ここから本文です

2050年、この世はどうなる? 英『エコノミスト』が予測

6/27(火) 8:10配信

ITmedia ビジネスオンライン

 鋭い分析と予測に定評のある英『エコノミスト』誌が、今度は2050年のテクノロジーを予測した。『2050年の技術 英『エコノミスト』誌は予測する』(以下、2050年の技術、文藝春秋)は、AI(人工知能)、自動運転車、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、軍事、エネルギー、農業、医療など20の分野での2050年の技術と、それが社会・経済に与える影響を展望した意欲作だ。

【『2050年の技術 英『エコノミスト』誌は予測する』の著者は何を語ったのか】

 日本での出版を機に、この調査の指揮をとった同誌編集局長のダニエル・フランクリンが来日。以下は同氏が早稲田大学ビジネススクールの菅野寛教授と行った、パネルディスカッションの要約である。

●ミドルスキル層の仕事

菅野: 『2050年の技術』の中で紹介されている、破壊的かつ大規模な技術の変化「メガテック」が、日本にどんな影響をあたえるかについて考えていきたいと思います。

 例えば私は、ミドルスキル層の仕事が、AIを始めとする新しいテクノロジーで置き換えられてしまう可能性について懸念しています。勤勉で教育水準の高いミドルスキル層の厚みこそは、日本の成功モデルの核でした。そうした人々の仕事がなくなることは、大変恐ろしい事態のように思えます。

フランクリン: 憂慮すべき点は確かにあるように思いますが、少し私の観測を述べさせてください。第1に、新しいモデルについて懸念を抱いているのは日本だけではないということです。例えばドイツでは今、「Industrie 4.0(第4次産業革命)」と題した大規模なプログラムを進めています。日本と同様に、自分たちの過去の成功モデルが通用しなくなるかもしれないという危機感を持っているからです。米国でトランプ大統領が誕生したのも、やや後ろ向きではありますが同様の理由ですし、中国も経済成長が減速する中で、現状のモデルを変えなくてはいけないのかという懸念を抱いています。

 一方で、インドやアフリカのような、近年急速に発展している、あるいはこれから発展するであろう国々は、真似ができるモデルの不在に悩んでいます。中国や日本の真似をすればいい、という時代は終わりました。なぜなら、それらは未来のモデルとは違うからです。つまり世界中のどの国も、新しい時代のモデルに不安を抱いているのです。

 次に述べておきたいのは、現代の競争の主体は、国同士ではなく企業や個人だということです。教育政策や産業規制など、国の政策についていろいろ議論することも大事ですが、もう少し身近なレベルというか、例えば個人の生産性の向上のようなことに目を向けることは有効だと思います。

 そして3番目に言いたいのは、さまざまな新しいテクノロジーが変化のスピードを加速するということをしっかり認識した上で、過去の成功体験にとらわれないチャレンジをすることと、これまで築いてきた自らの強みをさらに磨くこととのバランスを上手にとるべきだということです。特にテクノロジーの分野では、日本には誇るべき過去の蓄積がありますし、研究開発に力を入れる文化はどんな環境下でもアドバンテージになるでしょう。

●オープンになれ

菅野: 開発した新しいテクノロジーを、どう事業化するかについてはいかがでしょう。社内をどう動かすか、あるいは事業化に強い人物をどう確保するか、という問題にもつながってくると思いますが。

フランクリン: なぜシリコンバレーがうまくいっているのかを考えてみましょう。そこにはある種の強力なエコシステムがあるんです。お金を出すベンチャーキャピタルがあって、最先端の研究をしている教育機関があり、人々が組織や専門分野の垣根を超えて意見を交換している。そういうところでいいアイデアが登場すれば、支援者やお金があっという間に集まりますよね。リスクを取りに行く文化が人々の間にあることも重要です。

 居心地のいい会社の環境の中で、自分のサイロ(コンクリートなどでつくった貯蔵庫)の中にこもっているのは危険です。技術革新や創造性を得るには、自分の周りの壁を壊していかないといけない。経済学者、シュンペーターが言うような「創造的破壊」が必要です。

菅野: かつて日本でも、そうした環境が整っていたことはありました。社内では社員同士が連帯感を持ちながら協力し合い、会社は短期の利益を追わず、長期的視野に立った投資をしていた。いわゆるペイシェントマネーですね。そういう空気は今も日本企業の中にあると思います。

 一方で、オープンイノベーションの時代には、社外にもオープンにならなければいけない。それが日本の企業にとってはなかなかチャレンジングなんです。

フランクリン: オープンになれというのは、私が一番伝えたかったメッセージです。確かに、文化を変えるのは難しい。でも日本の歴史を振り返れば、必要が生じたとき、日本という国は非常に劇的な変化を遂げてきました。それも日本の強みだと思います。きたるべき新しい産業革命を原動力にして、日本の産業がさらに発展を遂げることは可能だと思います。

●就労年齢が伸びるかもしれない

菅野: そう願いたいですね。AIが仕事を奪うという話をしましたが、もしSFで描かれるように、テクノロジーの進化で人間が働かなくてもよくなれば、資本主義はどうなるのでしょう。

フランクリン: これまでたくさんの議論が交わされてきたテーマですね。私の考えでは、何らかの形でベーシックインカムのような制度を導入することは必要だと思います。理屈の上では、テクノロジーによって消える仕事がある一方で、新しい仕事も生まれてきます。聴衆のみなさんの大半は、農業が産業の主力だった時代には存在しなかった仕事についているはずです。

 でも実際には、そうスムーズにことは運ばないでしょう。新しい仕事が生まれるとして、仕事を失った人が暮らす地域にその働き口ができるとは限りませんし、その仕事に必要なスキルをすぐ身に付けられるのかという問題もあります。新しく登場する強力なテクノロジーに世界はいずれ対応するでしょうが、その過程では混乱が起きるかもしれません。

菅野: 一方で日本にとっては、人間が働かなくてよく、最低限の収入は保証される時代の到来は、少子高齢化問題の解決策にもなりえます。

フランクリン: 確かにその通りですね。日本の少子高齢化は、先進国中最速のペースで進んでいます。ヘルスケアや高齢者ケア、企業組織のあり方など、日本はこの先何十年か、高齢化社会への対応に関して世界をリードしていく存在になると思います。

 とはいえ、私はテクノロジーが新しい有閑階級(財産があるので働かなくても、社交や娯楽などに費やすことができる階級)を作るどころか、むしろ就労年齢を伸ばすことになるかもしれないと思っています。テクノロジーの助けを借りれば、年をとっても働き続けることがより容易になるからです。それはそれでいいことかもしれません。私自身はできれば、老後はのんびり過ごしたいですが(笑)。

●所有と共有が入り混じった世界

 パネルディスカッションの後、来場者との質疑応答が行われた。

――「ストックからフローへ」という大きなトレンドの中で、将来は人がモノの所有に固執しなくなるのではないでしょうか。そうなると、資本主義のシステムそのものも大きく変わってしまうと思うのですが。

フランクリン: いい着眼点ですね。シェアリングエコノミーはすでにドラマチックに成長していますし、若い世代ではクルマを持つことが以前ほど重要ではなくなっているなど、所有についての人々の感覚も変わってきています。では、その先にあるのは資本主義の崩壊なのか、それとも必要と思うモノは所有し、そうでないモノは進んでシェアするという、所有と共有が入り混じった経済システムになっていくのか。

 その答えを知るには、経済というよりは社会学、あるいは人間の性質といった側面に目を向けたほうがいいように思います。例えば、すばらしい美術館で絵を見ながら、「この絵が欲しい!」と思うことはありますよね。美術館に行けば見られるモノを、なぜ所有したいと人は思うのか。おそらく、所有と共有が入り混じった世界に私たちは向かって行くのではないでしょうか。

――社会が変化していく中で、学校や教育システムはどう変わるのでしょう。

フランクリン: 今の教育の基本的なモデルは、教室に学生や生徒が机を並べて座り、教師がすべての情報を一斉に伝授するというものです。そうした光景は、遠からず時代遅れとなるでしょう。例えば、基本的な知識はそれぞれがコンピュータを使って自習し、その後応用的な知識を教師がフォローする、といった形の教育実験がすでに始まっています。

 学齢期だけでなく大人になっても、必要に応じて学び続けることになるでしょう。テクノロジーの進化に伴い、必要とされるスキルはどんどん移り変わっていきますし、キャリアパスも昔よりはるかに多様になるだろうからです。自発的に学ぶ力、授業に限らず多様な手段で学ぶ力も、重要になってくると思います。

●テクノロジーが担う役割は部分的

――新しいテクノロジーは、世界の貧困問題や食糧問題を解決してくれるのでしょうか。

フランクリン: 途上国の疾病対策をはじめ、テクノロジーが大いに貢献する分野はあると思います。一方で、テクノロジーが担う役割はあくまで部分的なものです。こうした問題の解決には、政府や公共機関が賢明で責任のある政策をとることのほうが、はるかに重要だからです。

 テクノロジーという観点だけでなく、社会的な観点を取り入れることで、有益な解決策が見つかるかもしれません。例えば『2050年の技術』の中で実業家のメリンダ・ゲイツは、世界のすべての女性がスマートフォンを持てば、どんなことが起きるかを想像しています。孤立し、情報から隔絶されているために不利な境遇にある途上国の女性たちが、健康や家計管理に関する情報にいつでも触れられるようになればどうなるか。途上国では農業の主な担い手でもある彼女たちが、農業知識や作物の売り時といった情報を得られるようになれば、大きな変化が訪れるかもしれません。このように、今すでにあるテクノロジーも、応用次第で貧困問題の解決に貢献できる可能性を秘めています。

――未来を予測することには常に困難が伴います。ビジネスリーダーが意思決定を迫られるような場面で、何を頼りに進むべき道を判断すべきだと思いますか。

フランクリン: 何より、未来が何をもたらしても恐れない、オープンな心を持つこと。そのための心の準備体操になればというのも、『2050年の技術』を作った目的の1つです。

(川口昌人)