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経営者の責任は、株主の利益以外にもある

6/26(月) 11:03配信

ニュースソクラ

【緑の最前線(41)】私的利益から公的利益への転換 世界的な動きに

 「企業は誰のものか?」→「株主のものだ」、「経営者の責任は何か?」→「株主に最大利益をもたらすことだ」。

 こんなアメリカ型の企業経営がつい最近まで世界を席巻してきた。日本でもバブルが弾けた1990年代に入った頃から「倫理と経営」を両立させてきた伝統的な日本型経営を捨て、株主第一主義、利益至上主義のアメリカ型経営に転換する企業が続出した。

 バブル崩壊前の日本企業は労使協調路線を重視し、解雇はなんとしても避けたいという日本独特の企業風土があった。だが、経済が長期低迷し、「失われた20年」が始まった90年代初め頃から、国際競争に生き残るため、企業は余剰労働者の大量解雇に踏み切らざるをえない状態に追い込まれた。

 日本企業がアメリカ型経営へ雪崩を打って転換したのは、「解雇はしない」という企業風土から抜け出す口実に利用できたためだ。

 余剰労働力が経営の足を引っ張り、利益追求の足枷になるようなら労働者の解雇に踏み切ればよい。労働者は企業に大切な存在だが、製品づくりやサービス提供のための一部品に過ぎない。米国企業は昔から景気が良くなれば雇用を増やし、不況になれば解雇することがごく普通に行われてきた。

 余剰労働力の解雇のためにはアメリカ型経営にシフトすればよい。こんな時代の空気が日本企業に浸透した。日本だけではなく欧州、中国、東南アジア諸国などを含め、世界中の企業に伝播し、アメリカ型経営が先進的な経営スタイルだとする風潮が広がった。

 しかし利益至上主義は一方で深刻な環境破壊、資源浪費、幼児労働や長時間労働の強制、さらに利益をあげるためには法律違反にも目をつぶるなどの弊害が目立ってきた。さらに国全体でみると、貧富の格差を拡大させ、社会不安を増幅させる原因にもなっている。

 この数年、特に企業の法律違反が目立つ。例えば原発事業の失敗を隠蔽するための東芝の粉飾決算、三菱自動車やドイツのフォルクスワーゲンに見られたような排ガス規制のデーター改ざんなどは氷山の一角といえるだろう。

 さらに昨年のイギリスのブレグジット(EU離脱)やアメリカのトランプ大統領の登場の背景には、貧富の格差拡大で両国の良心、民主主義を支えてきた中産階級の没落、疲弊が指摘できるだろう。

 このような利益至上主義の企業行動を是正するため、国連のコフィー・アナン事務総長(当時)は2006年に企業の身勝手な投資行動を律するための責任投資原則(PRI)を発表し、世界の機関投資家や金融機関に賛同を呼びかけた(金融イニシアチブ)。

 PRIは経済に加えて環境(E=Environment)・社会(S=Social)・ガバナンス(G=Governance)を投資判断の重要要素に掲げている。このため、3つの頭文字をとってESG投資と呼んでいる。当初は数十機関の参加にとどまっていたが、今や世界中で1370を超える機関が賛同し、影響力を増している。

 環境に熱心な欧州を中心に発展し、全世界での運用資産は約2300兆円まで拡大している。日本の投資家のESG投資は株式や債券など合わせて46兆円程度に達している。

 世界の公的年金の間でもESG投資を増やす動きが広がっており、日本でも年金積立金監理運用独立行政法人(GPIF)も、20年以降の温暖化対策を定めた「パリ協定」の後押しもありESG運用を検討中だ。

 国連は15年9月の国連サミットで、2030年までに地球環境の悪化を食い止め、貧困や格差問題を解決するため「持続可能な開発目標(SDGs=Sustainable Development Goals)」として17分野を定めた。この17分野の目標を達成するためにも、ESG投資が果たす役割はますます重要になってきている。

 環境破壊、資源枯渇など地球の限界が露になってきた今世紀、企業はアメリカ型の利益第一主義では存続が難しくなっている。これからの企業は、「わが社は世のため、人のためになにができるか」を絶えず問い続けなければ生き残ることができなくなるだろう。ESG投資の拡大は、企業の「公共財的役割」が強まっていることを示していると思う。

■三橋 規宏:緑の最前線(経済・環境ジャーナリスト、千葉商科大学名誉教授)
1940年生まれ。64年慶応義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、科学技術部長、論説副主幹、千葉商科大学政策情報学部教授、中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長等を歴任。現在千葉商大学名誉教授、環境・経済ジャーナリスト。主著は「新・日本経済入門」(日本経済新聞出版社)、「ゼミナール日本経済入門」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)、「サステナビリティ経営」(講談社)など多数。

最終更新:6/26(月) 11:03
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