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早実の成長を支える元NBAトレーナー

6/25(日) 11:00配信

デイリースポーツ

 夏の甲子園を目指す戦いが、17日に開会式が行われた沖縄大会を皮切りにスタートした。全国的な注目を集めるのが、高校通算103本塁打の清宮幸太郎内野手(3年)を擁する早実(東京)。今春センバツに出場し、昨秋から2季連続で東京大会を制するなど、好成績を収めている。そのチームを陰で支えるのが、小出敦也アスレティックトレーナーの存在だ。過去には米プロバスケットボール、NBAのボストン・セルティックスのアシスタントトレーナーも経験。ナインのコンディショニングやトレーニングを指導している。

 小出氏は早実高等部・中等部全体のアスレティックトレーナー。野球部の専任ではない。昨年7月末に主将に就任した清宮から相談を受け“トレーニング改革”を手伝った。「スポーツをやるにあたっては、正しい姿勢を保てること、正しい体の使い方ができること。よく生徒には『体の動きをコントロールしなさい』と言います」と、基本を説明する。

 変化したのは、ウォームアップと体幹トレーニングにかける時間だ。学校からグラウンドまでは移動に50分。時間の制約もあり、以前は準備運動もそこそこに、すぐボールを使用していた。それを改め、ウォームアップと体幹トレにそれぞれ30分、合計60分を費やすようになった。「たとえば、体幹は練習の最後じゃなくて前にやる。当たり前の準備をやり始めた」という。

 早実には中学での実績がある選手も多い。だが、小出氏は「野球の練習はしているけど、根本的な体の使い方を練習していない子が多い」と感じていた。

 まず、意識させたのは呼吸だ。ストローで息を吐くように横隔膜を大きく動かして肋骨を下げ、腹圧を高める。そうすると力が入るようになって体が安定する。

 正しい呼吸ができて、初めて正しい姿勢が作れる。固めたい関節は固め、動かしたい関節を動かす。腹部や臀部(でんぶ)が安定しなければ、股関節や肩関節を柔らかく動かすことはできない。それは投手、野手を問わず、好選手のフォームに共通するポイントだ。

 また正しい姿勢が保てなければ、トレーニングの効果も得られず、故障の危険も高まる。呼吸→姿勢→トレーニング。この順序をしっかりと踏むことが、早実ナインの順調な成長につながった。

 ある日の投手陣のメニューには、36種目の記載があった。そこから数種目をチョイス。じっくりと時間をかけて消化していった。あおむけに寝転んで手足を上げた選手たちが、息をゆっくり吐き出して姿勢を維持する「デッドバグ」は腰椎付近の強化が目的。メディシンボールを片手で真上に掲げてもう一方の手を地面に近づける「ウインドミル」は、チューブトレーニングよりはるかに効率よく、肩の安定性を増す効果が得られる。

 小出氏はそれぞれの種目の効果と野球のどの動きにつながるかを、ていねいに説明。一人一人の体の特徴や筋肉の付き方を見て、どの種目を多めにすればよいのかも助言する。また「5年前とは全然違うので」と、トレーニングは常に最先端の理論に基づくものに更新。野球部グラウンドにあった古いウエイト器具も、14種類を一気に入れ替えた。

 新チーム結成時に球速5キロ、飛距離5メートル、体重5キロアップを目標にしたスローガン「GO!GO!GO!」を提案した清宮。昨秋以降は「トレーニングの成果が出ているのかな」と、たびたび口にする。スカウト陣からは「丸まりがちだった背中が伸びて、内角もさばけるようになった」という声もあった。あらゆるプレーに通じる基本姿勢が身に付き、打撃のレベルも一段と上がった。

 小出氏が野球部のグラウンドに足を運べる日は少ない。それでも、成長を実感する毎日が、選手が自らトレーニングに取り組む意識の高まりを生んでいる。「基礎的なことをやって『ベースを作ることは大事なんだ』と認識させると自分でやる。自分の体の変化に気付く選手になってもらいたい」と、ナインの成長を願う。

 小出氏は早実中高の運動部に所属する約1700人を1人で担当している。ケガをしてトレーナー室に来る生徒のケアが主な仕事。「安全が守られることが第一」と話し、大会時などは各部の遠征にも帯同する。

 バスケットボールに打ち込んだ高校時代は、故障を抱えながらプレー。「学校にトレーナーがいればいいのに」との思いから、米国留学を決めた。大学で資格を取得し、NBAセルティックスでは3年間チームをサポート。P・ピアースら名選手の成長も目の当たりにした。

 学校専任のアスレティックトレーナーがいる早実は、全国的にも異例。だが、米国では当たり前に近く、7割の中学・高校が採用しているという。プロのトップも知る小出氏が教育現場に身を置くのは「トレーナーがいることで、障害の再発率が下がる。不幸な子を1人でも減らしたい」という理由からだ。

 メディカル系に軸足を置きながら、トレーニングや栄養面も指導。「レベルは別にして、その子がちょっとでもうまくなれば」と、生徒のために日々奔走する。春夏連続の甲子園出場へ-。名トレーナーのバックアップも受け、早実は7月15日に西東京大会の初戦に臨む。(デイリースポーツ・藤田昌央)

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 ◆アスレティックトレーナー 医師や指導者と協力し、選手の健康管理、障害予防、ケガの救急処置、リハビリ、トレーニング、コンディショニングなどを行う。全米アスレティックトレーナー協会の認定資格「ATC」は、米国では準医療資格。

 小出敦也(こいで・あつや)1977年生まれ。千葉県出身。春日部共栄高卒業後、コルビー・ソーヤー大(米国)に留学。同大4年時の99年からNBAボストン・セルティックスに帯同。00年からはアシスタントトレーナーを務める。03年に帰国。大学、実業団、日本代表などバスケットボールチームのトレーナーを歴任し、14年から早実高等部・中等部のアスレティックトレーナーとなった。

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