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社員の「クラシエに居てよかった」が成功の秘訣

6/22(木) 15:00配信

ニュースソクラ

「わが経営」を語る 石橋康哉クラシエホールディングス社長に聞く(3)

――成長軌道に乗るために、どのようなことをされたのですか。

 カネボウが経営に行き詰ったのは、直接にはカネが回らなくなったためですから、まず財務体質の強化です。350億円あった借金をまずゼロにする。その間は、社員に辛抱してもらいました。

 無借金は想定以上に早く達成できましたので、それからは人的投資、次いでマーケティング投資、これには研究開発も含みます。そして設備投資です。「会社が成長するには、この3つしかない」と言ってきました。

 人への投資は、教育も含めて頑張ったら、それだけのことが自分に返ってくるんだなと、みんなにわかるようにすることです。全社の慰安旅行の復活など諸々です。永年勤続表彰をやったり、ボーナスをきちんと出すようにしたりしました。

 次はマーケティング投資です。新しいブランドを作り、既存ブランドを強化する。これによって販売数量が増えますから、設備投資をする。この流れで、ぶれずにやってこれたかなと思います。

――それが成長につながれば、社員も誇りを持てますね。

 努力が報われて企業ブランドの価値も上がれば変わります。ボーナスが出たので旅行をしようかとか、今までファミリーレストランで安く済ませていたけど焼き肉を食べに行こうとか、家の中の景色も変わって行きます。

 それがクラシエにいて良かったにつながって、社員がまた頑張ってくれる。こうした好循環が、「クラシエ」で再スタートしてからの10年を支えてきたような気がします。

 物を作る人、研究する人、売る人、要はみんな人間でしょう。その人間が自ら頑張ろうと思うようにしていかないと、会社の持続的成長はないですよね。カネのためだけでなくて、自分がやっている仕事が周りから認められることも重要な動機付けです。

 このため社員表彰などで、会社は君の努力をわかっているよと伝えたいんです。会社と社員はお互いに認め合うキャッチボールをしているようなものだと思います。

 長年、人事をやっていて、いつも思ったのは、会社を辞める人はいろんな理由がありますが、1つだけ共通するのは、この会社には自分の居場所がないと思っている点です。意欲を引き出すには、君の居場所はあるんだよと、こちらからも発信して、本人に理解してもらう必要があります。

 社員表彰では、スタープレーヤーが目立つのは当然ですが、私が本当にやりたいのは、目立たないけど、当たり前のことを当たり前にやってくれている人たちを表彰することです。例えば、工場での品質管理を毎日、黙々とやっている人です。おかげでクラシエの品質が維持されているわけでしょう。またお客様相談室で、クレームの電話を受ける人たちも大変ですよ。

――そうした社員を実際に表彰しているのですか。

 営業ですごい業績を上げたような人とともに表彰しています。地味ですが、その人たちがいなかったら会社は成り立ちません。そういう人たちにスポットライトを当てて、あなたたちは会社から高く評価されているんですよと伝えることは、大いに意味があると思うんです。

 表彰されて家に帰れば、「お父さんは会社で重要だと思われているんだね」と家族が認める一つの証明になります。同じ仕事をしている人たちも、一緒に評価されたように思うでしょ。表彰を受けた人は「私だけでなく、私たちの部署が表彰されたのだと思います」というスピーチをします。こうした積み重ねを一生懸命してきたつもりです。

――今、社員は何人ですか。

 パートさんや派遣の方を入れて2200人くらいです。クラシエになってから入って、カネボウ時代を知らない人の方が多いですね。10年という歳月は恐ろしいですね。パートさんや派遣社員が多いので回転が速いということもありますが、私はみんな同じ社員だと思っています。

――「クラシエ」という企業ブランドの認知度はどのくらいになりますか。

 「クラシエ」と言ったら、「聞いたことがある会社だね」ということなら、70から80%くらいはあるだろうと思います。でも「フリスク」(ミント味のタブレット菓子)の会社だねとか、シャンプーなどの「ナイーブ」を出している会社だねと、商品と結び付けて認知してほしいのですが、それはまだまだ低いですね。

 以前は「カネボウ」と言えば説明不要でした。それが当たり前でないことが、会社がつぶれて初めて気づきました。「クラシエ」で、もう一度通るようにする10年でした。しかし当たり前でないことが、まだいっぱいありますけどね。

――カネボウ本体は120年で消えました。行動指針に「つぎの100年を刻む」とありますが。

 100年たったときに、前のカネボウより、世の中に知られていていい会社になっていれば、私たちの勝ちです。10年やそこらでは、120年続いた会社に勝てるわけがない。先は長いですが、10年を10回続けたら、100年です。

 10年先の仲間のために、私たちは今何をすべきでしょうか。社員も社長も、同じ仕事を10年以上やることは無いですからね。私は社長になったときから、いつかは後継者が新たに社長をやるわけなので、その人がやりやすいように社長の仕事を変えておかなければ駄目だと思ってきました。

 社員にも、10年後にあなたの仕事をする後輩のために、もっとやりやすく、やりがいのある仕事にしようという思いを持って、働いてくださいと言っています。クラシエの社員がみんな、そう考えるようになれば、会社は永遠に続くと思っているんです。

(次号に続く)

■聞き手 森 一夫:「わが経営」を語る(経済ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1950年東京都生まれ。72年早稲田大学政経学部卒。日本経済新聞社入社、産業部、日経BP社日経ビジネス副編集長、編集委員兼論説委員、コロンビア大学東アジア研究所、日本経済経営研究所客員研究員、特別編集委員兼論説委員を歴任。著書に「日本の経営」(日経文庫)、「中村邦夫『幸之助神話』を壊した男」(日経ビジネス人文庫)など。

最終更新:6/22(木) 15:00
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