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人工骨はもう必要なしに? 「歯科インプラント」最新事情

6/22(木) 9:26配信

日刊ゲンダイDIGITAL

 2011年の調査によると60~64歳の平均残歯数は23本、80~84歳は13・6本だという。健康な人の歯は28本だから、60歳を過ぎると急激に歯を失うことになる。そうなると満足に食べられなくなるだけでなく、発音がおかしくなったり、見た目が悪くなったりする。結果、人前に出るのが嫌になり急速に老け込んでいく。それを避けるため歯科インプラントを選ぶ人が増えているが、その前治療として、やせた顎の骨(歯槽骨)を人工骨で補強してトラブルを起こすケースがあるという。そこで注目されているのが、人工骨を使わずにやせた歯槽骨を太くする治療法だ。自由診療歯科医師で、八重洲歯科クリニック(東京・京橋)の木村陽介院長に聞いた。

 成人の8割が患っているという歯周病。歯の根元に進行するに従い、歯を支える顎の骨(歯槽骨)が溶け、やせ細っていく。そうなると、いざインプラントをしようとしても、インプラントを固定することができない。しかし、今は骨が薄い人でも治療法はある。

「骨が不足している場所に人工骨を充填して、数カ月後に天然骨になることを期待する治療法を骨造成といいます。サイナスリフト法はそのひとつです。奥歯の上あたりの上顎の骨には、上顎洞と呼ばれる空洞があります。通常インプラントは上顎洞の下の骨の部分に埋め込みますが、そこの骨が足りない場合は、上顎洞底面の粘膜(洞膜)を持ち上げて人工骨を挿入し、骨が定着するのを待つのです」

 もうひとつは、インプラントを埋め込むために十分な骨の高さがない場合に用いられるGBR法(骨再生誘導法)だ。骨の少ない箇所をメンブレンと呼ばれる特殊な膜で覆い、内側に人工の骨補填剤を混ぜたものを置く。すると人工骨の周りに骨芽細胞が集まり、数カ月で新生骨が出来上がるという。

「インプラントを埋め込む歯槽骨の高さが足りない場合は、『ソケットリフト』というやり方もあります。サイナスリフトのように横から骨補填材を入れるのではなく、下から押し上げ骨の高さを確保します」

■自力で骨を太らせ埋め込みが可能に

 他にもさまざまな方法があるが、骨造成には人工骨が使われるのが一般的で、腫れや痛みが伴うことがあるという。

「人間にとって人工骨は異物です。手術で敏感な骨の中に埋め込むことで炎症が起き、痛みや腫れが出るのです。時には細菌などによる、治癒しにくい厄介な骨の感染症を起こすことがあります」

 実際、木村院長のクリニックには、他院でインプラント治療前の骨造成部分が感染して、顔がおたふく風邪のように腫れ上がった女性患者が駆け込んできたこともあったという。

「患者さんは、左上の奥歯にインプラントを入れようとして、2センチ近い骨の造成を行っていました。ところが、そこが感染して骨造成部分がボロボロになり、後鼻から喉の方に膿が流れ出ている状態になっていたのです」

 それを解決したのが、細胞外マトリックス(ECM)理論に基づく自家骨再生療法だという。

「カラダの中の細胞は、細胞外マトリックスと呼ばれる骨組みの中にはまり込むように存在しています。例えば骨は、カルシウムを中心にした硬いマトリックスに骨を作る細胞がはまり込んでいます。このマトリックスは骨を作る細胞たちが作り出したものです。骨を再生したければ、骨を作り出す細胞が自分のすみかであるマトリックスを作り出せる空間を与え、そこに骨以外の組織が入り込まないようにすれば、自然に骨が再生するのです」

 それには、わざわざ異物である人工骨を使う必要はないのだという。

「具体的には骨を再生したい部分を専用のシートで覆い、必要ならコラーゲンや患者さん自身の血液由来のフィブリンをその中に入れておけば、より早く再生します」

 実際、この方法なら人工骨なしでより短期間に骨造成が行えるという。

「人工骨を使わなければ痛みや腫れ、感染といったトラブルもほとんど起きません。また、再生した骨はきちんと圧がかかれば、年齢に関係なく骨密度は増えていきます」

 関心がある人は、インプラントを専門にしている歯科医師に尋ねてみるといいかもしれない。