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気乗りしない林信行に無理矢理「Synology NAS」を送りつけた結果

6/24(土) 10:38配信

ITmedia PC USER

 最近、テクノロジー製品に興味が湧かない。正直、このレビューの仕事を受けたときも気乗りがしなかった。製品を開封しセットアップしたのは届いてから6週間後。「そろそろ、原稿を待つのは限界です」というメールが届いたためだ。しかし、セットアップし始めて2分で製品に惚れ込んだ。これはネットワークストレージの革命かもしれない。

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●開封2分後に走った衝撃

 ITmediaの編集Gに「Synology(シノロジー)という面白いNAS(ネットワーク接続型HDD)があるのでレビューしませんか」と誘われたのは3月ごろだ。

 NASというのは、HDD(やSSD)をパソコンに直接ではなく、家庭やオフィスのネットワークケーブルにつないで、同じネットワーク上のパソコンやスマートフォンから利用できるようにする製品のこと。言って見れば自前クラウドを作ってしまう製品だ。筆者宅でも現役のTime Capsuleがあり、その前にもいくつかの製品を使ってきた。

 編集Gには、これまでいろいろ迷惑をかけてきたこともあり、断りきれずにレビューを引き受けてしまったが、正直そんな“渋い製品”のレビューにはそれほどノリ気になれなかった。

 機材が届いたのは4月始めでヨーロッパ出張中。届いていたことに気がつくまでに3週間、そこから重い腰をあげて製品を開封したのはさらに3週間後。「そろそろ、原稿を待つのは限界です」というメールが届いてからさらに数日が経った後だった。

 一部では有名な製品らしいが、最近、テクノロジー製品に心がトキめかず、まったく情報も追っていない。Synologyについても、貸し出し前に、検索をしていくつかレビュー記事を見たが、正直興味は湧かなかった。

 しかし、製品の箱を開いて2分ほどで印象が180度変わった。

 まず、ありきたりの段ボールのパッケージと、その中から取り出した、よくある白いプラスチックのボディーや黒く巨大なACアダプターを見たときには幻滅して、「無理をしてでも断ればよかった・・・・・・」と心が暗くなった。

 しかし、電源を入れて設定をしようとしたときに事件が起きた。

 家庭内あるいはオフィス内といった屋内ネットワークに接続するHDD、NAS(Network Attached Storage)は、パソコンやスマートフォンのようなディスプレイがないため初期設定が面倒なことが多い。分厚い付属マニュアルのページをパラパラと飛ばして「初期設定、初期設定…・・・」とその製品ならではの設定方法を探し、そこから10~20分コースが通例だ。

 しかし、「Synology」に付属するマニュアルはA4用紙を3つ折りにした薄い紙切れ1枚だけで、そこにはWebブラウザに「find.synology.com」というURLを打ち込め、という指示だけ。

 「なるほどWebでマニュアルを読めということか。それとも専用の設定ソフトをダウンロードしろということか」と思っていた。しかし、違った。

 URLにアクセスすると、ブラウザ画面いっぱいに何かを検索中と訴えるような虫眼鏡のアニメーションが現れて、しばらくすると「あなたのSynologyを見つけました」というメッセージが表示された。この瞬間に衝撃が走った。「この製品は、これまで知っていたNASとは全然違いそうだ」と、久しぶりにワクワクしてきた。

 何に衝撃を受けたのか、詳しくない人のために少しだけ解説させてほしい。NASの最初の設定でやっかいなことの1つは、突如あなたのネットワークにNASが加わっても、あなたのパソコンはそんなこと知る由もないということだ。

 NASにもIPアドレスというアドレスが割り振られるが、大抵はルーターによって適当なアドレスが割り振られるので、メーカーがどんなアドレスになるかをあらかじめマニュアルに印刷しておくこともできない。パソコンからネットワーク経由でNASにアクセスすることが第一関門となる。

 多くの他製品では、専用アプリケーションをダウンロード/インストールさせて探索用の通信技術を使って見つけさせている。中には製品に屋内ネットワークだけで通用する固定の文字アドレス(ローカルドメイン名)を組み込んでいる会社もあり、この場合はWebブラウザやmacOS/Windowsのネットワークドライブの「追加/接続」メニューにこれを打ち込めば接続できる。ただし、大量生産品にWatson、Adams、Jefferson…・・・などと分かりやすい名前をつけることもできないので、大概は製品を表す数文字+シリアル番号となっている。たった1度のこととは言え、長いシリアル番号の数字を確認しながら打ち込むのは面倒な作業だ。

 ところがSynologyは、こうした従来のやり方の常識を打ち壊した。難しいことは一切忘れて、Webブラウザに「find.synology.com」と打ち込むだけ。これはなかなか画期的だ。

 そして、こうした細かい部分の作り込みは、IT系の媒体にありがちな、「私は客観的です」を装わないといけない四角四面なレビュー記事(失礼!)ではなかなか伝わりにくいかもしれない。

 課題解決の工夫(=デザイン)を重視し、型よりも伝えることを重視したレビュー記事を書く筆者のほうが、この製品の魅力を伝えやすいから筆者に頼んだんだ、と編集Gの狙いも読めてきた。

 ただし、ここで1つ注意しておこう。後になって気が付いたのだが、実際にこの製品を買ったすべての人が2分でこの衝撃を味わえるわけではない。筆者が貸し出しを受けた製品はあらかじめHDDが組み込まれた状態で送られてきていたが、実際のSynology DiskStation DS216jにはディスクが入っておらず、本当の第一ステップは開封後、別途購入したHDDを取り付けることから始まるので、実際にはその作業時間として5~10分が追加される。

 Synologyには筆者と同じ衝撃を多くの人に味わってもらうためにもディスク内蔵の初心者キットをぜひ販売してもらいたいと思う。もっとも、初期設定の簡単さはSynologyの魅力の氷山の一角でしかない。

●スマホからも簡単設定できるNAS

 「初期設定なんて1度きりのことじゃないか」と思う人もいるだろう。しかし、NASでは事情が異なる。もし、家にパソコンが1台しかないならHDDはUSBなどで直接接続するのが手っ取り早く、価格も安い。

 そうではなく、NASを使うということは、家に複数のデジタル機器があり、そのそれぞれからHDD上の情報にアクセスをしたいからだ。ということは、使っているデジタル機器の数だけ初期設定が必要になる。新たにスマートフォンやパソコンを購入したときにも再び初期設定はやってくる。その度に毎回専用アプリケーションをインストールし直したり、NAS本体の前まで行ってシリアル番号を調べ直す手間がないのはそれだけで大きな価値だ。

 ちなみにWebブラウザから初期設定ができるということはつまり、パソコンを持っていなくてもスマートフォンやタブレットからも初期設定ができるということでもある。試しにiPadやiPhoneのSafariに「find.synology.com」と打ち込むと、パソコン同様にきちんと本体を認識してくれた。今後、何か不調があったときも、わざわざパソコンのところまで行かずともポケットからスマートフォンを取り出して状態をチェックできる。

 Synologyの初期設定は上述したURLにアクセスしいくつかの質問に答えていくだけで簡単に完了する。設定したIDとパスワードを入力すればMacやWindowsパソコンにネットワークドライブとして表示される。

 このとき、QuickConnectというIDを登録すれば、自宅やオフィスにおきっぱなしのSynologyに保存したファイルや写真に、外出先からアクセスできる。やり方は簡単で、取引先で借りたパソコンやホテルの共有パソコンのWebブラウザから「http://QuickConnect.to/あなたのID」にアクセスしてIDとパスワードを入れればよい(このとき、IDとパスワードが保存されないようにブラウザのプライベートモードやシークレットモードを使うといい)。

 もちろん、スマートフォンやタブレットを使って外出先からSynology NASにアクセスすることもできる。ただし、スマートフォンは、パソコン用ファイルなどを開くのが得意ではないので、Synologyは「DS File」というアプリを用意している。これを使えばZIP圧縮したファイルを解凍したり、PDFファイルなどの中身を確認したりもできる。驚いたのはiPhone版の「DS File」で、PowerPointやKeynoteのファイルの中身まで確認できることだ(もちろん、「このプログラムで開く」というメニューを選んでiPhone版Keynoteで開くこともできる)。

 iCloudやOneDrive、Google PhotoなどOSメーカーのオンラインストレージの使い勝手にはかなわないが、なかなかよくできていて、Dropboxなど他社製クラウドサービスと比べて遜色がないくらい簡単に使える。しかも、このクラウド上のファイルが、どこか知らないサーバではなく、自宅やオフィスに置いてあるSynologyのディスク内に収まっているというのは何か特別な感じだ。

●豊富なアプリで使いやすさが進化するNAS

 Synologyのアプリはこれだけではなく、スマートフォンでSynologyにアクセスすると、先に紹介したDS Fileを含め、DS Audio、DS Cam、DS Cloud、DS Get、DS Note、DS Photo、DS Video、DS Chat、DS Mailといったアプリが用意されている。これまたSynologyのすごいところだ。

 DS PhotoはSynologyが用意した写真表示とバックアップのためのアプリだ。Synologyの「Photo」フォルダに写真があれば、それを一覧表示してくれるのに加え、iPhone上で選択した写真を「Photo」フォルダにバックアップする。家やオフィスなど指定の場所に来るとGPS位置情報を検出して写真のバックアップを始める機能や、写真をリスト表示する機能、マップ表示(どこで撮られた写真かで目的の写真が見つけられるように写真を地図上に配置)する機能が用意されているなどよくできている。

 もちろん、こうしてバックアップした写真はSynology上の「Photo」フォルダにあるので、パソコンからファイルとして見ることもできるし、驚いたことにApple TVやAndroid TV、Chromecast用のアプリも用意され、これらを使ってテレビで楽しむこともできる。

 この辺りで、NASをある程度知っている人もお分かりだろう。Synologyは、ただファイルを保管するだけのストレージに止まらず、保管したデータをあらゆるデバイスで利用可能にし、しかも、そのためのアプリのいずれも作り込みが素晴らしいのだ。

 DS Videoを使えば、Synology上に保管してある動画をパソコンはもちろん、テレビやスマートフォン、タブレット、さらにはDLNAという技術に対応したテレビなどでも楽しめるし、DS Audioを使えば音楽をスマートフォン、タブレットに加え、、Bluetoothスピーカーやメディアレンダラー、AirPlay、Chromecast Audioから楽しめるだけでなく、なんとインターネットラジオの機能まである。

 なお、これらの機能は、ただスマートフォンにアプリをインストールすればすぐに使えるわけではなく、Synology側でも設定が必要だ。まず、WebブラウザからSynologyに例のアドレスを使ってアクセスをすると、ちょっと時代遅れ感のあるアイコンのデスクトップ画面が現れる(機能はいいのに、外観には本当にお金をかけていない感じがこの製品のなんとももったいないところだ)。

 デスクトップ上(と言ってもブラウザウィンドウ上)の「パッケージセンター」というアイコンをダブルクリックすると、これがSynology版のApp Store(もしくはGoogle Play)になっており、ここにSynologyのディスク側(サーバ側)にインストールするアプリの一覧が現れる。

 パッケージセンターには、アンチウイルスのサービスから始まり、カレンダーサーバ、チャットサーバ、iTunesサーバ(iTunesの共有音楽として音楽をストリーミング再生できる)、分かる人には分かるVPNサーバーやJava、解析ツール類からWordPressといったWeb出版用のアプリ、Prestashopといったオンライン販売を行うためのアプリも用意されている。これらの豊富なアプリを駆使すれば、自宅に設置したSynologyを、自前のブログやオンラインショップとして活用することも可能になっている。

 このように、Synologyは使い込み始めると、ただのNAS(ネットワークストレージ)ではなく、NASの形をした小型の家庭用/中小オフィス用サーバ、それもスマートフォンにアプリをインストールするくらいの感覚で簡単に活用できる優れたサーバ環境(アイコンなどのデザイン以外は)であることがおぼろげに分かってくる。

 外部に記事を出すサーバとしての機能もあれば中小規模のオフィス向けのコラボレーション(共同作業)サーバとしてのアプリも多く、社内メールサーバとして使える機能やチャットサーバとしての機能、カレンダーや連絡先、ノートやTo-Doリストを共有するためのアプリ、クラウド型のワープロや表計算ソフトのアプリも用意されている。すべてのアプリや機能を紹介していると記事がどんどん長くなるので、興味のある方はSynologyのホームページで詳細を確認してほしい。

●実はNASとしての性能や信頼度もかなりのモノ

 プライベートな写真なども入った家に設置してあるHDDが、インターネットからアクセスできるWebサーバやオンラインショッピングのサーバになってしまうことに不安を覚える人もいるかもしれない。

 万が一、不正アクセスをされたらどうしようという不安はもっともだし、そうしたことに不安を感じる人は、インターネット一般公開系の機能は使わないほうがいいかもしれない。そもそも他のサーバに比べて設定は圧倒的に簡単でも、何か不調があったときのメンテナンスも自分でする必要がある(ちなみにSynologyは、そうしたメンテナンス/監視/診断用のアプリも充実している)。

 テクノロジーが苦手な人向けに書くことを重視している筆者としても、その用途を強く推すつもりはない。ただ、写真や動画で、スマートフォンやパソコン上の空き容量が足りなくなってきたときの解決策として、Synology製NAS、特に今回レビューをした最も手ごろなDS216jはかなり魅力的だ。

 iCloudやDropboxなどのサービスは毎月お金がかかる上に、大容量を確保しようとすると、その月額料金が跳ね上がる。一方、SynologyのDS216jであれば2万円弱で本体を購入でき、別売りのHDD分初期費用はかかるものの、(メールサーバなどの一部のアプリを使わない限り)それ以降の追加料金はかからない。

 そもそもDropboxやGoogleDriveはHDD上のファイルを移動するのではなく、同期しているので空き容量の拡大にはあまり貢献しない(少し難しい「選択型同期」という設定を使えば節約できる)。

 これに対してSynologyなら、利用頻度の少ないパソコン内のファイルをSynology NASに移動しておけばパソコン側の空き領域を増やせるだけでなく、そのファイルをスマートフォンや場合によってはテレビからアクセスすることもできるようになる。また、どこにあるか分からないデータセンターで運用されているクラウド型ストレージサービスでは、大量のデータを扱う際にファイルの転送が延々と続き、待たされることも多いが、Synology NASであれば屋内の高速なネットワークにつながっているので、直接接続のHDDと変わらない感覚で気軽に大容量ファイルをどんどん移動/複製できる。

 さらに、ある程度の信頼性を備えている点でもDS216jはオススメできる。このモデルはHDDを2台収納できる仕様で、2つのHDDの中身を複製して運用するミラーリング(RAID 1)設定にすれば、万が一片方のHDDがクラッシュしてもデータを失わずにすむ。

 この世の中に永遠に使える記憶装置はなく、HDDやSSDも白熱電球と同じように、ある日突然壊れてしまう。ただ、多くの人は、それが予想ができない分、いつか必ず訪れる不幸に何の準備もしないまま「その日」を迎えてしまう。そうなって初めて、まるで旅行先でバッグを盗まれたように不幸を嘆き、それから先数カ間は「そういえばあれもなくなっている、これもなくなっている」と苦しめられ続ける・・・・・・。

 こうした心配をしなくてすむのが、iCloudやGoogle Drive、Dropboxなどしっかりした大企業が管理しているクラウドストレージの魅力とも言える。

 一方、Synology NASはトラブルに自分で対処しなければならないため、上で挙げたクラウドサービスほど安心はできないものの、それでも安価な1ベイ構成のNASよりははるかに安心できる。また、安心感よりも性能を取りたい場合は、複数のHDDに分散して書き込みを行い、書き込み速度を向上させるストライピング(RAID 0)や、さらに多くのベイを搭載するモデルなら、安全と高速を両立したさまざまなRAID構成を選択できる(詳細は公式ページを参照してほしい)。

 このように圧倒的に簡単で使いやすく、詳しくなればどこまでも色々な機能を追加できるSynologyは、ハードウェアの面でも信頼できる技術が使われている。この種のハードウェアは扱いが難しくモノも多いが、Synology NASは優れた使い心地で初心者にもオススメしやすい製品だ(それだけに、外観のデザインやデスクトップ画面のアイコンがイマイチで、見た目の配慮のなさが残念でならないのだが・・・・・・)。

 今、世の中では教育にどうやってITを取り入れていくかの議論が行われている。気が付けば私たちは、ポケット中にあるスマートフォンと自宅/オフィスのパソコンに加えて、インターネットのどこかにある(実物を見る機会がない)巨大なサーバ群を日々利用している。

 そのサーバを実際に家に置いて、実体験として学ぶことは、インターネットの仕組みを知り、さまざまなトラブルを自分で回避する能力を身につける上でも有効だろう。Synology NASは、パソコンやスマートフォンを埋め尽くすファイルのバックアップ先としても十分すぎるくらいに便利だが、実はそうした活用をしながら、少しずつステップアップしてサーバの仕組みを学ぶためのものとしてもかなり有望だと思う。

最終更新:6/24(土) 10:38
ITmedia PC USER