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大手スーパー買収のアマゾン、小売の「帝国」になれるのか

6/22(木) 8:21配信

ITmedia ビジネスオンライン

 出版業界や小売業界などのビジネスモデルを次々と破壊してきた、ネット通販大手のAmazon.com(アマゾン)。そのアマゾンがいま、生鮮食品を取り扱うスーパーマーケット業界に照準を合わせている。

【ホールフーズ・マーケットの魅力はどこにあるのか】

 近年、米国のスーパーマーケット業界からは、あまりいいニュースを聞かない。倒産に追い込まれる企業が続出したり、低価格を売りにするドイツ企業のALDI(アルディ)の勢力拡大で競争も激化している。

 そんなスーパーマーケット業界に、新たな衝撃が走った。6月16日、アマゾンが米オーガニック系スーパーマーケットのWhole Foods Market(ホールフーズ・マーケット)を買収すると発表したのだ。あのアマゾンがスーパーマーケット業界に本格的に参入するというニュースは、世界を駆け巡った。

 今回の買収額137億ドル(約1兆5000億円)は、アマゾンが過去に行なった企業買収の中で、最も高額となる。ちなみに、過去最大規模と言われたZappos(ザッポス)の買収額と比べると約11倍にもなることから、アマゾンは半端なく気合が入っているのがうかがえる。

 8000億ドル規模の米スーパーマーケット業界へ本格的に乗り込むアマゾンは、一体どこに向かっているのか。また果たしてアマゾンに勝算はあるのだろうか。今回の買収の背景を分析しながら探ってみたい。

●成長戦略に小売ビジネスは欠かせない

 実は、アマゾンは2007年からスーパーマーケット業界に参入している。「Amazonフレッシュ」と呼ばれるサービスを立ち上げ、生鮮食品などのデリバリーを行なってきた。だが、米国内でも対応しているエリアが都心部の一部に限定されており、ビジネスの拡大が思うように進んでいなかった。

 日本でも、2017年4月より「Amazonフレッシュ」が始まっているが、まだ首都圏と関東の一部のみのサービスで、今後どこまで普及するのかは未知数だ。

 そんな中、ホールフーズ・マーケットを買収して、米国、カナダ、英国にある460店舗とサプライチェーンを手に入れる道が開けた。本格的な参入に向けて、ついに勝負に出た感のあるアマゾンは、そもそもなぜ食料品にこだわっているのだろうか。

 食料品を取り扱うことは、もはや小売ビジネスの成長戦略には欠かせなくなっている。食料品は生活に必ず必要となるものであり、消費者が日常的に購入し続けなければならない数少ないアイテムの1つだからだ。

 事実、アマゾンとよく比較されることが多い、米小売業界最大手ウォルマートでも、食料品の売り上げが全体の売り上げの約半分を占めている。つまり小売業界で勝ち残るには食料品がカギとなるのだ。

 ではホールフーズ・マーケットを手にいれたことで、どんなことができるようになるのか。アマゾンで、ホールフーズ・マーケットの食料品を購入し、仕事帰りに近所にあるホールフーズの実店舗でピックアップできる。

 アマゾンの割引や特典を利用しながら買い物ができ、本や衣料品など別の商品もホールフーズ・マーケットで受け取ったり、返品が可能になる。もちろんデリバリーもしてくれる。

 消費者にとってはアマゾンは、何だってすぐに手に入る「ワンストップショップ」となるのだ。

●アマゾンの思惑

 現在、アマゾンが提供する生鮮食品デリバリーを利用するには、有料会員でなければならない。おそらくそれは今後も変わらないと見られている。つまり、ホールフーズ・マーケットなどと連携して食品分野を充実させれば、アマゾンの有料会員を増やすことができ、会員費からのもうけを増やすのに一役買うことになる。また相乗効果で食品とは関係のない他の商品の売り上げも増えることは間違いないだろう。

 アマゾンには、別の思惑もあるようだ。それは、プライベートブランドの有効活用だ。あまり知られていないが、アマゾンはコーヒーやベビーフードなど、自社の独自ブランド商品を展開している。

 2016年に密かにデビューしたアマゾンのプライベートブランド食品だが、自社ブランドなら価格を自由に設定でき、コストを省くこともでき、利益率が高い。ホールフーズ・マーケットの店頭で自社ブランド商品が扱われるようになれば、これまでに考えられなかった販路を拡大することができる。

 同様にホールフーズ・マーケットの自社商品もアマゾンで販売することができ、どちらにとってもメリットは多い。さらには、ホールフーズ・マーケットの高すぎる価格設定を改善させることも期待できるかもしれない。

 こうした要素以外に、やはり何と言ってもアマゾンにとって、「ホールフーズ・マーケット」のブランド力は魅力だ。ホールフーズといえば、オーガニック食品を取り扱うストアとして業界大手。オーガニック食品は、いま業界でトレンドになっており、売り上げも急激に伸びている。

 近年、スーパーマーケットの大手ブランドが、こぞってオーガニック食品の販売を強化しつつあるのはそのせいだ。ホールフーズ・マーケットのおかげでニッチだったはずのオーガニック食品にスポットライトが当たったのに、いまや逆にホールフーズが他社にシェアを奪われつつある状況になっている。

 それでも、オーガニック系スーパーとしてのホールフーズ・マーケットのブランド力はいまだに健在だ。引き続き成長が期待される470億ドル規模のオーガニック食品市場で、アマゾンが存在感を示すには、ホールフーズ・マーケットのブランドイメージは非常に有利に働くだろう。

●食品業界の常識を破壊していくのか

 この他にも、ホールフーズ・マーケットの買収で注目すべきことがある。それはホールフーズが出店しているロケーションだ。ホールフーズは、オーガニックやグルメな食材を求める人が比較的多い、都心部の富裕層が住むエリアを中心に店舗を構えている。

 実際に、全米440店舗のロケーションすべてを合わせると、米国の富裕層世帯の3分の1をカバーすることになるという。低価格を売りにしてきたアマゾンからすると、今までとはまったく違った環境の顧客層を手にすることになる。そうなれば、食品以外でも、さまざまな富裕層向けの商品をアピールすることもできる。

 アマゾンが、本やメディア、食料品業界などに進出していることで、ついつい忘れそうになるが、アマゾンはもともとIT企業だ。そしてアマゾンの技術力は、食品分野でも生かせることになる。

 アマゾンは現在、レジがなく、店内に設置されたセンサーやビデオカメラなどを使い、来店者が購入する商品を独自に認識し、直接アカウントに自動的に課金するという未来型の店舗「Amazon Go」の実用化を目指している。これがホールフーズ・マーケットで次々と実用化される可能性もある。

 ほかには、AI(人工知能)を搭載し、話しかけるだけで操作ができるスピーカーの「Amazon Echo(アマゾンエコー)」を開発している。アマゾンエコーを使えば、話しかけるだけでアマゾンから生鮮食品や日用品などを買うことができてしまうのだ。

 さらには2017年3月に米カリフォルニア州で初めてデリバリーを成功させたアマゾンのドローンが、注文してすぐに自宅までホールフーズのオーガニック食品を運んできてくれるだろう。

 これらの最新テクノロジーを使い、ホールフーズ・マーケットの店舗などで、よりシームレスなショッピング体験が可能になる。そして消費者の利便性はますます高まることになるだろう。

 とりあえずは、ホールフーズ・マーケットの買収で、リアル店舗を手にいれたアマゾンが、今後どのように食品業界の常識を破壊していくのか注目だ。

(藤井薫)