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「toio」をきっかけにソニーも変わる? 体感型おもちゃが示す本当の価値

6/21(水) 6:25配信

ITmedia LifeStyle

 ソニーの新規事業創出プロジェクト「SAP」(Seed Acceleration Program)から、12番目の商品となる“スマート・トイ”「toio」(トイオ)が発表された。「toioからソニーが考える次世代のエンターテインメントを発信したい」と語る開発者の田中章愛氏を訪ね、toioのコンセプトや搭載されているソニーの独自技術について詳しい話を聞いた。

toioで遊べるコンテンツ「toioタイトル」は小さなカートリッジに収録されている

●ソニーのおもちゃ「toio」とは?

 toioの紹介については、ここでは簡単にプロフィールをまとめておくので、商品としての詳細については6月1日に東京おもちゃショーの開幕に合わせて発表された時のニュースも合わせて読んでいただきたい。

 本体の「toioコンソール」と、輪っかのかたちをした2台のコントローラー「toioリング」、モーターと車輪を搭載して動き回る2台の「toioコア キューブ」がメイン。コンテンツを収録したカートリッジ型の「toioタイトル」をコンソールに読み込ませると、toioが色んなゲームが楽しめるおもちゃになる。

 toioコア キューブ(以下:キューブ)が“ロボット”であるtoioの心臓部。中には小型のコンピューターや通信モジュール、加速度センサーなどを搭載する。2つのキューブをテーブルの上に載せて「ロボット相撲」のようなゲームも楽しめる。その時にテーブルの上に敷く専用のシートは、表面に細かなマス目が描かれていて、これをキューブの底に配置した光学センサーが読み取ることで、キューブが自身の座標や向きを把握する仕組みだ。この「絶対位置センサー」は、今回インタビューした田中氏のチームが開発したソニーの独自技術である。

 toioコンソールから伸びたケーブルの先にある2つのtoioリングには複数のボタンや加速度センサーが搭載され、ボタンを押したりスライドさせたり、あるいはコントローラーを振ってキューブを操作する。toioに進行方向を読み込ませたり、その場で回転させるなどの動きを与えるための「ハプニングシール」「コマンドカード」を使えば、toioは専用のシートの上だけでなく、普通のテーブルや床の上でも遊ぶことができるおもちゃになる。

 toioは発表と同時にソニーのSAP商品が購入できるWebサイト「First Flight」で予約販売を開始した。6月30日までに購入すると12月1日の一般発売よりも少し早い11月下旬頃に届けられ、一足早く遊ぶことができる。クリスマスプレゼントにもぴったりだ。

●toioに注ぎ込まれた「ソニーならではの技術」とは

 toioを開発した田中氏は、ソニーがSAPを起ち上げた頃からプロジェクトに参加して、これまで巣立っていったさまざまな商品の開発や設計にも関わってきた人物だ。️田中氏はソニーに入社後、ロボットの要素技術の研究に携わってきた。学生時代にはいま注目される車の自動運転技術とも関わりのある「移動ロボット」の研究を専門としていたそうだ。当時、ロボットが光学センサーを使って自分の周囲の環境を認識するという技術を研究してきたことが土台になり、toioの絶対位置センサーが誕生するきっかけになったのだとか。

 toioの開発はハードウェアの開発に携わってきた田中氏と、コンセプトを発案したソニーの次世代インタラクション研究者であるアンドレ・アレクシー氏が、いまから約5年前に発案したアイデアが“種”になった。その後、ソニーの社内オーディオションで優勝し、昨年6月から開発プロジェクトが始動。約1年でtoioとして発表の日を迎えた。

 田中氏は、コンセプトの立案からずっと練り上げてきた研究開発の成果がtoioに詰まっていると振り返る。田中氏に「toioに詰め込まれたソニーらしい技術は何か」と尋ねたところ、「絶対位置センサー」以外にも、ロボットである「toioキューブ」の作り込みの技術、独自のリングコントローラーによる制御からバックグラウンドで走らせているソフトウェアまで、全てに及んでいると答えた。「通常のロボット開発は技術が先行して、そこからアプリケーション(使い方)を考えるアプローチが多いと思います。toioの場合はその手法が逆転しているところがとてもユニークで、開発チーム一同で遊び方のイメージを先に固めてから、そのために必要な技術を作ってきました」(田中氏)

 toioの基幹技術の中でとりわけ重要な「️絶対位置センサー」の役割を、開発に携わった田中氏に改めて聞いた。「ロボットを動かす際にはアクションを起こすための実行位置を決めなければなりません。いかに単純なプログラム処理であっても座標把握は非常に大事で、正確な位置と時間のタイミングを基準として、そこに遊びのルールを加えるとゲームがデザインできます。これをコンピューターグラフィクスの画面の中ではなく、リアルな空間の中で実現するために絶対位置センサーがあります」

 2つのキューブはコンソールと常時Bluetoothでつながりながら、絶対位置センサーで読み取った座標をコンソールに伝える。コンソールはカートリッジに収録されているゲームコンテンツのプログラムに従ってアクションの指示を飛ばし、時にリングコントローラーから入力された操作コマンドをキューブに同期する仕組みだ。元は天井など、プレーヤーの頭の上あたりにカメラを設置してキューブから発信される赤外線LEDを読み取って位置を読み込むというアイデアもあったが、この仕組みでは例えばプレーヤーが手や身体で赤外線を覆い隠してしまうと動作がストップしてしまう。子供のためのおもちゃなので、スムーズな操作ができないとあっというまに飽きられてしまう。そう考えた田中氏は、より精度の高い️絶対位置センサーを新たに開発する方を選択したのだ。

●遊んでみて分かった体感型おもちゃの本当の価値

 長年に渡ってロボットの開発に携わってきた田中氏にとっても、toioの開発から多くの経験を得たという。「toioの開発はソニーが提案する次世代のエンターテインメントを形にしようという大きな試みからスタートして、徐々に“おもちゃ”という方向に定まっていきました。開発に携わったメンバーと一緒に、ソニーがソフト、ハード、エンターテインメントの分野で培ってきた資産をすべて集めて、自分たちがワクワクするものを作ってみたいという計画が徐々に熱を帯びてきました」。田中氏はさらに開発段階での出来事を振り返る。

 「toioのほかにも電気で動く色々なものを試作しましたが、その中で『子供たちが触って楽しめるもの』に絞り込んでいった結果、toioの原型に辿り着きました。その試作機をモニターの子供たちに遊んでもらったらとても好評だったので、私たちもこれは行けそうだという手応えをつかみました。普段、ロボットの要素技術の研究に没頭していると、お客様の姿を見る機会は少ないのですが、今回はユーザーである子供たちや親御様からの良い反応を目の当たりにできたことで気持ちが高ぶりました」(田中氏)

 toioはキューブの天面にある凹凸にLEGOブロックをはめ込んでキャラクターを作ったり、両面テープでお手製の紙工作を装着したり、ただコップを被せたりと何でもありの体験型の遊びをとり入れたおもちゃだ。キューブを小型化した理由は、子供たちが自由な発想を生かしたハンドメイドの工作と親和性を高めるためだったと田中氏は語る。「キューブは車にも動物にもなれます。だから本体そのもののキャラクター性は極力なくして、その上に自由な表現を加えられるようにしました」

 自分が組み立てたおもちゃとロボットの技術が組み合わさって動き出すと、田中氏たちの狙い通り、toioを遊ぶ子供たちの目が輝き始めた。それだけでなく、子供の遊ぶ姿を見守っていた親たちの身の入り方も変わっていったそうだ。キューブの天面の凹凸は、今回toioのデザイナーが独自に形状を考えて設計したものだが、LEGOブロックをパチッとはめ込んで、キューブの上にLEGOブロックで作った車や飛行機などが乗せられる。

 筆者も今回のインタビューの際、LEGOの人型のキャラクターを乗せたキューブでロボット相撲のゲームを体験させてもらって、コントローラーのボタンを押して“必殺技”を繰り出して、対戦相手のロボットを倒した時には思わず拳を握りしめた。他のゲームがそうであるように、toioは人が遊んでいる姿を見るより、自分で動かして体感してみた方が断然楽しいし、その真価が伝わってくる。

●toioはロボットプログラミングへの興味もかき立てる

 ソニーは今回、初めて「東京️おもちゃショー」にブースを構え、全4日間の期間にわたってtoioを紹介した。ブースのスタッフとして説明に立った田中氏は、来場者から予想を超えるほど良い反響があったと満足げな笑みを浮かべた。子供たちが熱中しながらtoioを遊ぶ様子に励まされただけでなく、会場に子供を連れてきた親の中にも、toioは子供の創造力を育むのに最適な遊び道具として太鼓判を押す声が多くあったという。

 一方で「toioはプログラミング学習にも使えないのか」という質問や意見も多く投げかけられたという。日本では2020年から、小学校でプログラミング教育の必修化が検討されていることもあり、親世代のロボットプログラミングに対する関心がいま急速に高まっているからだろう。toioのプログラミングは外部に開放されておらず、それどころかスマホやPCにつなぐ必要もないデバイスだ。その理由は「おもちゃとしてシンプルに楽しんでほしいから」だと田中氏は説く。ただ一方で、toioが子供たちのロボットやプログラミングに対する興味を喚起するきっかけとなればうれしいと田中氏は言葉を付け足した。

 toio本体の販売価格はオープンだが、想定売価が2万円前後という価格設定は悪くないと筆者は思う。親が子供のために、ロボット学習のきっかけを作るため買い与えるおもちゃとしてはけっして高額すぎないし、5000円前後のカートリッジでコンテンツを買い足せば長く遊べる。

 toioの商品としての品質について、ソニーでは全てのSAPから誕生した商品と同様に「品質オフィサー」と呼ばれる社内で認定されたエキスパートチームの厳しい監督を受け、完成度と安全性を細部まで検証しながら作り込んでいる。田中氏は「ぜひ安心して楽しんでほしい」と呼びかける。

●toioをきっかけにソニーが変わる?

 最後に田中氏へ、今後のスマート・トイの可能性について尋ねてみた。今回ソニーが開発したtoioはインターネットにつながらないので、いわゆる「IoT」そのものを形にしたデバイスではないかもしれないが、これはおもちゃとしての使いやすさを優先したためであるという。ただ一方で田中氏は「おもちゃショーに出展されていた各社のおもちゃを見渡すと、インターネットにつながって新しい遊びが体験できるスマート・トイも増えていると感じました。おもちゃとIoTが結びついて大きな進化を遂げる時代はすぐそこまで来ていると思います。当然、ソニーもその分野はしっかりと研究開発を進めています」と語り、スマート・トイの開発に向けて積極的に取り組む姿勢をアピールしている。

 ただtoioそのものも、商品の中で完結してはいるものの、先端にあるデジタル技術を生かした機器同士のネットワークをベースにしているスマート・トイと捉えることができる。toioコンソールを司令塔として中軸に据え、無線通信やセンサーの技術が媒介となってキューブとリングコントローラーが連携して、新しい遊びを生み出しているからだ。

 toioにはパワフルな処理能力と通信機能が搭載されているので、今後さまざまなアイデアと結びついて新しいエンターテインメントを作り出せる方向性が見えてきたという田中氏。もともとtoioは「技術者の頭だけで作らないこと」も1つの目標だったそうだ。「今後は人々を楽しませる術を熟知されているおもちゃメーカーのパートナーや、クリエイターの方々とコラボしながら、新しいエンターテインメントを育てていきたい」と田中氏が意気込む。今回、「First Flight」ではtoioとLEGOのブロックをセットにしたパッケージ販売が行われている。また新製品発表の際には玩具メーカーのバンダイとのコラボレーションが実現することも明らかになった。

 これまでSAPのプロジェクトからは数々のユニークな製品が発表されてきたが、いずれもオトナ向けのガジェットが中心だった。プロジェクト初の子供向けおもちゃであるtoioは、来る新しいエレクトロニクスの時代に向け、いよいよ変貌を遂げるソニーの第一歩なのかもしれない。

最終更新:6/21(水) 6:25
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