ここから本文です

「只見線」「南阿蘇鉄道」の復旧が遅れた“原因”は何か

6/23(金) 7:10配信

ITmedia ビジネスオンライン

 6月18日、JR西日本の豪華寝台列車「トワイライトエクスプレス瑞風」が最初のクルーズを無事終了した。翌19日、JR西日本社長の定例会見で、廉価な長距離列車の導入が発表された。これで、富裕層にも庶民にも新たな旅の機会が提案された。JR西日本は粋なことをする。今週は大手メディアでも話題になった。

【JR只見線の不通区間】

 その陰に隠れてしまったけれど、被災し長期間不通となっている路線について、重要な報道があった。福島県のJR只見線、熊本県の南阿蘇鉄道だ。只見線は2021年度の復旧目標を確定。南阿蘇鉄道は枠組みの決定が示され、22年度の復旧目標となった。どちらもようやく復旧の道筋ができた。

 特に、只見線は6年越しの地元の悲願だった。諦めずに沿線自治体の足並みをそろえ、粘り強く交渉し続けた結果だ。南阿蘇鉄道は政府の観光立国政策に寄与する上に、全国から寄せられた支援も功を奏したことだろう。鉄道ファンとして本当にうれしい。

 ところで、只見線が被災した2011年7月の新潟・福島豪雨について、道路については直ちに復旧工事に着手された。只見線沿線を含む会津地区では、1年後に道路と道路橋の88%で工事に着手、そのうち49%で工事が完了している。この数字は順調に上昇しており、15年12月に100%工事完了となった。被災から約4年半が経過し、河川、砂防、道路などの復旧案件のうち、道路が最も遅かった。

 最も遅く復旧した道路より、鉄道の復旧は遅れた。この間、只見線についてはJR東日本などの調査が行われただけだ。現在まで着工に至っていない。地元自治体が復旧予算と復旧後の支援策をまとめ、JR東日本が運行再開に了承したばかりである。道路と鉄道。どちらも公共交通であり、必要な人がいる。需要の差はあるとはいえ、ライフラインだ。自治体が粘り強く交渉を維持しなければ、鉄道は廃止されるところだった。これほど差があっていいものか。

●黒字の鉄道会社は国の支援を得られない

 なぜ道路はすぐ復旧に着手できたのに、鉄道はできなかったか。道路は自治体が保有しており、国の復旧支援が得られた。しかし、鉄道はJR東日本という民間企業が保有している。JR東日本の経営構造は、首都圏の鉄道網と新幹線などの黒字によって、赤字ローカル線を支える形だ。只見線は赤字だけれど、JR東日本としては黒字。国としては、黒字の民間企業に対して公的資金による支援はできない。

 災害という非常事態だから、この建前を崩してもいいではないか、と思う。しかし、政策は特例を前例にしてしまうものだ。今後、黒字の企業に公的資金をつぎ込むようになる。それは利権や不正の温床になるかもしれない。国の倫理観として、この線は絶対に守るべき、という考え方は理解できる。

 一方、JR東日本は株式上場会社だ。民間から出資を受け配当する立場として、利益を生まない事業は継続できない。赤字になると分かっている路線に投資して復旧させる道理はない。これは東日本大震災における山田線、気仙沼線、大船渡線被災区間と同じ状況だ。

 東日本大震災のとき、当時のJR東日本社長は「公共交通機関の責任として復旧させる」とカッコいい発言をしたけれど、その後は言及しなかった。社長交代後、JR東日本は復旧方針を撤回し、BRT(バス高速輸送システム)を推進した。公共交通機関の責任より、投資家に利益を保証する責任の方が重かった。これは当然の選択で、JR東日本には「前社長がうっかり口をすべらせた」以上の責任はない。

 これはJR東日本に限ったことではない。地方鉄道も同様だ。例えば、茨城県のひたちなか海浜鉄道は、茨城交通から湊線を分社化して設立された。茨城交通に対して支援するより、明確に湊線を支援する枠組みが必要だったからだ。茨城交通湊線のままではダメだった。長野県の上田電鉄も同じ。鉄道部門の公的支援を明確化するため、上田交通から分社化した。島根県の一畑電鉄も同じ経緯で鉄道部門を一畑電車に分社化している。

 公的支援を受けて鉄道路線を維持したいなら、JR東日本も赤字路線を分社化すればいい。親会社が黒字ではダメだというなら、資本関係も解消すべきだ。つまり事業撤退である。鉄道を残すために事業を撤退する。それも公共交通機関の責任といえる。その考え方で、JR東日本は岩手県の山田線の海岸区間を手放し、三陸鉄道に移管させる枠組みに。近畿日本鉄道の赤字路線の経営移管もこの手法に似ている。

 只見線について福島県とJR東日本が交わした基本合意書を見ると、JR東日本は福島県に被災区間の鉄道施設を譲渡する。JR東日本は車両を用意し、列車の運行と営業を行う。つまり上下分離となった。JR東日本は福島県に対して、線路施設使用料を支払う。ただし、その支払いによって列車の運行が維持できない場合は使用料を減免される。

 また、線路施設の維持管理は、福島県からJR東日本に対して「維持管理に関わる業務の委託要請があった場合は、業務内容等について別途協議」となった。福島県としては線路施設を得たとしても、維持管理の経験がない。JR東日本など専門事業者に委託する必要があり、これも運行支援策の1つになるだろう。こうして、民間事業のJR東日本は、なるべく負担が少ない形で鉄道の復活に応じた。

●南阿蘇鉄道は負担なしで全線復旧へ

 南阿蘇鉄道は第三セクターであり赤字経営だ。熊本地震は激甚災害に指定されたため、復旧にあたり国の支援も受けられる。所轄官庁は国土交通省だから、すぐに支援策がまとめられる……とはならず、1年かかった。道路については、2016年7月に阿蘇大橋の架け替えと国道57号線の北側移設が発表されている。それから約1年後、ようやく南阿蘇鉄道の復旧の枠組みがまとまりつつある。

 6月13日の産経新聞の記事によると、政府が復旧費の9割以上を補助する支援策を検討している。国土交通省は早ければ22年度の全線復旧を目指し、関係省庁や地元と調整を進めるという。支援に当たっては、路線の維持と経営安定策が必要となり、上下分離化する方針だ。

 これは東日本大震災における三陸鉄道の復旧の枠組みと同じ。多くの関係者と鉄道ファンが、三陸鉄道のような復旧の枠組みを求めていた。同日の西日本新聞の記事では、数字を詳しく報道している。国の補助率を通常の25%から50%に引き上げ、残り50%の自治体負担分についても、その9割を「補助災害復旧事業債」とし、国の地方交付税交付金で償還する。これで、自治体負担は総額の2.5%、約1億6000万円となり、南阿蘇鉄道の負担はない。

 三陸鉄道の手順を準用すると決めたら、すぐに発表、着手してほしかった。しかし、そう簡単にはいかない。その理由は、国土交通省に鉄道復旧の財源がないからだ。産経新聞の記事にある「関係省庁」について、西日本新聞では「財務省と総務省」と明記されている。お金に関しては財務省、自治体絡みの事業の枠組み、法令整備は総務省が承諾しないと進まない。6月14日の熊本日日新聞は「財務省は特例措置の導入に当たり、復旧後の同鉄道の持続可能な経営見通しを要求」とハッキリ書いた。

●鉄道特別会計がないから復旧の機動力がない

 国土交通省が「やりたい」と即決しようにも、財務省に資金をお願いしなくてはいけない。道路より鉄道の復旧が遅れる理由の1つは、この手続きに時間がかかるせいだ。公共交通の重要性としての認識の差もあるけれど、“カネと手続き”という要因も大きい。国土交通省は、鉄道に関して機動的に使える資金がない。

 他の交通手段、空港、港湾、道路については、国土交通省が機動的に使える予算がある。その背景は既に解体された特別会計にある。空港に関しては1970年度から空港整備特別会計が設置され、道路については1958年度に道路整備特別会計が設置された。港湾も同様だ。このうち、道路整備、港湾などについては、社会資本整備事業特別会計に統合されたのち廃止。空港特別会計は縮小して自動車安全特別会計に統合された。

 これら特別会計は国土交通省が所管するお財布であった。その中に鉄道はない。特別会計は、国の収益のうち、目的と使途が明確なものについては一般会計とは別に管理する仕組みだ。空港整備特別会計は空港の着陸料収入などを財源とし、道路整備特別会計は揮発油税などを財源とした。これらは目的の範囲内で国土交通省が運用できる。しかし、2005年に閣議決定された行政改革の重要方針によって、特別会計は縮小、廃止となった。

 それでも、特会の実績は国土交通省の予算要求に色濃く残っている。鉄道については特別会計がなく、実績もないため、国土交通省の裁量予算は少ない。新幹線整備費用などが取り沙汰されるけれど、空港予算、道路予算に比べれば、鉄道整備予算は微々たるものだ。国はもっと鉄道整備にお金を使ってもいい。極論すれば、道路予算、空港予算並みに鉄道の予算があれば、赤字の地方ローカル線の維持、JR北海道の経営危機は全て解決できる。

●国鉄の遺恨を捨てて予算を増やせ

 なぜ、鉄道には特別会計がないか。いや、特別会計のようなものはあった。日本国有鉄道だ。日本の幹線鉄道交通を所管し、民間では維持できないローカル線を維持し続けた国鉄こそ、鉄道特別会計の役割を代替する存在だった。そう考えると、国鉄の破綻は日本にとって、鉄道交通の地位をおとしめる大事件だった。いまさら悔やんでも仕方ないけれど、鉄道の災害復旧が進まない理由も、遠回しには国鉄の因果である。

 いまさら鉄道特別会計を作るなどできない。しかし、国土交通省に鉄道整備予算が乏しいという現実はある。鉄道整備のために財務省にお伺いを立てれば、国土交通省には空港・道路含みでたくさん予算を配分したから、そこで融通してくれ、となる。それでは国土交通省内部で調整できるかというと、道路は旧建設省の所管であり旧運輸省の鉄道に融通するつもりはなく、旧運輸省同士の空港も行革で民営化に向かっており、鉄道まで面倒を見ていられない。

 踏切の解消1つとっても道路寄り、自動車交通優先で行われる。鉄道はふびんだ。政府は鉄道の位置付けを上げていく必要がある。日本は新幹線の海外進出のために闘っているけれど、この状態ではなんとも心もとない。国鉄の負の遺産は忘れて、もっと鉄道の整備と維持、技術開発に予算を分配すべきではないか。


(杉山淳一)