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残業ゼロにチャレンジした結果、現場に残ったもの

6/23(金) 6:10配信

@IT

 みなさんの会社では、「長時間労働の抑止」や「残業ゼロ」が話題に上がることはありますか。

 いわゆる「働き方改革」の一環で、残業時間を減らす取り組みをする企業が増えてきました。厚生労働省は2020年をめどに、従業員の残業時間の公表を大企業に義務付ける方針で、従わなければ処分を受けるそうです。

 ある会社は、定時を過ぎると、残業申請していない社員のPCを強制的にシャットダウンするそうです。正直「そこまでやるかー」と感じます。

 また、先日知人から聞いた話によれば、「無理な残業時間の抑制のしわ寄せが社員にきている」とか。何でも、知人の会社が入ったビルの1Fにカフェがあるのですが、20時を過ぎるとカフェがにぎわうのだそうです。

 「会社で残業ができないから、みんなカフェで仕事をしているんですよ」

 長時間労働の風当たりが強い昨今。人事や労務担当者の気持ちも分かります。けれども、エンジニアは忙しい仕事です。そのしわ寄せが現場にきて、頭を抱えていませんか。

 何とかならないものでしょうか。

●「残業ゼロ」と言う上層部と「何とかしろ」と言うユーザー

 私も以前、強制的に「残業ゼロ」にさせられた経験があります。ある会社の情報システム部で、プログラマーとして常駐していたときの話です。

 当時私は、ユーザーから寄せられる改善要望に対応したり、不具合を修正したりする仕事をしていました。情報システム部のモットーは「ユーザー第一」。「寄せられるユーザーの要望にはできるだけ応える」ことが、私たちに与えられていたミッションでした。

 ユーザーからの改善要望は絶えずあり、「案件を片付けても、片付けてもたまっていく」という状態でした。現場は常に忙しく、仕事を終えて会社を出るのが夜遅くなることも、しばしばありました。

 そんなときです。常駐先の上層部から「来月から残業をゼロにします」と言われたのは。何でも、常駐先企業の業績が予定よりも思わしくなく、一時的にコスト削減をする必要があるとのこと。

 「改善要望がこんなにあるのに、残業ゼロなんて無理だよ」……開発現場にとっては、正直「ムチャぶり」です。けれども、顧客の方針ですし、逆らうわけにもいきません。

 一方、突然「残業ゼロ」と言われても、ユーザーの改善要求は減りません。「オレたちの仕事をやりやすくするのが情報システム部の仕事だろう」と言わんばかりです。

 上層部は「残業ゼロ」と言うし、ユーザーは「何とかしろ」と言う……そのはざまで、正直、困ってしまいました。これをクリアするためには、ユーザーの改善要望を断るしかありません。

 でも、ユーザーに「できません」と断るのも嫌なものです。しかも私たちは外部の人間なので、ユーザーに強く言うのがなかなか難しかったのです。

●管理されていない案件管理

 とはいえ、現状のままでは残業ゼロを達成できません。重要度や優先順位を決めて、案件を削っていくしかありません。そこで、まずは「どんな案件があるのか」をあらためて整理することから始めました。

 それまでは、案件をExcelシートに記載して管理していました。

1. 案件が発生したらExcelシートに書き込む。開発メンバー以外に、ユーザーから問い合わせを受けた運用メンバーが書き込むこともある
2. 開発メンバーがそれぞれ、自分が関係していそうな案件を見つけて、自身の判断でどの案件から取り組むかを決める
3. システムを開発し、リリースしたら消し込む

 情報システム部全体で案件を共有していたというよりも、担当者個々人が判断する運用だったため、案件全体のボリューム感をつかんでいる人がいませんでした。また、リストのメンテナンスが行き届いておらず、何がどこまで終わっているのかが正しく把握されていませんでした。

 「今、何をすべきなのか」が明確でないために、取りあえず残業で回していたのです。

 残業ゼロに取り組むためには、個々人の努力よりも情報システム部全体で何とかしなければならないことが分かりました。そこで、「案件の優先順位を決め、開発するかしないかを判断する会議」を作りました。また、誰もが案件や優先順位を共有できるよう、「Webベースの案件管理システムを入れよう」と上層部に提案しました。

 プロパーの社員を会議体に巻き込んだり、案件管理の仕組みを変えたりするのは容易ではありませんでした。一部のプロパーからは「何でこんなことをしなくちゃいけないんだ」という反発もありました。けれども、これらをしなければ残業ゼロなど実現できません。会議の必要性を説明したり、案件管理システムのデモ環境を作って実際に見せたりしながら、その意味を説いて回りました。

 「何で外注の私がこんなことをしなくちゃいけないんだ?」とも、正直思いましたけどね。

 軌道に乗るまで半年ほどかかりましたが、会議体を作り、新しい案件管理の運用が始まったら、「今、何をすべきなのか」が分かり、情報システム部みんなで共有できるようになりました。開発しないと決まった案件も、個人の判断ではなく情報システム部の総意としたので、ユーザーに説明しやすくなりました。

 ちょうどそのころです。常駐先の業績が回復し、「残業OK」に変わったのは。

 「もう、遅いよ!」と思いました。しかし同時に、「今までの残業しなければ回らない仕事のやり方は、あれはあれで問題だったな」とも思いました。

 現場には「残業しなくても仕事ができる仕組み」が残りました。

●「残業ゼロ」を「業務プロセスを見直す」を業務改善のきっかけに

 社会全体で長時間労働が問題視されているのは、良い流れだと思います。

 でも、現場を無視した無理な残業カットはあまり良いことだと思いません。また、「長時間労働を未然に防ぎ、健康に働くこと」のために残業を減らすはずなのに、「残業時間を減らすこと」だけが目的になって、しわ寄せを労働者が被っていては本末転倒です。

 だからといって、社会や会社の大きな変革期には、私たちの「現場の声」は届きにくい実情もあります。

 一見ムチャぶりに思えた私の「残業ゼロ体験」は、当たり前だと思っていた仕事を疑い、「本当にいるもの」と「いらないもの」を分け、業務プロセスをゼロから見直す、いいきっかけになりました。

 現場を無視した会社のムチャぶりには、一言言いたくなることもたくさんあると思いますが、これを「仕事の負担を減らし、残業しなくてもよくする仕組み作り」と捉えなおしてみてはどうでしょうか。

 働き方改革が、単なる残業時間の抑制ではなく、業務プロセスを見直すきっかけになるといいですね。

●今回のワーク

 静かな場所に行って、コーヒーでも飲みながら、紙とペンを取り出して考えてみてください。


1. あなたの職場で、長時間労働の未然防止の取り組みがあったら、「そもそも、何のために」が明確になっているか、「残業時間を減らすこと」だけが目的になっていないかを確認してください
2. 「残業をしない」を前提条件に、「どうすれば残業ゼロが実現できるか」を、気の合う同僚と話してみてください。

●筆者プロフィール

しごとのみらい理事長 竹内義晴

「仕事」の中で起こる問題を、コミュニケーションとコミュニティの力で解決するコミュニケーショントレーナー。企業研修や、コミュニケーション心理学のトレーニングを行う他、ビジネスパーソンのコーチング、カウンセリングに従事している。著書「感情スイッチを切りかえれば、すべての仕事がうまくいく。(すばる舎)」「うまく伝わらない人のためのコミュニケーション改善マニュアル(秀和システム)」「職場がツライを変える会話のチカラ(こう書房)」「イラッとしたときのあたまとこころの整理術(ベストブック)」「『じぶん設計図』で人生を思いのままにデザインする。(秀和システム)」など。

最終更新:6/23(金) 6:10
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