ここから本文です

勝者と敗者が語らう時間 将棋の「感想戦」とは

6/24(土) 10:00配信

AbemaTIMES

 2017年6月20日、現役最年長で元名人、77歳の加藤一二三九段が竜王戦で高野智史四段に敗れ、引退が決まりました。中学生で棋士となってから62年10カ月、数々の記録や伝説を残しました。その日は加藤九段の最後の対局を見守ろうと、朝から報道各社が多数東京・将棋会館に詰めかけていましたが、対局終了後、加藤九段は「感想戦」を行わずに真っ直ぐに帰宅してしまいました。そもそも将棋の感想戦とはどのようなもので、何のために行われているのでしょうか。

早くて10分、長くて3時間

 将棋は、どうやっても勝ち筋がないと悟った側が、「負けました」と降参の意志を相手に伝えて終わります。これを投了と言います。投了後に「ありがとうございました」と一礼した後、お互いに対局を振り返って感想を述べ合うことを感想戦と言います。感想戦は敗者側が「あの時ああすべきでしたね」と反省点を述べながら口火を切るパターンと、勝者側が「この時こうされていたら負けでした」と相手側を気遣い始める場合と、両方のケースがあります。勝負の余韻が冷めやらず、お互い長く沈黙した後やっと始まることも多々あります。

 プロ棋士は指し手が全て頭の中に入っているので、ポイントとなる局面までスラスラと戻し、駒を動かしながら振り返ります。時間は平均して1時間ぐらい。複雑な変化手順を検討したり、なかなか納得がいく結論が出なかったりした場合は、2~3時間になることもあります。しかし感想戦は義務ではありません。あくまで将棋指しにとって慣習となっている儀式です。では、何のために感想戦を行うのでしょうか。

頭と心を癒やす時間

 対局者は基本的に、自分の考えは対局中に明かさず、指し手のみで盤上の対話をしていきます。そのため感想戦で初めて本心が明かされることも多く、観戦記者にとって感想戦を取材することは大事な仕事です。対局者にとっても、盤上では知り得なかった情報を得て、次の対局へ活かす機会でもあります。棋力向上のためには、局後の反省と検討は欠かせません。

 しかしそれよりも大きいのは、気持ちの整理をつけるための時間であることです。対局でヒートアップした頭と心を、指し手を戻しながらゆっくりと鎮めていきます。悔しい気持ちが溢れていても、相手との会話の中で冷静になることができます。

 テレビやインターネットの配信でプロ棋士の対局を見た人は、終局直後お互いに神妙な表情をしているため、どちらが勝ったかわからないと感じたことはないでしょうか。スポーツのように勝者がガッツポーズをすることもありません。どちらかと言えば勝者が敗者に気遣い、一緒に敗因を探して「本来こうすればよかったですね」という勝ち筋を探します。そうすることによって敗者側も気持ちが救われ、前向きに帰路につくことができます。

感想戦は礼節・癒やし・棋理の探求など様々な面があります。戦った者同士が一緒に振り返り、互いを称え合う姿は、まさに日本的な奥ゆかしさのある、将棋にとって大事な文化なのです。

1/2ページ

最終更新:6/24(土) 10:00
AbemaTIMES