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若手社員を「成長の危機」から救い出そう――カギはマネジャーの「問いかけ」にあり

6/22(木) 11:19配信

ITmedia ビジネスオンライン

※この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。

 近年、若手社員の会社内での評判は、決して悪いものではありません。若手社員をメンバーに持つマネジャーへのインタビューから浮かび上がってくる若手社員像は、「まじめで優秀」であり、「自身のライフビジョン」をしっかりと持ち、社会への課題意識、社会貢献意識といった「社会志向」も高いというもの。また、同世代を中心にさまざまな人とフラットにつながるネットワーク力を持ち、就業後や休日も享楽的に過ごすのではなく、自己学習やNPO活動などに充てるなど、自分の時間を大切にしている傾向も浮かび上がります。

 こんなに意識と意欲の高い、前向きさを持っている自己充実型の若手社員たちが、一方では、報告や相談ができず、個性や欲求がなく、打たれ弱く、新たなことへのチャレンジに強い抵抗を示したり、自ら動こうとせず指示待ちだったりと指摘されています。

 このような不可解な状況を生み出している要因の1つは、近年の若手社員が持つ特性にあります。キーワードはリスク回避。ニート、ワーキングプア、格差社会……新たなキャリアリスクに社会的着目が集まった2004年を境に、若手社員のキャリア志向は、転職などを辞さないラジカルなものから、いかにリスクの少ない選択をするかというリスク回避的なものに大転換しました。

 就職活動に過度に注力するようになったのも、景気が悪いわけではないのに大手企業志向や公務員志向が高いのも、仕事において過度に失敗を恐れるようになっているのも、このようなリスク回避志向がベースにあります。社会に出ること、働くこと自体が、展望の明るいものではない、いいことが期待できるわけではない、という悲観的な思いがそのベースにあります。ブラック企業問題がこれほどまでに大きな社会問題となった一因は、若者のこうした心理的側面によるものです。

 しかし、本質的な課題は、企業の側にあります。彼らがリスク回避志向を強く持つに至ったのは、社会環境が変わり、個人の志向や価値観が変わりゆく中で、企業がその流れに逆行するような変容をしていたり、あるいは何も変わっていなかったりするからです。彼らは、その仕事や職場環境に強い違和感を抱き、働く意欲を失っているのです。ポイントは3つあります。

 1つ目は、仕事の変容です。市場の飽和に伴う業務の変化は、若手社員が担当する仕事の中身を質的に大きく変容させました。全体が高度化、複雑化したことで、1つの案件に関わる人数は激増し、それぞれが担当する仕事は細分化、マニュアル化されました。業務の全体像や本来の目的が見えず、自分のやっていることが、どのような価値を生み出しているかが実感できないのです。

 特に顕著なのが、仕事をした結果としてのフィードバック=手応えが得られないこと。大卒社員の約半数は「担当している仕事の結果や成果への反響や手応えがあるか」という調査質問に肯定的な返答をしていません。彼らは、全体像が見えず、視野狭窄(きょうさく)な中で、フィードバックが得られない仕事に違和感を抱き、モチベーションを激しく落とし、主体性を発揮する気力を失っているのです。

 2つ目は、職場の変容です。PCやモバイルといったツール、テクノロジーは、職場から会話や紙の資料といった1次情報を消し去りました。日本企業のお家芸であったOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)は、若手社員の学習に必要となる、良質の観察対象である1次情報が職場に満ちあふれていたことで機能していたのですが、それが消失したことで機能不全に陥っています。

 Web上に氾濫している膨大な2次情報は、目の前の仕事を片付けるためには多少は役に立ちますが、1次情報をもとに試行錯誤しながら作り上げていくことが必要である「仕事の型」作りには寄与しないため、若手は指示待ちから脱することができません。さらに追い打ちをかけるのが、上下関係を基本とした縦社会という日本企業の変わらぬ職場特性です。上意下達で文脈依存的なコミュニケーションに若手社員は違和感を抱え、すくんでいます。

 3つ目は、会社への幻滅です。今の若手社員は、強いリスク回避志向に押されて就職活動にそれなりの労力をかけ、選んだ会社のビジョンに共感し、自らが理想として考える社会人像やキャリアイメージを持って社会にデビューします。しかし、実際に働き始め、会社の実情に少しずつ触れていく中で、会社が掲げているビジョンがうわべだけのもののように思えてきます。手応えのない仕事、閉塞(へいそく)感に満ちた職場の中で、社会とのつながりを見失い、会社への幻滅を強く抱くようになるのです。

 彼らの何人かは会社を辞めていきますし、あるいは精神を病んでしまいます。しかし、そのような人は一部にすぎません。大半の人は、こうした状況を致し方なく受け入れ、今もその会社で普通に働いています。入社前に抱いていた会社、仕事への期待はもはやなく、職場でのコミュニケーションに抵抗があるまま、待ちの姿勢で、しかしまじめに仕事をこなしています。

 その状況で働き続けても、いい「仕事の型」はできないでしょう。仕事というものの面白さを知らないままに、長い職業人生を過ごすことになってしまいます。

 彼らは、成長の危機にひんしています。この状況を看過していいはずはありません。この問題の本質は、コミュニケーションにあります。リアリティーショックによって、伝わるものが伝わらなくなっている、見えるものが見えなくなっているのです。その難関から彼らを救い出すことができるのは、マネジャーに他なりません。

 若手社員は、入社当初には、その会社で携わる仕事を通して、社会に何らかの価値を提供し、貢献する姿を思い描いていたはずです。しかし、目の前の仕事、職場に埋没し、自身のキャリアビジョンはいつしか封印されてしまっています。自らが「今の仕事、職場では、自身は何も成長できない」というフィルターをかけてしまっているのです。

 しかし、彼らが担当している仕事の先には、顧客が、そして社会が必ずあります。フィルターを取り外し、今の仕事が、「社会とつながっている」ことを気づかせる、実感させることで、成長しない危機から救い出すことができるのです。

 有効なのは、キャリアインタビューです。この会社に入ってくるまでの彼らの思考や行動のプロセスに関し、問いかけを重ねることで引き出してあげてください。子どもの頃や中学、高校の時代、仕事や働くことについてどんなふうに感じていたか、就職活動を始めるときには、どんなことを思っていたか、そして、この会社とどのように出会ったのか、何に引かれて入社を決意したのか……。

 キャリアインタビューを通して、彼らは自身のキャリアビジョンを思い出します。また、キャリアインタビューを通じて、自身のキャリアに対する主体性を取り戻します。今の仕事の中でも、キャリアビジョンを実現できるのではないかと、試行錯誤を始めます。

 もちろん、キャリアインタビューだけですべてが解決するようなケースは決して多くないでしょう。大半のメンバーは、それだけではまだ指示待ちから脱することができません。しかし、日常のコミュニケーションにおいても、基本スタイルはキャリアインタビューと同じ。カギとなるのは「問いかけ」です。仕事の先にある顧客の存在や思いに気づかせる、意識させる。答えは決して言わずに、本人の口から言わせることで、その仕事の主人公は彼らである、と自覚させるのです。

 問いかけとは、自分で考えることを求めていくことでもあります。自分で考えろ、と命じるのではなく、問いかけを通じて、自分で考えることを促すのです。そしてそれは、決して若手社員を活性化させるためだけのアプローチではありません。変化が速く、不確実性の高い現代においては、メンバーの持てる力をフルに引き出すファシリタティブなリーダーが待望されます。そのファシリタティブ・リーダーのコアとなるのが、問いかけの力。若手社員を生かすことは、未来に通じるリーダーシップを発揮することなのです。

(豊田義博)

(ITmedia エグゼクティブ)