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高齢の医者に認知能力の検査をすべきか

6/26(月) 15:27配信

ウォール・ストリート・ジャーナル

 小児科医のロバート・ブラウン医師(71)は今年2月、悩ましい電子メールを受け取った。勤め先であるニュージャージー州のクーパー大学病院から、72歳以上の医師は身体的・精神的な健康状態を調べる検査を受けなければならず、受けなければ医師としての権利を失うと告げられたのだ。

 ブラウン医師は「私が診療できないなどと言うとは、何さまのつもりだ?」と思った。怒りの返信をしようとしたが、いったん気を静めた。自分の能力を省みるとともに、大学病院の新たな方針について考えを巡らせた。医師の能力とは何か、それはどうしたら計測できるのか。

 高齢の医師の精神的・身体的能力を勤務先の病院が検査することは、以前より一般的になりつつある。米国医師会(AMA)によると、医師の4分の1近くは65歳以上で、うち40%が患者の診療に直接携わっている。AMAの専門家は、患者にリスクが及ばないよう、医師が検査を受けることを推奨している。AMAの作業部会は、指針を出すことを検討している。

 多くの医療機関が近年、医師の年齢に関わる方針を策定している。クーパー大学病院のほか、カリフォルニア州パロアルトのスタンフォード・ヘルスケア病院、テキサス州コーパスクリスティのドリスコル小児病院、バージニア大学ヘルス・システム病院もそうだ。狙いは認知能力の低下や認知症の兆候などを見つけることにある。

 一部の高齢の医師が怒る一方、こうした検査が公正か、科学的に妥当か、また年齢差別ではないのかといった疑問が持ち上がっている。

 スタンフォード大学病院でかつて医長を務め、同病院で年齢に関する検査の取り組みを監督しているアン・ワイナカー教授(66)は「この方針は気の弱い人には向かない」と語る。

 一部の医師たちは過去5年間、年齢に基づくこの方針に異議を唱え、屈辱的で差別的だと主張してきた。高齢の医師たちは認知能力の低下を調べる検査をスタッフに破棄させたこともある。大半は検査を拒否した。乳がんの専門医であるフランク・ストックデール医師(81)もその1人だ。

 病院側は譲歩するどころか、「後期キャリア医師に関する方針」の一部を強化した。この中には、75歳以上の医師が同じ職場の同僚から査定を受けることが含まれている。これに反対する医師グループを組織したストックデール医師は、なぜ高齢の医師だけでなく全ての医師にこの方針を適用しないのかと疑問を投げかける。

 同医師は、反対グループの医師たちが医療に大いに貢献してきたと指摘する。一人は、ある種のがんの治療法発見に関わったし、別の医師は遺伝子工学の先駆者だ。腫瘍専門のソール・ローゼンバーグ医師(89)は50年以上前、スタンフォード大学の放射線科医とともにホジキンリンパ腫の治療法を確立させた。ホジキンリンパ腫はリンパ節のがんで、当時は致死率が100%だった。

 ローゼンバーグ医師は「私は非常に高齢だが、自分の知っていること、知らないことが何なのかは分かっている」と話し、今も患者の診察を行う。「病院が医師としての権利を私に使いにくくするとは、実に腹立たしい」

 同医師によると、自分より若い同僚の中に「アルコール中毒や薬物中毒の医師」がいる。だが、この病院が特別な検査の対象にしているのは高齢の医師だけだ。

 こうした声に対し、年齢に関する方針を監督するワイナカー教授は、こう語る。「われわれの病院には世界屈指の医師もいる。だが加齢の影響を受けない人はいないし、多くの人は年を取るに従って機能が低下する。批判的な思考能力や複雑な問題の解決能力が落ちる場合もある」

 比較的若い医師については「能力低下の懸念が生じたとき」検査を求める方針が存在するという。ただ、全ての医師を検査するという考えは現実的でないと付け加えた。

 同教授によると、軽度の認知障害がある高齢の医師はそれを認識していないことが多く、同僚の医師も報告しない。AMAの副代表が率いるグループは専門誌に昨年掲載された論文で、各種研究を引用し、「医療従事期間が長くなることと知識が減ることとの関連性」を示したほか、「診断・予防・治療において、証拠に基づく標準療法を順守する割合が下がり、患者により悪い結果がもたらされる」と指摘した。平均すると知識は時の経過とともに減っていくことが分かっているが、状況は個々の医師によって大きく異なるとも述べた。

 一方、英国医師会雑誌(BMJ)に5月に掲載された研究は、入院患者の治療結果に着目した。これによると、60歳以上の医師による治療を受けた患者の死亡率は、40歳未満の医師による治療を受けた患者より高いことが分かった。例外は、診療する患者の数が多い医師で、患者の死亡率に年齢関連の差がなかった。

 だが、この研究論文の主執筆者であるハーバード大学医科大学院のアヌパム・ジェナ准教授(38)でさえ、年齢で仕事ぶりを測るのは「荒っぽい」と述べ、全ての医師の結果を分析すべきだと主張する。

 ジェナ准教授は、精神的能力を重視することにも疑問を唱える。結果が悪いのはスキルが時代遅れだからであり、医師が認知症だからではないと指摘する。「病院は高齢の医師に着目すべきだが、それは認知能力が落ちているからではなく、現在の治療法になじみが薄いからだ」

By Lucette Lagnado