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ネットを遮断された「英語圏」の地域は、どうなったのか

6/22(木) 8:08配信

ITmedia ビジネスオンライン

 私たちの生活に「インターネット」は欠かせなくなった――。

 6月13日、内閣府が調査した2017年版「子供・若者白書」が閣議決定され、その内容が話題になった。調査は2016年12月に15~29歳までの男女6000人を対象に行われ、「若者にとっての人とのつながり」が白書の巻頭で特集されている。

【ネットを遮断された地域はどうなった?】

 この調査では、若者の62.1%がネット空間を自分の居場所だと考えていることが分かったという。学校が自分の居場所だと答えた人は49.2%で、職場と答えたのが39.2%、地域が58.5%だったことを踏まえると、若者の多くが実社会よりもネット上につながりを感じているようだ。

 ただネットは、SNSをはじめ匿名で利用できるバーチャルな空間まで、使い方は多岐にわたる。ざっくりとひとくくりにすると回答者の意図を見誤りそうな調査ではあるが、いずれにせよ人類の生活にネット空間の存在が欠かせないものになりつつあることは確かだろう。

 そんなネットが、今、私たちの生活から突然消えてしまったらいったいどうなってしまうのだろうか。いきなり使えなくなることを想像したら……一度知った便利さを捨てるのは容易なことではないはずだ。

 実は最近、約3カ月にわたって特定地域でネットが使えなくなったとして、世界的なニュースになっていた国があった。アフリカ中部のカメルーンである。スマホの普及などでネットの利用が広がっているこの地域は、いったいどんな状況に陥ったのか。

●英語圏地域のネット接続を遮断

 そもそも、この「ネット遮断」の背景自体が興味深い。カメルーンの公用語である「フランス語」と「英語」にまつわる争いがきっかけとなっていたからだ。

 カメルーンはもともとドイツの植民地だったのが、フランスや英国に分断統治され、1972年にカメルーンという名の国が誕生した。現在、人口は2277万人だが、植民地時代の名残から、国民の大半はフランス語を話し、政府も「フランス語政府」となっている。一方、もともと英国領だった北西と南西地域では現在も英語が使われており、その英語圏の住民数は人口の5分の1を占める。

 英語を使用する国民は少数派で、建国以来、フランス語を使う政府が英語圏の地域を差別してきた。英語圏の人たちは、フランス語が中心の教育や司法システムの中で除外され、国内で「準国民」のような扱いを受けてきたと主張してきた。そして最近、英語圏地域の分離独立を主張する動きが再燃している。

 2016年10月、英語圏の弁護士や教師たちによる大規模なストライキが勃発。きっかけは、フランス語を話す判事が英語地域に赴任することになったことで英語圏国民の怒りが爆発したからだった。抗議デモはどんどん激しさを増し、死者が出るほどまでに発展。治安当局とデモ隊が衝突する動画がネット上にアップされ、さらに住民の怒りを増幅させた。

 そこで独裁的なポール・ビヤ大統領の率いる政府は、さらなるデモなどの情報が共有されないように、また国民を刺激する情報が拡散されないようと、2017年1月、英語圏地域のネット接続を全て遮断するようプロバイダー(ネット接続事業者)などに命令を下したのである。

 そこから93日間にわたり、同地域ではそれまで住民が日常的に利用していたインターネットが一切使えなくなった。人権的な見地から言えば、人がインターネットにアクセスできないのは基本的人権と自由の侵害に当たり、さらに表現の自由を制限するものだと、国連などの世界的組織が指摘している。そんな人権侵害が起きたのである。

●これが「未来の抑圧」の姿

 遮断によって、どのようなトラブルが発生したのだろうか。まず行政機関や学校などが利用できなくなり社会生活に支障が出た。経済的にも、銀行などがネットワークにアクセスできずに、ビジネスや個人の送金ができなくなり、市民が現金を引き出すこともできなくなった。また病院など医療分野にまでその影響は及んだ。

 英BBC放送は、地元からのリポートで、コミュニケーションが滞り、ニュースにアクセスできないために、世界で何が起きているのかも分からないと嘆く地元民の様子を伝えた。またネットが遮断されたことで、まるで牢屋の中にでもいるかのように周辺地域や外部から孤立してしまっているのに、カネがないために移動すらできないという声もあった。

 またアフリカのニュースサイトは、ある若い医師の声を拾っている。

 この医師は、遮断前まではさまざまな疾患についての最新情報や処置方法を得たり、離れた場所にいる同僚医師らからのセカンドオピニオンなどアドバイスを聞くためにネットを日常的に活用していた。だが遮断されてそれができなくなり、数時間かけてネットがつながるフランス語圏にまで移動せざるを得なくなったという。メールをチェックするためだけに5時間も移動したことがあったらしい。そんなことから、「途中から、フランス語圏に暮らす友人たちにパスワードを教えてメールをチェックしてもらうようになった……プライバシーも何もなくなった」と取材に答えている。

 そんな状況で英語圏地域の市民は「ネット難民」と化した。そして、彼らを受け入れるために「難民キャンプ」が設置されるという動きも起きた。英語圏からネット接続が可能な地域まで行くのはあまりにも遠く時間がかかるため、有志が英語圏からそう遠くないフランス語圏側の村にネットが利用できるスペースを提供した。

 結局は、国際社会からの批判などを受けた政府が、3カ月後に英語圏のネット接続を再開した。ただ遮断されていたことによる経済損出の合計額は、少なくとも450万ドル(約5億円)にもなったと見られている。こうしたカメルーンの状況を見て、元CIAの内部告発者であるエドワード・スノーデンも、これが「未来の抑圧」の姿だ、とロシアからツイートした。

●日本でネットが遮断される可能性

 実はカメルーン以外に、いつでもネットを遮断することができる国がある。例えばエジプトは2011年に「アラブの春」が起きた際、活動家らの動きを封じるために遮断、イランもトルコも突然遮断したりアクセス制限を行なっている。中国もいつでも遮断できるようにしていると報じられている。また米国もかつて、大規模サイバー攻撃への防衛策として、ネットを瞬時に止めることができるようにすべきだとの法案が検討されたこともある。

 政府がやらずとも、事故が起きる場合もある。通信データの99%は海底に敷かれたサブマリンケーブル(海底ケーブル)を通って行き来する。そのケーブルが破損したり切れたりすると、突然切断されてしまうこともあるのだ。実際に、2006年には台湾沖で発生した地震でケーブルが使えなくなり、台湾、中国、香港、フィリピンで通信遮断が起きた。2008年にはエジプト、イラン、インドで、2011年には中東、東南アジアでそれぞれケーブル破損が原因で遮断が起きている。

 では、日本でネットが遮断されるような事態は起きるのだろうか。世界的に見ても高度にデジタル化・ネットワーク化されている日本では、ネット遮断によるダメージは想像できないほど大きくなるだろう。社会機能だけでなくビジネスも著しく滞ることになる。

 理論的には、海底ケーブルが切断されたり、すべてのプロバイダーがサービスを停止するなどすれば、ネットは利用できなくなる。ただ、独裁的な指導者が鶴の一声で反政府的な地域に対する遮断命令を出せるカメルーンのような国とは違う。民主主義国家の日本では現実にはネットをすべて遮断させることは難しく、カメルーンのような遮断が実施されることはないだろう。もちろん、3カ月もアクセスできない状態が続くことは考えにくい。

 日本の若者の約6割は、ネット空間が自分たちの「居場所」と考えているが、いまのところそこは安泰のようだ。

(山田敏弘)