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【オーストラリア】【有為転変】第112回 豪州をカネで操る中国

6/23(金) 11:30配信

NNA

 中国人富豪が政治献金を通じて政界人脈に入り込む手法が、オーストラリア国内を揺るがしている。これが単なる政治献金にとどまらないのは、そうした中国人たちが、中国の共産党政府と密接なつながりがあるとされるためだ。またオーストラリアの諜報機関が、中国人スパイに潜入されていたことも明らかになっている。オーストラリアの政策が、中国に水面下で影響を受けているということだ。まさかとは思うが、オーストラリアの新型潜水艦入札でも、もしかすると――。
 ■豪政界に多額の中国献金
 最近、筆者が知り合った複数のオーストラリア人が、こちらが日本人記者だと知ると、「フォー・コーナーズ(公共放送ABCの特集番組)を見たか?」と、全く同じことを聞いてきたことがあった。
 この番組は、同番組取材班とフェアファクスの共同取材で、保守連合と労働党が、不動産デベロッパー玉湖集団の黄向墨会長と、僑キン(金が3つ)集団の周沢栄会長という中国人億万長者2人などから過去10年間で合わせて約670万豪ドル(約5億6,300万円)の献金を受けていた、などという内容だ。
 それだけではない。オーストラリア安全諜報機関(ASIO)幹部の妻、シェリー・ヤン(米国で汚職で逮捕)に、中国人スパイ容疑が強まったという。シェリーはオーストラリア国内の中国人社交界では重要人物で、オーストラリア政界に多士済々の人脈を持っていた。キャンベラの自宅からは、重要機密ファイルが見つかったという。
 先の番組が、一般人にも衝撃を与えたのは、放映された直後、オーストラリア政界が迅速に反応したことからも分かる。
 ターンブル首相は、中国のスパイによる国内政策への影響を念頭に、徹底的な調査を指示し、外国からの政策介入阻止を目的とした法律を見直す方針だ。米国のように、外国からの政治献金を全面的に禁止する可能性もある。
 また番組放映後、同様の情報が芋づる式に出てきた。労働党に多額の政治献金を行っていた中国出身の実業家が、中国の諜報機関幹部とつながりがあったことが判明したり、昨年の総選挙前に、労働党は別の中国人実業家から、12万豪ドルに上る政治献金を受け取り、その実業家を上院議員候補にしていたことなどだ。
 ■反日デモ組織の中国人アドバイザー
 実は、この手の話は目新しいものではない。
 ASIOのダンカン・ルイス長官は2年前の2015年時点で既に、中国からの政治献金がオーストラリアの政策に影響を与えるリスクがあるとして両政党に警告してきた。両政党はそれを無視する形で、出所が不明の計100万豪ドルをその後も受け取り続けてきた、という。
 昨年末、中国に便宜供与していたことが判明して党幹部から退いた労働党のサム・ダスティヤリ上院議員は、先の黄会長のオーストラリア国籍取得を支援するために移民局に4度も口利きしていたことが発覚。また同党のローゼンダール上院議員は、議員ポストを中国系のアーネスト・ウォン議員に譲った後、黄会長の玉湖集団に「天下り」していたことも分かった。
 労働党だけではない。驚かされるのは、豪中自由貿易協定(FTA)をとりまとめた自由党のアンドリュー・ロブ前貿易相が、中国のエネルギー・インフラ企業、嵐橋集団(ランドブリッジ)から年間88万豪ドルものコンサル業務委託料を受け取り、貿易相在任中にも玉湖集団から政治献金を受け取っていたことだ。
 以前この連載でも取り上げたが(第97、98回「ダーウィン港管理の失態(上・下)」)、嵐橋集団はオーストラリア海軍だけでなく米国海軍も利用するダーウィン港運営権を落札した企業である。戦略上極めて重要な港の運営権を中国人民解放軍と密接な関係にある中国企業が得たことに、米国も不満を伝えていた。だが、この時の嵐橋集団の落札自体に、政府要職にあったロブ氏が関与していた疑いが今になって浮上しているのだ。
 まだある。自由党のクレイグ・ロンディー副産業相が、共産党と密接なつながりを持つ中国人アドバイザーを「雇って」いることが分かっている。このアドバイザーは、日本の安倍首相が靖国神社に参拝したことに抗議する反日デモをシドニーで展開。中国と韓国の国旗を振るアドバイザーの横でロンディー副産業相も同調し、反日的な発言やチベット解放活動に反対する発言をしていたことが分かっている。こうした国内政治家への中国侵食の例を挙げればきりがないほどだ。
 ■新型潜水艦入札でも?
 筆者がもう一つ気になっているのは、くしくも先の番組が放映されたのと同日、6月5日に報道された全く別の記事である。
 オーストラリアの新型潜水艦建造入札で、米国防省は当時、日米豪同盟の戦略的見地から日本のそうりゅう型潜水艦を勧めたが、ターンブル政権は米国の意見を聞かなかった、というニュースである。
 米シーライト元国防副次官補によると、日米豪3カ国は当時、そうりゅう型潜水艦で共同訓練を行っていたほか、中国も潜水艦を積極的に建造している中で、オーストラリアが、戦略的観点は二の次だとしてフランスを選んだのは「国防省にはショックだった」としている。
 フランスが受注した際、中国政府は快哉を叫んだと言われている。当時は、中国からの豪2大政党へのロビー活動が最も活発な時期だったと思われる。
 果たして新型潜水艦入札でも、中国の圧力が奏功したのかどうか。少なくとも言えるのは、それを一笑に付すことはできないということだろう。
 (NNA豪州編集長・西原哲也)

最終更新:6/23(金) 11:30
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