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「ひふみん」加藤九段引退 感想戦なく退館、風のように去る

6/21(水) 6:01配信

スポニチアネックス

 将棋の史上最年長棋士、加藤一二三(ひふみ)九段(77)が20日、東京都渋谷区の将棋会館で竜王戦ランキング戦6組昇級者決定戦の対局に臨み、高野智史四段(23)に98手で敗戦した。出場中の全棋戦で敗退したため、規定により同日付で現役引退となった。終局後は取材に応じず、待ち受けた報道陣を振り切るように会館から立ち去るなど、最後まで自由奔放だった。

【写真】竜王戦ランキング戦で敗れ、タクシーで会場を後にする加藤一二三・九段

 63年間の棋士人生の幕引きは、前代未聞のドタバタ劇だった。歴代最多となる通算2505局目の終盤。敗戦を悟った加藤は席を外すと、ひそかに会館前にタクシーを手配して帰宅準備を整えた。このとき関係者に「話はありません」と、終局後の取材は受けないことを宣言。約20分後に席に戻り、受けの手を指すと「感想戦はなしで」と告げ、高野の98手目を見て「負けました」と投了。連盟幹部の引き留めにも耳を貸さず、エレベーターで階下に降り、あっという間にタクシーに乗り込み風のように去っていった。

 通常は終局後、両者で対局を振り返り、意見を述べ合う「感想戦」を行う。そのしきたりも“ブッチ”。棋士人生で何度となく周囲を驚かせる行動を取ってきた“加藤らしさ”を最後まで発揮した。

 1954年8月、当時の最年少記録の14歳7カ月で史上初の中学生プロに。18歳で最速でA級八段に昇格し、「神武以来(このかた)の天才」と、我が国始まって以来の逸材とも称された。82年の第40期名人戦では挑戦者として、中原誠十六世名人(69)と千日手、持将棋(引き分け)を含む「十番勝負」を経験。これを4勝3敗で制し、悲願の名人位を手にした。

 盤の内外で、これほど多くの伝説を残した棋士はいない。長いネクタイがトレードマークの大食漢で、この日の昼食も含め、食事はほぼ毎回、うな重。対局場では人工の滝を止めさせるなどあらゆる主張を通したが、全ては勝負にかける執念。話し出すと止まらないキャラクターは、将棋界を超え愛された。

 現役生活の終盤に活力を与えたのが、新星・藤井聡太四段(14)の登場だ。昨年10月に14歳2カ月で最年少プロ棋士記録を62年ぶりに破られ、12月には藤井のプロデビュー戦で初勝利を献上。これをきっかけにメディア出演が増え、将棋の魅力を一般ファンに広く伝えた。21日も藤井の対局のネット中継で、解説に立つ予定。「ひふみん」の愛称と独特のキャラクターで親しまれる大ベテランは、引き続き将棋の普及活動に全力を注ぐ。

 ◆加藤 一二三(かとう・ひふみ)1940年(昭15)1月1日、福岡県生まれの77歳。故剣持松二九段門下。54年8月に当時最年少の14歳7カ月でプロ入り。69年十段戦で初タイトル、82年に名人位を獲得。通算タイトル獲得8期。公式戦通算2505戦で1324勝1180敗、1持将棋(1引き分けの意味)。今年1月に77歳0カ月で最高齢勝利の新記録を達成。00年紫綬褒章受章。1メートル67、80キロ。血液型A。

 ▼棋士の引退規定 名人挑戦者を決める順位戦で、最も下のクラスのC級2組から陥落した時点で、60歳を超えていれば引退が決定する。引退となっても、順位戦の残りの対局や、同一年度内で行われる他棋戦で勝ち進めば現役続行となるが、全てに敗退した時点で完全に引退となる。

 ▼竜王戦 将棋の8大タイトルの一つで、前身の十段戦から数えて名人戦に次ぐ歴史を持つ。優勝賞金は最高金額の4320万円。参加棋士を1~6組に振り分けトーナメントを行い、各組の上位者11人が決勝トーナメントに進出。今期の挑戦者は渡辺明竜王(33)との7番勝負に臨む。