るメニーコア、②ハードウェアリソースの柔軟な配分を実現するインテルのラックスケールアーキテクチャ、③電力当たりの性能向上を高めた低消費電力プロセッサのARM、④GPUの活用による単純演算の高速化、⑤プロセッサの回路を動的に最適化するFPGA(Field Programmable Gate Array)、⑥不揮発性・大容量メインメモリのストレージクラスメモリである。

 ①のメニーコアはCPUクロック数の向上が限界を迎える中、並列させた多数のコアを同時に利用して処理性能を向上させる手法だ。新野氏は例として、最新のインテル Xeonプロセッサは最大22コア、HPC 用途のインテル XeonPhi には、64~72コアが搭載されるなど、メニーコア化が加速しているさまを紹介した。

 メニーコア化をさらに進化させたのが②のラックスケールアーキテクチャだ。ラック全体を1つのサーバーに見立てる技術で、ラック内のサーバー、ストレージを統合すると共に、ダイナミックなリソースのアロケーションをラック規模で行うことで、最適なリソース割り当てを可能にする。

 「これら新しいアーキテクチャを利用するにあたって、前者では大量のコアを効率的に動作させるためのソフトウェアが、後者ではラック全体のリソースを柔軟に組み合わせ、有効活用させるための基盤ソフトウェア、OSの実現がカギとなる」(新野氏)

■得意分野に応じたハードウェアの選択が重要に

 プロセッサに関する他のトレンドとして新野氏は、AMD Opteron A1100に代表されるような、低消費電力プロセッサを利用し、電力効率のよいデータセンターを実現する③のARMの活用や、CPUと比較して演算性能が数十倍から数百倍高いGPUを高速計算に転用する④のディープラーニング用途でのGPUについて言及した。

 また、クラウド業界でとりわけ注目度が高まっているのが⑤のFPGAだ。これはユーザー側でプログラムの書き換えが可能なプロセッサで、アプリケーションのプログラムをハードウェア処理で実行できるのが特徴だ。

 新野氏は、インテルが2016年1月に大手FPGAメーカーの米アルテラを買収し、XeonプロセッサへのFPGA機能の統合を計画していることを紹介。今後、クラウドサービスとしてFPGAを利用することも一般化するだろうとの予測を示した。実際、2016年11月末には、Amazon Web Services(AWS)がFPGAを利用可能なクラウドサービスを発表している。開発環境もクラウドで提供するほか、ユーザー作成のFPGAイメージをAmazonマーケットプレイスで販売することもできる。

 ⑥のストレージクラスメモリは、HDDやSSDのように大容量・不揮発性でありながら、DRAMに匹敵する高速アクセスを実現する期待の技術だ。電源を落としてもデータが失われないため、データ保存のためのストレージへの書き込みが不要となる。

 「データベース処理の高速化や、OSの起動、アプリケーション立ち上げの迅速化も期待される」と新野氏。ストレージクラスメモリをさらに発展させたアーキテクチャとして、米ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)が「The Machine」を開発中であるほか、今後、IBMなど主要なベンダーからも、同様のアーキテクチャを搭載した製品のリリースが予想さされており今後が注目される。

 「3年から5年後、これまでに説明してきたようなテクノロジーを搭載したサーバー製品が登場してくるだろう。そうしたサーバー製品は、電力性能比、機械学習、大規模データ処理など、異なった得意分野を持つが、データセンター/クラウド事業者側も用途に応じて適材適所のハードウェアを選択し、特色のある独自のサービスを提供していくことが重要だ」と新野氏は強調した。

■ソフトウェアの進化にもいち早い対応が不可欠

 新野氏は、ソフトウェアにおける進化トレンドに話題を移し、従来の仮想化からDockerに代表されるコンテナ型仮想化への移行が進んでいることを挙げた。コンテナ型仮想化は、起動済みのOSでアプリケーションが稼働するユーザー空間のみを切り出して提供するため、軽量かつ高速で起動できる。

 また、簡単にパッケージ化できるのも特徴だ。「開発者が自分のノートPCにあるDockerコンテナ上で開発したアプリケーションをパッケージ化、クラウド上にアップすることで、迅速な運用、テスト環境の構築も実現できる」(新野氏)。コンテナ型仮想化は、マイクロソフトやヴイエムウェア、AWS、グーグルなど多くのベンダーから支持されており、今後、この技術を用いたサービスの登場が予想される。

 複数のサービスをAPIで疎結合させたシステムであるマイクロサービス(Microservices)にも注目が集まっていると新野氏は述べ、次のように説明した。「マイクロサービスは、アマゾンのEC基盤としても利用されているが、かつて1つの巨大なECアプリケーションだったアマゾンのインフラに対して、システム拡張や変更における柔軟性をもたらすために導入された。実際、巨大なクラウドアプリケーションを構築するのではなく、マイクロサービス化していく流れがブームとなっている」

 マイクロサービスと同様に注目されているのがサーバーレスコンピューティングだ。AWS が2014年に発表した「AWS Lambda」が普及のきっかけで、プログラムやユーザーの操作に応答してコードを実行するイベントドリブンを特徴とする(図1)。

 「従来のクラウドアプリは、稼働中ずっと課金されていたが、サーバーレスコンピューティングは実行時にのみコストが発生する。クラウドの利用コストが1ケタ以上削減できると大きな期待が寄せられている」(新野氏)

 また、サーバーレスコンピューティングは、性能が不足すると自動的にスケールするので従来のようなサーバー管理が不要であるほか、イベントの発生ごとに新規起動するため、従来のアプリケーションと比較して安定性が高いというメリットも持つ。そうしたメリットを伝えるのに、新野氏は日本経済新聞の事例を紹介した。

 同社は、サーバーレスコンピューティングを採用して、スマートフォンやタブレットで紙面を閲覧可能なモバイルアプリケーションを構築。コストと運用負荷が大幅に抑制できたほか、特にシステム障害も発生していないという。このサーバーレスコンピューティングはAWSが先行しているが、マイクロソフト、グーグル、IBMも2016年中にサービスを展開予定と報じられている。

 「こうした新しいソフトウェア技術は従来のアプリケーションとアーキテクチャが大きく異なる。そのため、実際の活用に際しては全面的なコード刷新が必要だ。その対応の可否が、クラウドをより安価に便利に活用できるかの分かれ目となる」(新野氏)

 ベンダー側には、そうした対応を支援できるかが問われている。新野氏は、「クラウドの黎明期にも『本当に使えるのか』『どんな人材やスキルが必要なのか』といった議論が行われた。そうした壁を乗り越えた企業が、現在、クラウドのメリットを享受している。同様に、ハード/ソフトウェアの進化に対して柔軟に対応可能な組織、人材を整備することが、新しいクラウドのメリットをいち早く取り込むためのカギとなる」と語って講演を締めくくった。

(データセンター完全ガイド2017年春号)

クラウド Watch,伊藤 秀樹

最終更新:6/21(水) 6:00
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