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ブリヂストンがビッグデータ解析で製品不良を6分の1に削減――3つのデジタル変革で新たなビジネスを加速

6/21(水) 7:55配信

@IT

 2017年5月23日開催の「SAS FORUM JAPAN2017」でブリヂストンが行った特別講演「ソリューションビジネスを加速する、ブリヂストンのデジタルトランスフォーメーション~AIとIoTで推進する、新しい時代のモノづくりとICT」からDX実践のヒントを探る。

ブリヂストンが設定したデジタルトランスフォーメーションのロードマップ(出典:ブリヂストン)

●タイヤ販売からソリューション事業へ

 1931年創業のブリヂストンはタイヤビジネスを主力事業としており、乗用車やトラック、鉱山用車両などのタイヤを製造/販売している。その他にも免震ゴムや自転車、スポーツ用品などに関わる事業を展開している。そんなブリヂストンがDXに取り組み始めたきっかけは「タイヤのソリューション事業だった」と話すのはブリヂストン 執行役員 CDO(Chief Digital Officer) デジタルソリューションセンター担当の三枝幸男氏だ。

 車は「ハイブリッド」「燃料電池自動車(FCV)」「電気自動車(EV)」「自動運転」など新しい技術を取り込むのが早く、最新技術の塊だ。一方、タイヤは見栄えがほとんど変わっていないものの、素材や機能、性能などで大きな進化を遂げている。タイヤがパンクしても一定の距離を走り続けられる「RFT(Run-Flat Technology)」は、その1つだろう。このようにタイヤメーカー各社が、さまざまな新機能や付加価値を付け、製品を差別化するために日々、研究開発を続けているにもかかわらず、既存のメーカーはシェアを落としている。ブリヂストンは、この状況に危機感を持っていたという。

 「2005年と2015年のタイヤ業界のポジションを見てみると、ビッグスリー(ブリヂストン、ミシュラン、グッドイヤー)の順位は変わっていない。しかし、新興メーカーの勢いが強く、ビッグスリーや既存の中堅メーカーは軒並みシェアを落としている」

 「このままでは限界がある」と感じたブリヂストンは、顧客が持つタイヤに関する「困り事」を解決するソリューション事業を始めたという。

●ソリューション事業とバリューチェーンの問題点

 ブリヂストンが始めたタイヤソリューション事業は、同社のスペシャリストがタイヤの空気圧の管理やスノータイヤの入れ替えなどを行い、顧客がタイヤを使った分、お金を支払うというもの。このときに出てくるすり減ったタイヤは、「リトレッド」(付け替え)で再利用する。しかし、この仕組みを従来の製造/販売というビジネスモデルの中で行うのには、大きな問題があった。

 「ブリヂストンは、人、組織、システム全てがバリューチェーン1つ1つのブロックで分断されていた。バリューチェーン間で連絡を取るときはFAXや電話が中心。Excelファイルをメールで送っていたときもあったが、それでもスピードが遅く、脆弱(ぜいじゃく)な連携であるなど、綱渡りの運営が続いていた」

 またソリューションを素早く顧客に提供するためには、顧客の情報や課題などを素早く把握する必要があった。「このままでは顧客に対して、最適なソリューションを素早く提供できないどころか、コストばかりかかってしまう。この問題を解決するために、バリューチェーン全体をDXしようと考えた」

 そこでブリヂストンがロードマップとして設定したDXは、社内向けの「Digital for Bridgestone」、顧客へ提供する価値を高める「Digital for Customer」、顧客や企業間と連携したエコシステムの構築を目指す「Industry level Ecosystem play」の3つ。以降、順に紹介しよう。

●1つ目のDX:Digital for Bridgestone

 まずはブリヂストン社内をデジタル化して効率を高める「Digital for Bridgestone」だ。

○データ解析における課題

 ブリヂストンの工場の生産システムは、ほぼPLC(※)で動いている。このPLCは、工場1つ分であれば数万点のセンサーとつながっており、どのような製品がいつ作られているかや、製造過程で起きるトラブルの有無などを全て把握できるという。

※PLC(Programmable Logic Controller):さまざまな機械を決められた手順通りに動かすための制御装置

 ブリヂストンはPLCから発生するデータを使い、工場の見える化として「FOA(Flow Oriented Approach)」と「DAC(Dynamic Action Chart)」に取り組んできた。FOAは、工場内で発生するデータを生のままネットワーク上に流す仕組みだ。このデータは「誰もが」「必要なときに」「必要なものを」「必要なだけ」収集して業務に活用することができるという。

 またこのネットワーク上に流れている生データを使い、ユーザー自身でさまざまなレポートを作成できるシステムがDACである。DACを使えば、経営層がマネジメントに必要な、工程ごとの生産状況や不良発生状況などのレポート、現場担当者が工場運営上必要な不良項目別発生状況レポートなどを作ることが可能だ。

 しかしネットワークやPLC、コンピュータなどが発達するにつれて、取得できるデータの種類や量が増えてきた。「従来、Excelで散らばっていた生データを人手で一生懸命集め、ひも付けていた。そのひも付けやデータ解析の仕方には経験則やノウハウが必要だった」

 そのため、「データが多く整理されていないので、どこに何のデータがあるかが分からない」「データ解析時に、どのデータをひも付ければいいのかが分からない」などの問題が発生。またデータをうまく解析して業務改善できている人もいれば、データがごみになっている人もいるなど、技術スキルのばらつきが発生していた。

 これらの問題を解決するためには、何らかのブレークスルーが必要だった。三枝氏が「技術スキルのばらつきをなくし、データ解析のスピードを上げられる」と考え、導入したのがビッグデータ解析ツールだ。

○ビッグデータ解析ツールで製品不良が6分の1へ

 実際、新しい製品開発プロジェクトを立ち上げたときにビッグデータ解析ツールの力が発揮された。新製品の製造過程には品質に影響がある「制御パラメーター」が89個もあり、中には、外気温や天気など、制御ができないものもあったという。そのような状態の制御パラメーターから最適な組み合わせを見つけることはベテラン技術者でも至難の業。ビッグデータ解析ツールを使うことで、「思いもよらない組み合わせが最適だと分かり、その通りに設定したら製品不良の数が約6分の1になった」

 このようにビッグデータ解析ツールを使うことで、導入前の狙い通り、素早くデータを解析し、最適な解決策を導くことができた。しかし、89個の制御パラメーターを現場の技術者から聞き出すのに一番工数がかかったという。「今後は、パラメーターを聞き出したり、整理したりするノウハウをためていくことが、素早くデータを解析できるようにする上で重要になっていく」

○AI制御モジュールが正しいかどうかの検証は、まだ人手

 「Digital for Bridgestone」の取り組みについて、もう1つ紹介しよう。

 ブリヂストンは、2016年5月にタイヤ成型システム「EXAMATION」を導入した。「生産能力を従来比2倍にするとともに、2000項目のデータを習得することが可能だ」というEXAMATIONは、「AI制御モジュール」を使って動いている。これは、EXAMATIONやその他の工程から生まれたビッグデータを、プライベートクラウド上で機械学習させることで生成される。生成したAI制御モジュールをEXAMATIONに搭載し、また分析して新たなAI制御モジュールを生成。このサイクルを繰り返すことでシステムを最適化していくという。

 EXAMATIONとAI制御モジュールで、生産性向上と品質のばらつきを抑えることができたが、課題も残った。「タイヤは人の命に関わるものなので、生成されたAI制御モジュールが何をどのように制御しているのか把握しなければ、EXAMATIONに搭載するわけにはいかない」。そのため、生成されたAI制御モジュールが正しいのか、安全は確保されているのかを人手で検証してから、埋め込んでいる。現状は、この検証作業に時間がかかっているが、いかにして作業時間を減らすかが今後の課題だという。

○人を送るのではなく、機械にAIを埋め込んで業務改善を効率化

 これまでは、ナレッジやノウハウを共有しても、なかなか活用されず、最終的には現地に人を送って、地道に改善活動をしていたが、今後は、「ビッグデータ解析ツールやAI制御モジュールなどの導入を進めることで、業務の改善活動が大きく変わっていくのではないか」と期待しているという。

 例えば、機械学習で生まれたアルゴリズムをAI制御モジュールとしてグローバルで共有することで、他の工場でもアルゴリズムを機械に埋め込んで使うことができる。「ビッグデータ解析ツールのノウハウをナレッジベース化したり、アルゴリズムを共有したりすることで、改善活動を世界で同時に行えるのではないか。今後もビッグデータ解析や人工知能といった新しい武器のナレッジをためて、業務改善のスピードを上げていきたい」

●2つ目のDX:Digital for Customer

 2つ目のDXは「Digital for Customer」。「顧客へ提供する価値を高めるためにデジタル化を進めている」という三枝氏は、ブリヂストンの鉱山作業向けソリューションを例に、Digital for Customerを紹介した。

 鉱山は非常に広大で、車両が何百台と動いている。鉱山用車両は、オフロードで厳しい環境を走ったり、多くの積荷を載せたりすることが多い。また装着する巨大なタイヤは高価だ。もし広大な鉱山のどこかで、車両のタイヤがパンクしたり、故障したりしたら、大きなコストがかかるだけではなく、生産性に大きな影響を与えることにもなりかねない。

 このような問題が起きないように、ブリヂストンではタイヤの空気圧と温度が分かる「B-TAG」というセンサーをタイヤに埋め込み、タイヤの状況を監視できるツール「TreadStat」を提供している。これらを使うことで、タイヤの在庫を適正に管理したり、交換時期が予測できたり、問題が起きる前にタイヤをメンテナンスしたりすることができるという。

 「お客さまには、性能を100%発揮して無駄がないようにタイヤを使ってもらいたい。センサーから集まるデータを解析することで、タイヤのローテーション時期や空気圧、在庫などを管理するシステムの改善を進めていき、最適化を目指す」

●3つ目のDX:Industry level Ecosystem play

 最後のDXの「Industry level Ecosystem play」は、顧客や企業間と連携したエコシステムの構築を目指すものだ。三枝氏は、同社の運送業向けソリューションを例に、これについて説明した。

 冒頭に少し紹介した通り、ブリヂストンのソリューション事業はタイヤの管理を同社で行い、すり減ったタイヤはリトレッドで再生する。「将来的には、タイヤ1本ずつの個体管理ができた上で、『お客さまが、どのような車両にタイヤを装着しているか』『タイヤにかかる加重は、どうなっているのか』『車両の運行形態は、どうなっているか』を全て把握できるようにしたい。このデータを解析することで、お客さまごとにカスタマイズした質の高いソリューションを提供可能だ。しかし自社が持っているデータだけでは足りないので、現在は実現できない」

 そのためブリヂストンは、顧客である運送会社や、リトレッド会社などの運行に関わる企業とエコシステムを構築したい考えだ。「ステークホルダーの各社が持っているデータを統合し、解析することで、エンジニアリングチェーンやサプライチェーン向けの質の高いソリューションを提供し、バリューチェーン全体の価値を高めていきたい」

 最後に三枝氏は、「3つのDXを紹介したが、いずれも当社の力だけでは実現することはできない。これまで、高い技術力がある企業や、ノウハウを持つ企業と協力することで、変革を進めることができた。今後も、皆さまの力を借りてソリューションプロバイダーになれるように頑張っていきたい」と講演を締めた。

最終更新:6/21(水) 7:55
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