ここから本文です

キユーピー、機械学習を生かした原料不良検査は「現場力を生かすためのAI」の第1章

6/26(月) 8:10配信

@IT

 食品メーカーのキユーピーは、TensorFlowを使った機械学習によるベビーフードの原料検査を、2017年8月に稼働開始する。検査対象は「ダイスポテト」と呼ばれる、細かなサイコロ切りにしたポテトが中心。カット後に、皮が付着していたり、変色していたり、形状が異なったりしているものを取り除く。

人手では辛い作業を自動化する

 形や色が多少異なるからといって、安全でないというわけではない。だが、「安全だからといって、必ずしも安心につながるわけではない」と、キユーピー生産本部次世代技術担当担当次長の荻野武氏はいう。ブランド価値を維持するためには欠かせない作業、ということになる。

 とはいえ、微細なポテト片が多数、ベルトコンベヤー上を流れてくるなかで、色や形状が多少異なるものを見つけ排除するという作業は、製造業における検査で一般的に使われるマシンビジョンシステムなどでは対応できない。人がやらなければならないばかりか、判断が微妙であるためベテランの人が担当せざるを得ないという。集中力を必要とし、作業者には大きな負荷がかかる。

 「担当者は毎日、大変な思いをしながらやっている。心の中では他のことをやりたいと思っているかもしれない」(荻野氏)。商品の増産をすれば、同じ苦労をする人を増やさなくてはならなくなる。

 この、大変な仕事の自動化を、荻野氏たちは機械学習/AIに関する同社の取り組みの第1弾として選んだ。ちょうど、AIブームが高まってきていたが、「AIは使い物になるかどうか分からない、それなら試してみよう」と考えた。大変な仕事を減らし、現場の人々がもっと生きるようにしたい。そのために、人が培ったノウハウを機械に移植して代行させ、それでも足りない部分があれば、人がサポートすればいいという思いだった、という。

 今回の原料検査システムについては、2016年の夏から検討を開始した。各種の機械学習ライブラリを、性能、汎用性、グローバル性、マルチプラットフォーム性などの観点で比較した。マルチプラットフォーム性については、PCだけでなく、クラウド、組み込み機器などで動かすことを想定した。

 結果として、TensorFlowが優れていると判断。そこで、TensorFlowの生みの親であるGoogleの日本法人であるグーグルジャパンに相談。グーグルジャパンとそのパートナーであるブレインパッドの支援で、プロジェクトが進むことになった。

 「TensorFlowは優れた機械学習ライブラリだが、自由度が高い一方、最適なアルゴリズムを見いだすのが難しい」(荻野氏)こともあり、機械学習に関しては、ブレインパッドに協力してもらうことにしたという。

●「われわれの強みは現場力。AIではない」

 一部では、機械学習/AIに関するノウハウをユーザー企業が自社で蓄積し、自社のコアコンピタンスとして育てていくべきだとする論調もある。だが荻野氏は、「われわれの強みは理念に立脚した現場力であり、AIではない」と言い、今後もキユーピーとしては利用に徹するつもりだと強調した。

 ダイスポテトの検査システムは、ハードウェアを含めた構想を2016年12月に作り、ベルトコンベヤーとカメラ、コントローラ、パソコンを組み合わせたプロトタイプは約2カ月後に完成した。

 機械学習については、上記の通り不良品の識別が難しい点が根本的な課題だったが、これを「逆転の発想」(荻野氏)で乗り切った。つまり、不良品を学習させるのではなく、良品の画像を大量に読み込ませて、「良品とは何か」を学習させることにした。従って、現実のライン上では、「ダイスポテトの良品」ではないものは、全てはじき出すことになる。

 学習作業はクラウド上で、GPUを使った仮想マシンによって行った。学習に要した時間は約10時間。実験段階で、人による検知力を上回る結果が得られているという。

 8月に本格稼働を始めるのは、ベビーフードを製造している工場のうち1カ所。ダイスポテトに加え、数種類の原料を対象とする。その後別の工場にも展開する。

 キユーピーはよく知られている通り、ベビーフードのほかに多様な商品を製造している。原材料の目視検査という大変な作業は、同社工場のあちらこちらで行われている。

 「例えば、自動割卵機で割られた卵に品質上の問題がないかを、1秒間に10個のペースで検査しなければならない」(荻野氏)

 そこで、さまざまな商品の原料を対象に同様な検査システムを開発、さらに自社工場だけでなく、原料サプライヤーでの導入を進めていきたいと、荻野氏は話した。

 当面、機械学習結果の適用は、工場内にパソコンを設置して行う。だが、多数の工場、サプライヤーで使われることになれば、システムの運用・メンテナンスの都合から、適用についてもクラウドで行うようになっていくだろうとしている。「特にグローバルな(日本以外の)サプライヤーでの利用を考えると、クラウドが適していると思う」(荻野氏)

●原料検査から始まるキユーピーの機械学習/AI活用

 荻野氏は、原料検査にとどまらず、今まで解決が難しかった製造現場のさまざまな課題に、機械学習を適用していきたいとしている。

 同氏が例として挙げたのは、「エネルギーコスト低減」「製造現場におけるロボットのティーチングにかかる時間をゼロにすること」「設備の故障予兆診断によるゼロダウンタイムの実現」、そしてこれは製造現場ではないが「商品開発支援」だ。

 では、例えば需要予測に基づく生産計画の最適化についてはどうなのかと聞いてみた。荻野氏は「営業からの生産の要求は、毎日変わるため、毎日生産計画を変えているのが現状。根本原因は、需要予測がうまくできていないことにある。そこで、精度の高い需要予測モデルをどうしたら作れるかを検討している。需要予測に基づいて生産計画を立て、配送計画につなげられるようになればいいと考えている」と答えた。さらに生産計画と、例えば気象情報などから予測する野菜の相場との兼ね合いから、最適なコストで原料の調達を行うといったことも、可能性として考えられるという。

 荻野氏は、キユーピーの企業価値の本質が、理念に立脚した現場力にあると強調した。そして機械学習/AIは人にとって代わるというわけではなく、知的作業における判断の支援や高速化を実現し、現場の人々の能力をさらに引き出すことができる、と説明した。

 「人間にあってAIにないのは心であり、特に人のため、社会のために貢献する目的を持つ心、『志』だ。現場力とAIを掛け合わせることで、企業価値を強化し、最高の顧客価値を創造していきたい」

最終更新:6/26(月) 8:10
@IT