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「転職で不利にならない」確定拠出年金の大きなアピールポイント

6/22(木) 17:50配信

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確定拠出年金には、主に他の年金制度と比べた場合、税制面以外でも嬉しいメリットがある。その一つが、転職した場合でも、自分の確定拠出年金の積立金を全額持ち運ぶことが出来る性質だ。これは、「ポータビリティ」と呼ばれているが、以前よりも転職が増えて、人材の流動性が増している今日、確定拠出年金の大きなアピールポイントになり得る。

(本記事は、山崎元氏著『確定拠出年金の教科書』日本実業出版社(2016/6/9)の中から一部を抜粋・編集しています)

■確定拠出年金が転職で不利にならない理由とは

但し、転職先の企業に確定拠出年金がある場合、ない場合など、ケースによって、確定拠出年金の適切な持ち運び方は異なり、それぞれの場合に必要な手続がある。だが、本書では、この点についても説明しているので、安心して欲しい。

確定拠出年金が転職で「不利にならない」ということは、裏を返すと、それ以外の年金(企業年金)には、「転職によって不利になるものがある」ということだ。企業に勤める会社員は、勤め先に「企業年金」の制度があれば、その加入者となる。年金の説明でよく使われる「3階建て」部分であり、確定拠出年金の「企業型」も、この企業年金の一つだ。

企業年金には、確定拠出年金以外にも「確定給付年金」、「厚生年金基金」等の種類がある。勤め先がこれらを導入している場合、退職すると、その企業年金からは脱退しなければならない。この場合、退職によって大きく不利になることが多いのだ。

これは、もともと、こうした企業年金は、長く勤める程に有利となる仕組みになっているからで、日本の企業年金では、かなり極端な長期勤続者優遇が認められてきた。筆者は、この状況は何よりもアンフェアであり、人材の流動化を阻害する点で好ましくないと考えているが、こうした差別的な不自由がまだ存在するのが確定拠出年金以外の企業年金の現実だ。

2005年の法改正により、「法律上」は、退職して企業年金を脱退しても、自分の年金資産を持ち運べることにはなっている(ポータビリティ制度)。

しかし、転職先の会社の制度や年金基金で年金資産の受け入れを認めていないケースが多く、殆ど普及していないのが現実だ。その場合、これまでに積み立ててきた掛け金の一部を脱退一時金として受け取ることができたらいい方で、在籍期間によっては没収されて何も残らないというケースもある。事実、在籍期間が3年未満の場合は没収すると、予め定めている企業が多い。

脱退一時金にしても、これまでの掛け金やまして運用益部分を全額受け取ることが出来る訳ではなく、また老後の年金には一切反映されなくなってしまうなど、明らかに不利となることが多い。

筆者は、過去に12回の転職をしているため、新入社員の頃から確定拠出年金があれば、老後がもっと安心だったかもしれないと思う。今の若手会社員は恵まれている。確定拠出年金を大いに利用するといい。

確定拠出年金では、こうした「不利」を、相当程度避けることが可能だ。先ず、確定拠出年金は、退職した後も年金を持ち運ぶことが出来る。転職先に確定拠出年金制度があれば、引き続き掛け金を拠出し、「加入者として運用を続けることが出来る。

これが、確定「給付」年金の場合、A社を退職してB社に転職し、両企業共に確定給付年金を採用していたとしても、いったんA社の企業年金は脱退しなければならないし、B社が年金資産の受け入れを認めていなければ、持ち運ぶことが出来ないのだ。

また、転職先に確定拠出年金制度がない場合でも、「個人型」の確定拠出年金に加入するか、或いは、追加で拠出することは出来ないが、既に払い込んだ掛け金の範囲で運用を続ける「運用指図者」になるか、そのどちらかとなり、原則として引き続き年金資産の運用を続けることが出来る。詳しくは、第5章を読んでみて欲しい。

どちらにしても、脱退して拠出をまた一からやり直すような羽目になることはない。これまでに拠出した金額は、引き続き自分の年金の積立金として持ち運び、運用することが出来る。ここが、確定拠出年金と、その他の企業年金との大きな違いだ。

なお、確定拠出年金でも、3年未満の離職では企業の拠出分のみ没収することが法的には可能だ。但し、その場合でも運用中に増えた運用益と個人が拠出した掛け金は全額守られるため、その分の年金資産を次の環境に持ち運ぶことは出来る。

今後、新卒で入った企業に定年まで居続けることの出来る人は、少数派となっていくだろう。本書の読者にも、既に転職経験者や、転退職によって泣く泣く年金資産を手放したことのある人は少なくないのではないか。

確定拠出年金は、これまで「転退職で損」をしてきた人が、これからは損をせずに済むという意味で、人生にとって有意義な制度だ。人によっては、税制優遇による節税額に匹敵する経済的効果を得る場合があるだろう。

■確定拠出年金は、将来の年金額が企業の都合に左右されない

次に、確定拠出年金の特徴の一つとして、他の企業年金と異なり、掛け金を個人単位の口座で管理している点を取り上げたい。このことはもう一つ、重要な意味を持つ。

それは、「企業の都合や業績に、年金額が影響を受けない」ということだ。勤めている、又は過去に勤めていた企業が倒産したり、業績が悪化したりした場合でも、確定拠出年金はその全額が保護され、年金として貰う金額が後から引き下げられることはない。

しかし、他の企業年金では、こうはいかない場合がある。過去の例として、JAL(日本航空)が破綻した時は、現役社員で給付額の5割、既に退職したOBで3割にあたる企業年金額が減額された。

これは、「日本の確定給付年金は、実は『不』確定給付年金なのではないか」と疑問を呈したくなるような、かなり無理筋な話なのだが、日本の企業年金の世界では、約束が後から修正されることが時々ある。

また、企業年金の一種である厚生年金基金などで、資産運用に失敗して年金支給額が減額されたケースもある。一方、確定拠出年金の場合は、個人の年金資産残高がはっきりしていて、事後的な削減対象になりにくい。厚生労働省は嫌がるかもしれないが、確定拠出年金の方が年金受給権の保護に優れている点は、もっと声高に宣伝されてもいいのではないか。

■年金積立金が把握出来ることも「いい事」だ

また、自分の年金資産の運用状況を1円単位で把握出来ることも、「いい事だ」と言えるだろう。2012年に発覚したAIJ投資顧問による年金消失事件のように、気づいたときには年金基金の運用資産が6%しか残っていなかった、等といった状況の心配をしなくて済む(このときは、全国の84の厚生年金基金が影響を受けた)。

自分の年金が、どんな金融商品で運用されていて、先月時点での時価が幾らで、といったことを簡単に知ることが出来るのも、確定拠出年金ならではの安心感だ。

■運用商品で有利なラインナップがあることも

確定拠出年金では、勤め先の企業(企業型の場合)、又は個人(個人型の場合)の選んだ金融機関が用意したラインナップから、加入者自身が運用商品を選んで運用する。

金融機関によって選べる運用商品の数も種類も、「得する度合い」までも異なるため、確定拠出年金を運営する金融機関(運営管理機関と呼ぶ)の選び方は重要なポイントである。

実は、この運営管理機関が確定拠出年金向けに提供する運用商品の中に、一般に個人向けに販売されている運用商品よりも手数料の安いものが用意されている場合がある。具体的には、外国株式のインデックス・ファンドに多く見られる。

この手数料は運用管理手数料(又は信託報酬)と呼ばれ、運用している期間中、継続して払い続けるコストなので、運用結果に与える影響が大きい。仮に運用資金が1000万円だとすると、手数料1%の差は、1年に10万円もの差となって表れる。侮ってはいけない。

山崎元
経済評論家。専門は資産運用。楽天証券経済研究所客員研究員。マイベンチマーク代表取締役。1958年、北海道生まれ。1981年、東京大学経済学部卒業、三菱商事入社。野村投信、住友信託、メリルリンチ証券など12回の転職を経て現職。雑誌連載、テレビ出演多数。

最終更新:6/22(木) 17:50
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